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ジゼルは濡れた赤い瞳を細めて、自然と笑顔を浮かべた。
「貴方はずるい人ですわ……」
そんなジゼルを見つめていたディランも、眩しそうに目を細めて……
「そんなことを言われたら……頑張ってきてよかったって、思ってしまうじゃありませんの」
ディランは少しの間、言葉を失った様子でジゼルの笑顔を見つめたまま……やっと、口を開く。
「今言うことじゃないかもだけど……」
ディランが何を言おうとしているのか分からず、ジゼルは僅かに小首を傾げた。
(多分、これまでも自分でなんとなく分かってたんだよな……)
博覧会の前日祭でジゼルが俯いているのが堪らなく嫌だと思った夜も。アレクシスの前で縮こまるジゼルが気に食わなかった昼間も。絶対に王室マドレーヌを超えるものを探してやると意気込んだデートの日の朝も。
「俺、やっぱりお前のこと好きっぽいわ」
いつの間にか、ジゼルに惹かれていた。
あまりにも自然なことだったから、今まで気づかなかった。
ジゼルはとても驚いた表情で固まり、そしてすぐに顔を真っ赤にさせていた。
「ほ……本当に、なんで今言うんですの⁉」
ディランは可笑しそうに笑った。
「いや、悪ぃな。今、自覚した」
ディランは、これからもジゼルの笑顔を誰よりも近くで見ていたいと……今、はっきりと願ってしまったことに気付いたから。
驚きすぎてすっかり涙が引っ込んでしまったジゼルは、赤い顔のまま考え込んでいたかと思えば、警戒した様子でディランに尋ねた。
「そ、それは……相棒として、などではなくて……?」
「多分、違う……」
いつもは淡白なディランの青い瞳に熱がこもり、眩しいほどの爽やかな笑顔を浮かべていた。
「だって俺、今お前のことすげー可愛いと思ってるからな」
その言葉に、ジゼルは言葉を失い、固まってしまった。
「仕事を頑張って、過去から逃げず、面倒くさい性格で、高慢で、世渡り下手で……それでも不器用に自分の人生を生きようとしているところ、めちゃくちゃ可愛いわ」
かなり悪口もあった気がしたが、ジゼルは今、それどころではなかった。
爽やかに笑っていたディランは口を閉じ、今度は優しくも大人の色気のある表情で微笑んでみせた。
「俺、これからの人生をジゼルの隣で生きてみたいんだけど……お前はどう?」
「わ、私は……」
ジゼルは狼狽えるあまり、すんなりと言葉が出なかった。ジゼルもディランと同じ気持ちだ。でも……
ジゼルは口を開く。しかし、返事をする前にディランはジュリアンに呼ばれてしまった。
「あー……ちょっと行ってくる。ジゼルはまだ休んでおけよ」
ディランも少し残念そうな表情を浮かべて、ジュリアンのいる執務室へと駆けていった。
その後ろ姿を見つめながら、自分でも驚くほど心臓が高鳴っていた。
(どうして殿下の時とこんなにも違いますの……?)
こんなに、落ち着かない気持ちになるなんて。
過去のアレクシスへの恋心は、いつ抱いたかも分からないほど、とても静かに始まっていた。
それなのに、ディランへの恋心は……
(…ああ。そうなのね)
目を細めてディランを見つめると、ジゼルの心臓がぎゅっと締め付けられる。
(殿下との恋は、貴族の義務から生まれた恋心だった)
ジゼルはこの時、はっきりと分かってしまった。
(ディランとの恋は、何者でもない私自身から生まれた恋心だったんだわ……)
もうくよくよ悩み続けずに、過去の自分を許してあげよう。欠点だらけの自分を認めてあげよう。
ジゼルの好きな人は、そんな自分を好きだと言ってくれているのだから……
◆
その日は、捜査を終えた時はすっかり陽が落ちていたため、田舎町にある宿で一泊することになった。
ジゼルはディランに告白の返事を返せないまま、魔法省の皆で夕食を終えて、自分の部屋に戻ってきてしまった。
(酒飲みたちは、まだ下で騒いでるわ……)
ジゼルは呆れた顔で息を吐くと、寝支度を整えていった……いや。
(このまま寝るなんて、何だか悔しいんじゃありませんこと⁉︎)
ジゼルは謎の怒りを燃やして、夜着の上から薄手の上着を羽織ると、食堂のある階下へと降りて行った。
ディランは相変わらず、酒を片手にジュリアンたちと楽しそうに話している。
「……」
ジゼルはしばらく、ジト目でディランの背中に視線を送り続けたが、結局は諦めて宿の外を散歩しようと外へ出た。
夜は涼しかった。食事の際に飲んだ酒で火照っていた体には、気持ちの良い風だ。
ジゼルは夜空に浮かぶ欠けた月を見上げながら、ぐちぐちと文句を呟いていた。
「……まったく。ディランもディランですわ! 人に告白しておいて、私の返事が気にならないんですの⁉︎」
「俺が何だって?」
後ろから急にぽんと肩に置かれた手に、ジゼルは口から心臓が飛び出てしまうくらい驚いた。
驚きのあまり、声が出なかったくらいだ。
振り返ると、そこにはディランが立っていて……




