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手紙の大半は、エブリンから送られたものだった。しかし、明らかに別人が差し出したと思われる手紙が数通混ざっている。
「……なるほどな」
ディランは手紙を読みながら冷たい目で笑った。
「『貴女を責める者たちは、貴女の苦しみを何も理解していません。貴女が受けた仕打ちを、どうして許さなければならないのでしょう』……か。一見、エヴァレットさんの苦しみや悩みに寄り添っているように見えるね。でも……」
「実際は、肯定という名の憎しみの育成だわ」
エリオットの言葉に続いてヴェロニカが表情を歪めながら呟く。
「そうやって孤立させて、信者たちを自分たちの思想に引き込んでいるわけか……」
グレゴリーも小さな息を吐いて、読んでいた手紙を投げるようにテーブルの上に置いた。
「もし私が、あの頃にこの手紙を読んでいたら…私もどんな選択をしていたか、自分でも分かりませんわ……」
ジゼルがそう言うと、捜査局の雰囲気はまた一段と重くなった。
「人の弱いところを利用しようとしていたんだね、こいつらは」
「えげつねぇな」
エリオットとディランが嫌悪を滲ませた。ヴェロニカも手紙から顔を上げて、皆に問いかける。
「じゃあ、聖月教会が黒幕ってこと?」
アーネストがすぐに反応して「いや……」と、否定した。
「それはまだ断定できない。むしろ、今朝その聖月教会から連絡があった」
「教会から……?」
「あぁ。エブリン大神官からだ」
その名前を聞くと、ジゼルの胸がぎゅっと苦しくなった。
「昨日ルーカスを拘束した件について、話がしたいそうだ。ジゼル、アシュクロフト。お前たち二人を指名している」
アーネストの紫色の瞳がジゼルとディランへ向けられる。ジゼルはつい言葉に詰まり何も返せないでいたが、ディランは冷笑を浮かべて言った。
「へぇ。ちょうど話を聞きたいと思っていた人物からご指名とは、随分とタイミングがいいな」
ディランのその言葉に、ジゼルはすぐに反応する。
「エブリン大神官を疑っていますの?」
「疑うのが俺たちの仕事だ」
ディランの厳しい表情が目に入る。ジゼルは、過去のディランの言葉を思い出した。
『人柄と無実は別だ。いい奴でも罪を犯す奴はいるし、嫌な奴でも罪を犯さなければ犯人じゃねぇ』
ジゼルはそれ以上何も言えなくなり、ディランから視線を逸らすように目を伏せた。
「……分かっていますわ。貴方が私に教えてくれたことですもの」
そう言葉にすると、ジゼルの胸の奥に苦い感情がじわじわと広がっていった。ディランはそんなジゼルを真っ直ぐに見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。
「よし。行くか」
二人は聖月教会へ向かうこととなった。
ジゼルとディランが聖月教会に到着すると、教会の正門の前に神官が立っていた。どうやら二人を待っていたようで、人目を避けるように、普段とは違う入り口から応接室へ案内された。
二人が案内された部屋へ入ると、エブリンはこちらを振り返り優しい微笑みを浮かべながら歓迎した。
「ようこそいらっしゃいました。美味しいお茶とお菓子を準備しています。どうぞ、おかけください」
その言葉に促されてジゼルがエブリンの対面にあるソファーへ腰を下ろそうとする一方、ディランは立ったまま動かなかった。
「座らないのですか?」
エブリンが少し寂しそうに笑ってディランに問うと、ディランは彼女に鋭い視線を向けながら答えた。
「仕事なんでね。何か入ってるかもだし、茶はあんたの話を聞いてからにしますよ」
そう不敵に笑うディランに、ジゼルは気まずそうに下ろした腰を再び上げる。
(疑いまくっていますわ……)
不躾な態度のディランに、エブリンは気分を害した様子はなかった。それどころか、感心した様子だ。
「貴方は良い捜査官なのですね」
「どうも」
それでもエブリンはもう一度、今度は手でソファーを指し示しながら着席を促した。
「お茶を飲まなくてもいいです。けれど……座ってください。立ったままでは、落ち着いて話すこともできません」
そう言われたディランはエブリンの表情から何かを探るようにじっと見つめていたが……小さく息を吐いて、言われた通りにソファーへ腰を下ろす。
ジゼルも慌てて、ディランの隣に改めて腰を下ろした。
エブリンはディランに断られたお茶を一口啜ると、口を開く。
「昨日、ルーカス神官が魔法犯罪捜査局に拘束されたと聞きました」
彼女はディランの性格に合わせてなのか、回りくどいことはせず、本題から切り出した。
「そして、彼が所属していた地方教会が捜査を受けたことも……」
「随分と情報が早いな」
「私、これでも大神官ですからね」
エブリンは笑って、ディランを見る。しかし、その笑顔は、すぐに無表情と切り替わった。
「我々もずっとルーカス神官の動向に注視していましたから」
エブリンの言葉に、ディランは少し身を乗り出した。
「どういう意味だ?」
ディランの視線に耐えかねたように、エブリンは俯いた。その表情はまるで、葛藤するかのように苦しそうだ……
「……貴方たちは、どこまで知っていますか?」
しばらく間をあけて、エブリンが再び口を開いた。
「エブリン大神官……貴女、なにを知っているんですの?」
ジゼルの中に、『まさか』という気持ちが溢れてくる。エブリンは何かを知っているような口ぶりだ。まさか、本当に一連の事件にエブリンが関わっていたのだろうか?
「教会の上層部の意思で表沙汰にされていませんが、実は、聖月教会には内部に巣食う闇があります」
ジゼルとディランは黙ってエブリンの言葉に耳を傾けていた。
「教会内部には一部、『過激派』と呼ばれる集団がいます……」
普段は優しく温かな光を宿すエブリンの瞳の奥に、明確な怒りが渦巻いていた。




