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6-1

 車椅子生活から解放されたディランは、スッキリとした明るい表情を浮かべていた。その隣では、少しやつれた様子のジゼルが呟いている。


「や、やっとディランの奴隷生活から解放されますわ……」

「俺の世話焼きたければ、まだ続けてもらってもいいけど?」

「あり得ませんわー!」


 捜査局は、ジゼルとディランのいつもの騒がしさで賑わっていた。そこにアーネストがやって来る。


「お前たちは、本当にいつも喧嘩しているな……」


 若干、呆れを通り越して、アーネストは笑ってしまっている。


 しかし、彼はすぐに局長の顔に戻り、弛んでいた空気を引き締めた。そして、昨夜の王立魔法技術博覧会の前夜祭で起きた、花火暴発事故についての報告を始めた。


「事故調査局の報告では、発火装置そのものに大きな欠陥はないとのことだ」


 アーネストはちらりとジゼルを見る。


「しかし、解析魔法の結果、起動術式に外部からの一時的な魔力干渉を受けた痕跡が見つかった」


 本日開催される王立魔法技術博覧会を取り仕切る魔法省としては、今回の事故にとても敏感になっていた。


 今回はジゼルだけではなく、局長であるアーネストも解析魔法を使い、共に現場調査を行っていた。


「……ということは、捜査局案件に切り替わるということですね」


 ヴェロニカの言葉に、アーネストは頷く。


「あぁ。だが、事故なのか、誰かが意図的に起こしたのかまだ分からない。もし意図的なら……本日の王立魔法技術博覧会に対しての警告かもしれない」


 アーネストはそう言って、部下たちに指示を出していった。


「ヴェロニカ、グレゴリー、エリオットは私と共に、博覧会の会場へ向かい万が一に備えて待機してくれ」


 アーネストの表情は一段と厳しいものとなる。


「この博覧会は魔法省と国の合同行事だ。博覧会待機組は、現場の警備にあたっている魔法保安局の者とよく協力してくれ」


 すると、エリオットが嫌そうな顔で呟いた。


「えー。保安局ですか……」


 それを聞いたヴェロニカが、クスッと笑う。


「あの人たち、エリート思想が強いと言うか……ジゼルより高慢な奴らばかりだものね」

「なんでそこで私の名前が出てきますの⁉」


 ジゼルがすぐさま反応し、ヴェロニカに食ってかかっていた。


「それで? 局長、俺たちは?」


 ディランがアーネストに指示を仰ぐ。アーネストも頷いて、ジゼルとディランの役目を伝えた。


「あぁ、お前たち二人には、発火装置の管理記録と魔力認証記録を確認してもらいたい」


 そこで言葉を切り、アーネストは改めてジゼルを見つめた。


「……そして、あの発火装置は王室行事用の装置だ。王宮へ向かい、王室側の行事責任者であるアレクシス殿下から閲覧許可を得てくれ」


 ヴェロニカと戯れ合うように口喧嘩していたジゼルの動きがピタリと止まる。


「えっと……大丈夫なんですか? ジゼルは……」

「分かっている」


 ヴェロニカが心配そうにアーネストを見ると、彼は疲れた様子で大きなため息を吐いた。


「本来なら、局長であり解析魔法が使える私が向かうべきなのだが、博覧会に国王陛下が出席されるという理由で……私は今日、上の指示で博覧会の会場から動けないんだ」


 ジゼルへ向けられたアーネストの紫色の瞳が細まっていく。


「そして、解析魔法が使えるジゼルが直接向かう方がいい……それが局長である私の判断だ」


 ジゼルが何も言えないでいると、ディランが一歩出てきてジゼルに厳しい目を向けながら言った。


「ジゼル、これは仕事だ。私情を挟むんじゃねぇ」

「……分かってますわ」


 ジゼルは、思わずディランから目を逸らした。


 アーネストが部下たちへの指示を終えると、皆それぞれの持ち場へ向かうため、その場は解散となった。


 ディランも捜査局から出ようとしたところで、室内にはジゼルとアーネスト二人が残されていることに気付く。


「私もディランの言葉に同意だ。仕事に私情は不要……だが」


 アーネストの言葉にディランは扉を出る寸前で、思わず足を止める。


「お前と殿下の関係は少し複雑だ。それに相手は王族……お前のミスで何かがあってはいけない相手だ。まだ気持ち的に難しいなら……ディラン一人に行かせる」

「……大丈夫ですわ。それに、もう……殿下のことは、好きじゃありませんから……」


 背を向けていたため、ディランにはジゼルが今どんな顔をしているのか分からなかった。でも、ジゼルの声はわずかに震えており、苦しそうに思えた。


「……」


 ディランはそのまま捜査局を出る。そして、数歩進んだ先で再び足を止めた。


(そうか。ただの政略結婚ってわけでもなかったのか……)


 ディランは見慣れた廊下の天井を仰ぎ見た。

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