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「な、なんでここにいますの⁉︎」
「お前が宿の外に出ていくところが見えたから」
「皆さんと楽しく飲んでいたんじゃ……」
「俺が好きな人を夜に一人で歩かせる男に見える?」
『好きな人』……涼しい風のおかげで冷めてきたジゼルの体が、再び熱くなる。でも、素直になれないジゼルは、思わずそっぽを向いてしまった。
「い、今さら私に構おうったって……」
「食事中もずっと拗ねてんなって気にしてたのに……なんだよ、お前ヤキモチ妬いてたのかよ」
ケラケラと楽しそうに笑うディランに、核心を突かれてしまい、ジゼルは恥ずかしい気持ちで口をパクパクとさせていた。
(告白してきたのはディランの方なのに、どうしてこの男はこんなにも余裕そうですの……)
ずっといつ返事をしようとタイミングを伺っていた自分が、とても恥ずかしく思える。
ジゼルはこんな酔っ払い男なんて放っておこうと宿の中へ戻るために、ディランに背を向けた。
「戻んの?」
「出てみたら寒かったので、散歩はやめにしますわ!」
ジゼルが怒り口調で返す。するとディランはニッと笑って、後ろからジゼルの手を握った。
「なっ……⁉︎」
驚いて振り返ると、すぐ目の前にディランが立っていたからさらに驚いた。
「今の俺の手、暖かいだろ?」
その笑顔に……文句を言おうとしたジゼルは、思わず口を閉じる。
「ま、まあまあですわ」
ジゼルが素っ気ない返事をすると、ディランは彼女の手を引いて夜の町中へと歩いていった。
この時ばかりは、ジゼルも大人しくディランに手を引かれた。
田舎町の夜道は、思ったよりも賑やかだった。いくつかの酒場が建ち並ぶ小さな通りには、酒を片手に談笑する大人たちの声が飛び交っている。
「どこも酔っ払いばかりですのね……」
夜会や格式のあるパーティーしか知らなかったジゼルは、平民たちの暮らしぶりが新鮮だった。
「平民も貴族もそう変わんねーよ。酒を飲めば、皆酔っ払う」
ジゼルはディランの手の温もりを感じながら、隣を見上げた。
「ディランも酔っ払いですの?」
「ん? 俺はー……酔いも醒めてきたな」
二人で手を繋いだまま通りの道を歩いていく。どちらも手を放すことはなかった。
「お前……結構焦らすよな」
「え?」
ディランが突然足を止めたので、ジゼルも数歩先で足を止めて振り返る。
「俺、ずっと待ってんだけど」
そう言ったディランの目は熱を孕んでいる。まるで自分を求めるような目付きで見下ろされると、ジゼルの胸の奥がざわざわとこそばゆい。
ジゼルの答えはすでに決まっていて、ずっとタイミングをうかがいながらディランに何と言うか頭の中で何度も練習したというのに……いざとなると、言葉が詰まるのは、なぜだ。
「なあ、ジゼル」
けれど、目の前の男はもうジゼルを待ってくれないようだ。繋いだ手を引かれて、ジゼルはディランの元へ一歩引き寄せられてしまう。
「わた、私……」
高鳴る心臓の音がうるさい。目の前で、自分の答えを今か今かと待つこの男のことが……そして、余裕な素振りを見せて、実は彼の握った手にわずかに力がこもっているところなんて、ジゼルはたまらなく愛おしいと思った。
ジゼルはこれまで何度も、アレクシスに愛を伝えてきた。
「私も……これからもずっと、ディランの隣に立ちたい」
知らなかった。愛を伝えるのが、こんなにも勇気がいることだったなんて。
「貴方のことが、好きですわ」
するとディランは嬉しそうに笑って、ジゼルを抱き上げた。ジゼルは驚いて、思わず小さな声を上げる。
「キスしていい?」
「そ、そういうのは雰囲気でいってほしいですわ!」
ジゼルが照れ隠しに高飛車な態度でそう言うと、ディランが顔を近付けてきた。
彼の青灰色の毛先が、ジゼルの鼻先をくすぐった。
そして、二人の唇がそっと重なった。ジゼルの肩を優しく掴むディランの大きな手は、繋いでいた時よりも熱く感じた。
ジゼルはこれが、初めてのキスだった。だってこれまで、キスは結婚式の日までとっておくものだと思っていたし……
だから、知らなかった。
(ディランの唇って、こんなに柔らかいんですのね……)
ジゼルはそんなことを考えながら、ゆっくりと目を閉じていった。
少しして唇が離れると、ジゼルは再び目を開く。ディランの綺麗な青い瞳とすぐに目が合った。
二人は照れくさそうに笑い合って……ジゼルは、何だか周りからの視線を感じ、ハッと顔を上げて周りを見た。
すると、さっきまで飲んで騒いでいたはずの村人たちが、にやにやと笑いながらこちらを見ている。ジゼルは彼らと、ばっちり目が合った。
「これから、仕事も人生も相棒としてよろしくな!」
周りの目なんて気にも留めないディランが、最高に眩しい笑顔を浮かべながら言った。
ジゼルは見られていた羞恥心から、顔だけでなく首から鎖骨まで、白肌を赤く染めていく。
酔っ払いたちは再び騒ぎ出し、ジゼルとディランにからかい交じりの祝福の言葉なんて掛けてくる。
誰かが指笛を吹いて、囃し立てていた。
(こんなの、こんなの……)
ディランは楽しそうに手を上げて、祝福する村人たちにお礼を言っている。
「雰囲気も何も、あったものじゃありませんわー‼︎」
欠けた月の下で、ジゼルの雄叫びが騒がしい田舎町に響き渡った。




