7-2
ジゼルは驚きから、思わず息を呑んだ。
(ケビン・キースが……死んだ……?)
ただ呆然と、先日に工場でケビンと会話を交わした時のことを思い返す。
「死因はなんです?」
すかさずディランが尋ねると、アーネストは眉を顰めながら答えた。
「今のところ溺死だそうだ。目立った外傷はないと報告を受けている」
それからアーネストは、ケビンの遺体発見時の状況について説明していった。
第一発見者は田舎町の住人。現地の警備隊は、誤って川へ転落した可能性が高いと見ているらしい。昨夜は濃霧で、川岸もかなり滑りやすい状態だったそうだ。
「ただ……」
難しい表情で説明の言葉を切るアーネストに、グレゴリーが鋭い視線を向けた。
「……他殺の可能性があるんですか?」
グレゴリーは主に殺人事件を多く扱っているベテラン捜査官だった。
「それはまだ判断がつかない。逃走先での事故なのか、自殺か……それとも他殺か……」
最後の方は思案するように俯き加減で呟いて、アーネストは再び顔を上げると、ジゼルとディランへ顔を向けた。
「二人とも。今日はグレゴリーとエリオットと共にケビンの死の真相について捜査してくれ」
元々、ケビンが起こした魔道具の暴走事故は二人が追っていた事件だった。ジゼルとディランはアーネストに頷いてみせる。
それから二人は、アーネストの指示を受けて、グレゴリーたちと共にケビンの遺体が保管されている安置室へと向かった。
安置室の入口で、ジゼルはわずかに足を止めた。これまで事件現場には何度も足を運んだが、遺体を直接見るのは初めてだった。
すると、何も言わずディランが隣に立つ。
ジゼルがちらりと隣を見上げると、すぐに彼の青い瞳と目が合った。
少し不安に思っていたジゼルだったが、気を取り直し、安置室の中へ入っていった。
中に入ると、遺体の側に立つエリオットが手袋をしているところだった。
「エリオットさん、何をしていますの?」
「今から、診査魔法で遺体を調べるんだ」
「診査魔法……?」
聞きなれない魔法名に、ジゼルはきょとんとして聞き返した。
「そ。解析魔法は『魔法』を読むでしょ。僕の診査魔法は『人体』を読むんだ。僕もエヴァレットさんと同じ特殊技能採用枠なんだよ」
エリオットが朗らかに笑いながら答える。ジゼルは驚いた。
「そうなんですの⁉ 全然知りませんでしたわ……エリオットさん、優秀でしたのね」
ジゼルの失礼すぎる本音に、ディランは聞き捨てならないとばかりに、呆れた顔でため息をついた。
「お前さ……今までエリオットをなんだと思っていたんだよ」
「おいしいコーヒーを淹れてくれる先輩ですわ」
悪気もなく、そう笑顔で答えるジゼルにディランは口元をひくつかせる。
「お前、もう少し同僚に関心持て?」
そう言って、ディランはジゼルの額に軽く指で弾いた。
「痛いですわー!」
次に、横で呑気に笑っているエリオットへ目を向ける。
「エリオットも。お前、すげぇ才能なんだから、もっとプライド持てよ」
「あはは。僕、影薄いからー」
言われた本人はそこまで気にしていないらしく、ディランはそれもどうかと思った。
「――で、本題に戻るけど」
しかし、先ほどまでにこにこと笑っていたエリオットが真剣な顔を浮かべた。その瞬間、空気がぴりっと引き締まる。
「軽く遺体を診てみたけど、ちょっと気になるところがあるんだよね」
いち早く反応したのはグレゴリーだった。
「なんだ?」
「ここです」
エリオットはケビンの右足を指差した。
「死ぬ前に、ここの魔力循環が一度乱れています」
眉を顰めながら、エリオットは続ける。
「ケビン・キースは死ぬ直前、右足の魔力循環だけが不自然に乱れてる。本人の魔力暴走なら全身に影響が出るはずだから、外部から干渉された可能性が高い……でも、死因は溺死で間違いなさそう」
ディランはエリオットの話を聞きながら考え込んでいた。そして、ジゼルへ目を向ける。
「ジゼル。お前、ケビンの遺品を解析魔法で見てくれ」
「分かりましたわ」
ジゼルは頷くと、解析魔法でケビンが死ぬ瞬間に身に着けていた遺品をひとつひとつ視ていった。
「……遺品には、とくに不審な魔力の情報はありませんわ」
輝いていた赤い目が落ち着き、ジゼルは少し残念そうに結果を伝えた。
ケビンの遺体から得られた情報は、今のところエリオットの診査魔法で分かった足元の魔法干渉を受けた疑惑があるということだけ。
ディランとグレゴリーが眉根を寄せて考える中、「ただ……」とジゼルが遠慮がちに言葉を続けた。
三人はジゼルを見た。ジゼルは確信の持てなさそうな表情で、不安そうに口を開く。
「解析魔法とは関係のないことですけれど……」
「遠慮せずに、思ったことは何でも言え」
ディランの言葉に、ジゼルは頷いた。
「……彼の遺品に足りないものがあります」
ジゼルはちゃんと覚えていた。ケビンの胸には……
「彼が身に着けていたはずの、教章がありませんわ」
ケビンが仕事中でさえ肌身離さず身に着けていた、聖月教会の教章。それが、遺品のどこにも見当たらないのだ。




