8-1
日課の朝の祈祷が終わり、教会の庭の掃除をしようと外に出たルーカスのもとに、来客があった。
「ルーカス神官」
目を向けると、三人の男女が立っていた。彼らの胸元には昨日も目にした身分章が輝いており、ルーカスはすぐに魔法省の者だと分かった。
「魔法犯罪捜査局です。お話をお伺いしたいのですが」
青灰色の髪をした若い捜査官が口を開く。ルーカスはうんざりしたように、大きなため息を吐いた。
「……またですか」
一人はルーカスがすでに昨日話した捜査官だった。あとの男女二人は初めて顔を合わせたが……
ルーカスは困ったように眉を下げた。
「昨日もそちらの方がここに訪れましたが……お話しできる内容は変わりませんよ」
そう言ってグレゴリーを指差すルーカスに、ディランは目を鋭く細める。
「単刀直入に聞きます。ケビン・キースという男をご存じですか?」
「だから、昨日もお話しした通り……」
「知らない、と?」
「えぇ」
ルーカスは息を吐きながら頷いた。
「おかしいですね……」
ディランは手に持っていた教会の受付帳簿の写しをルーカスの前に見せる。
「以前、担当神官として相談を受けたのでは?」
そして、改めてルーカスへ目を向ければ、彼は固まり、言葉に詰まっている様子だった。しかし、その様子もすぐに切り替わり、ルーカスは真剣な表情で答えた。
「……隠していたことは謝ります。ただ、信徒の相談内容は守秘義務がありまして……私は漏らしてしまうことを恐れて、予め回避させていただいただけなのです」
「うだうだと言い訳を……めんどくせぇ」
だが、ルーカスの言葉はディランに被せられてしまう。捜査官には似合わない粗野な態度のディランに、ルーカスは驚いて目を丸くした。
その間にディランは隣に立つジゼルへ顎をしゃくりながら尋ねた。
「で、何が分かった?」
ルーカスの目が、初めてジゼルへ向く。彼女の赤い目が不自然に輝いており、ルーカスは心なしか全てを見透かされているようでゾッとした。
「えぇ。ルーカス神官」
目を輝かせながら、ジゼルはルーカスの神官服の左の袖を指差した。
「どうして貴方の袖から、ケビンさんの魔力反応があるのですか?」
その瞬間、青い顔をしたルーカスがジゼルの視線から庇うように思わず左袖を握りしめた。
そのあからさまな反応を見て、グレゴリーが前に出てきた。そして、ルーカスに裁判所の認印が押された紙を見せながら言った。
「捜査令状だ。捜査に協力してくれるな?」
ルーカスは袖を押さえたまま後ずさるのだが、三人の背後から、待機していた魔法省の職員たちが姿を現したことで、観念したように俯く。
ルーカスに着ていた神官服を脱がせ、ジゼルが指差した左袖の裏地を見れば、不自然に縫い直された痕があった。
グレゴリーがその糸を切って布を捲ると、ところどころ傷のついた、古びた教章が現れた。しかし、長年大切に扱われてきたことが窺える品だった。
事故調査局の調査員たちをまとめる立場としてジュリアンもこの場に来ており、グレゴリーから渡された教章を受け取っていた。
「ケビンさんから預かったものです」
ルーカスは魔法省の者たちの行動を見つめながら、力なく言った。ディランが振り返る。
「なぜ黙っていた?」
「相談内容に関わることです」
守秘義務で通そうとするルーカスに、ディランは思わず鼻で笑った。
「守秘義務ねぇ……だったら、なんでわざわざ服の裏に縫い込んだ?」
ディランの挑発的な言葉に、ルーカスは答えを濁すように唸った。時間切れだとでも言わんばかりに、グレゴリーが隣に立ち、彼の腕を掴んだ。
「詳しい話は魔法省で聞こう。重要参考人として、魔法省まで同行を願いたい」
犯人として逮捕こそしていないが、まるで捜査官たちの目から隠すように、わざわざ神官服の裏に教章を縫い付けていたのだ。
それだけで、ルーカスを事件の重要参考人とする理由になる。
「私は、聖月教会の神官ですよ! そんな不当なっ……」
「それでも、死亡した人間の遺留品を所持している以上、話は別だ」
なおも抗議するルーカスだったが、結局はグレゴリーに付き添われ、魔法省へ向かった。そんな彼の後ろ姿を見送りながら、ディランが呟いた。
「まだ犯人と決まってはいねぇが、かなり怪しいな……」
ジゼルも小さくなっていくルーカスに目を向けると、ディランは続けて言った。
「俺の勘だが……あいつ、ジゼルに教章のことを指摘されてからは、目を見開いて、視線が泳いでいた。動揺の仕方から、他にも何か隠してるな」
「はじめから教会内を調べるために、ディランがたった一晩で裁判所に捜査令状を発行させたじゃありませんの」
令状の審査に必要な証拠はすでに揃っていた。緊急性を考えたディランは大公家の名を使い、通常なら数日かかる手続きを最優先で処理させたのだった。
ジゼルが揶揄うように言うと、ディランも片眉を上げ、生意気そうな笑みを返した。
「どうやら俺にも、相棒の傲慢さが移っちまったみたいだ」




