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8-2

 ジュリアンが手袋を嵌めながら近付いてきた。


「では、僕たちは教会内の捜索といこうか。調査局は建物に残された魔術式を調べてみるから、君たち捜査局はケビン・キースにつながる物証を探してくれ」


 ジゼルとディランは頷き、彼らとともに教会内へと入っていった。




 二人は教会内のルーカスの執務室へ向かった。小さな教会だけあって、執務室も手狭だった。


「一見、怪しい物は何もないが……」

「本棚の後ろに魔法痕がありますわ」


 ジゼルの言葉を受けてディランがその本棚を見ると、並ぶ書物の中に一段と綺麗な書物がある。試しにそれを手に取ってみると本棚が動き出し、そこから壁に埋め込まれた金庫が出てきた。


「当たり前だが鍵がかかってるな」

「解析魔法で魔法術式を読み解いてみますわ」


 ジゼルの目が輝き、ディランは解析が終わるのを待つことにした。彼が改めてルーカスの執務室を見回していた時、執務机の上に、教会本部宛ての書きかけの報告書を見つけた。そのそばには魔法インクの入った小瓶が置かれている……


 ディランがその魔法インクの小瓶に何気なく目を向けた時、「あ、これって……」とジゼルが声を上げた。


「どうした?」

「覚えてますか? 私たちが二人で初めて解決した事件」

「ああ。免許証偽造事件だな」


 ディランがすんなりと答えると、ジゼルは神妙な顔つきで頷いた。


「その時の偽装魔法術式と、この魔法術式はどこか似ていますわ」

「なんだと?」


 ディランの目が険しくなる。


「それに、ヴェロニカと一緒に担当した学院の魔法薬異物混入事件の犯人が使っていた魔法術式とも……」


 あの時はジゼルも確証がなく、ただほんの少し既視感を覚えただけだと思っていたが……今、目の前の施錠に使われた魔法術式を見て確信する。


「解析魔法だから分かりますわ。術式の組み方の独特な癖……同じ人物が組んだ魔法術式で間違いありません」

「……あれから、ブローカーの手掛かりがないと頓挫していたが、まさかここで繋がるとはな」


 これまでの犯人たちに共通する魔法術式がルーカスの執務室で見つかるなんて……まさか、聖月教会が事件に関わっている……?


 ジゼルの頭の中に、エブリン大神官の顔が浮かんだ。しかし、気持ちを引き締めて魔法術式の解除作業に取り掛かる。


「ああ、もう。複雑な術式ですわね……」


 それは高度な施錠魔法らしく、ジゼルは苦戦している様子で小さく呟いた。


 しばらくして、金庫の魔法術式を解除し、金庫の扉が開いた。中には、いくつかの書物や書類が入っていた。


 ディランがその一冊を手に取り、中を開いて目を通してみる。開いた書物には、魔法術式を記した紙が何枚も綴じられていた。


 一枚一枚にそれぞれの値段が記されている。ディランの頭に、いつかの免許証偽造の男が言っていた言葉が蘇ってきた。


『……俺が試験に落ちた日……試験会場を出たら、知らない男が話しかけてきたんだ』


 偽造免許証を謎の男から購入した、あの犯人……その謎の男は、ルーカス神官だった?


 ディランは思わず振り返り、ルーカスの机の上にある魔法インク瓶を見る。ブローカーの唯一の手がかりだった魔法インク……もしかして……


 ディランは疑惑を深めながらさらに金庫の中から、魔法術式の購入者リストを発見した。そこには、あの犯人の男やケビン・キースの名前があった。


(これでルーカスが一連の事件に関与していた疑いは濃厚になった。あとは……ルーカスの単独か、それとも聖月教会も関わっているのか……)


 教会がどこまで関与しているのかまだ分からないが、それでもルーカスは神官という立場を利用し、心に傷や不満を抱えている者たちを煽り、魔法術式を売り付けていたことは間違いない。


「……全部同じ奴が売ってたってことか」


 ディランの手に力が入り、思わず購入者リストに皺を作る。これまで別々の事件として捜査していたものが、一本の線でつながっていく。


「……ディラン」


 隣で別の書物を確認していたジゼルが、震えた声でディランを呼んだ。


「これを見てください……」


 ジゼルが開いた頁にディランも目を向けると、そこには『ジゼル・エヴァレット』の名前があった。


 さらに、ケビン・キースの名前や免許証偽造の男、魔法薬に異物混入した男の名前もある。ざっと見ただけだが、ディランたちが逮捕した、見覚えのある犯人や、自分たちが関わっていない事件の犯人たちの名前まであった。

 その他にも、まだ犯人として検挙されたことのない、見覚えのない人名までもが並んでいた。


 その人名の下には、詳しい調査情報が書かれている。

 ジゼルの名前の下にも、ちょうど一年前からのジゼルの状況などが詳しく書かれていた。婚約破棄の前後から、魔法省に就職するまでの行動が。


 ジゼルの目に嫌でも映る。


 自分が必死に乗り越えようとしている過去が、一つ残らず記されていた。リリアナに対して行った自分の悪行も、婚約破棄された惨めな日も、部屋に閉じこもっていた日々も。


 誰とも顔を合わせられなくなって、自分の人生を諦めていたあの時間……それらが、まるで他人の人生を観察するかのように、淡々と書き連ねられている。


 ジゼルの指先が震え、顔から血の気が引いていった。


「これは、犯罪者を記録するためのものではありませんわ……」


 ジゼルは苦しそうな顔で、ディランを見上げる。

 その者の不安定な精神状態、社会への不満、人間関係に馴染めない孤立感、金銭問題など、一人ひとりの『心の闇』が詳細に綴られているその調査書は……


「きっと、犯罪に利用できそうな人間を、探すための調査書です……」

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