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『――昔の貴女は、必ず私の味方をしてくれたのに』
先ほどのリリアナの言葉を思い出しながら、ヴェロニカは改めて過去の自分の行動を振り返った。
(私……本当に昔から贔屓目でリリアナとジゼルを見ていたのね……)
リリアナが泣けば、理由を聞く前からジゼルに腹を立てていた。リリアナが傷ついたと言えば、その言葉を疑ったことなんて一度もなかった。
もちろん、ジゼルが悪かったことはいくらでもあるし、リリアナを庇ってきたことが間違いだとは今も思っていない。
(でも私、一度でも自分の目で確かめようとしたことがあった? ……ううん、信じることが友達だと思っていた)
無条件に信じて、無条件に受け入れる。ヴェロニカは、ただ盲目に親友だけを『真実』として見ていた。
「……それって、本当にいい友達だったの……?」
◆
リリアナとヴェロニカが去った後のホールでは、ジゼルが令嬢達から責めるような目で見られていた。
ジゼルはこの場から、自分を消してしまいたいと考えていた。
今まさに、過去の自分の罪が牙を向いている。どんなに未来を変えようとしたって、もう変えられない過去が追いかけてくる……
ジゼルの逃げ出したい気持ちから、彼女は思わずその場から半歩下がる。ディランの顔が見られなかった。
(……恥ずかしい……この男に、昔の私のことを知られたくない……)
ただ、それだけが強く頭をよぎり、ジゼルは耐えるように拳を握り締めた。
リリアナが退場したのは、ジゼルのせいだと言わんばかりの敵意を向ける令嬢の一人が、嘲笑を浮かべながら言った。
「……アシュクロフト公子様は、ご存じないのですね」
ディランは訝しげに顔を上げた。その後ろで、ジゼルがびくりと肩を揺らす。
(……やめて、やめて!)
令嬢は何も知らない様子のディランに親切心を装って、昔のジゼルの悪行や、リリアナにした仕打ちを一つ一つ話していった。
周りの令嬢たちも賛同し、彼女たちは得意げになって話していく。ジゼルは泣きそうになりながらも、ぐっと泣くのを堪えていた。
ジゼルは俯きながらも、隠れ見るようにディランの後ろ姿を見る。彼は令嬢たちを見つめて、話を聞いているようだった。
(どうしよう……きっと嫌われる。相棒も解消だわ……)
ジゼルの頭には、魔法省に就職してからの毎日が思い起こされていた。
ディランと事件を追う日々は、彼の態度に腹が立ち、いつも喧嘩していたけれど……それでも、楽しかった。
王太子妃候補でも公爵令嬢でもない、ただのジゼルとして真っ直ぐに見てくれるディランの隣にいると、ジゼルはまるで、自分自身にも価値があるように思えていたのだ。
「――それで、その時のジゼル様ったら……」
令嬢たちの話は続く。しかし、ずっと黙って聞いていたディランが、うんざりした様子で彼女の言葉を遮った。
「あー。もういい、十分に分かった」
そして、ディランは後ろを振り返り、俯きながら小さくなっているジゼルの顔を下から覗き込んだ。
すっかり怯えた表情を浮かべているジゼルを見て、ディランは思わず笑った。
「やけに大人しいと思ったら……お前、泣いてんのかよ」
「な、泣いてませんわ!」
ジゼルは慌てて、目に浮かんでいた涙を拭いながら言い返す。
「いや、泣いてんじゃん」
「泣いてません!」
「目ぇ真っ赤にして、何言ってやがる」
令嬢たちはぽかんとした表情で、ジゼルとディランのやり取りを見ていた。あれだけ悪女ジゼルの悪行を話したというのに、それでも楽しそうにジゼルを揶揄うディランの姿が、信じられなかった。
「ア、アシュクロフト公子様! 私達の話を聞いておりましたか?」
「聞いたけど?」
一人の令嬢が慌てた様子で尋ねると、ディランは前を向き直して平然と答える。
「では、彼女があくどい悪女だと……」
「で?」
「え……?」
ディランの青い瞳が、すっと冷えていく。
「その話を俺に聞かせて、お前たちは俺に何を望んでるんだ? 過去、こいつが悪女だったから一緒に嫌ってくれってこと?」
「そ、その……」
令嬢たちは、自分たちも意識していなかった悪口の裏にある本音を言い当てられてしまい、思わず口ごもった。
ディランは肘掛けに手をつき、ゆっくりと車椅子から立ち上がった。痛む左足を庇いながらジゼルの隣に立つと、彼女の肩を抱き寄せる。
急に引き寄せられて、ジゼルは驚きながらディランを見上げた。
「俺を軽々しく操ろうとしてんじゃねぇ。昔どうだったかなんて話されても、俺は昔のこいつを見たことはない。知らんものは知らん。俺が見るのは『今』のこいつだけだ」
ディランの言葉に、ジゼルは息を呑む。目に、また涙が浮かび上がっていった。
「こいつ。失敗もするし、すぐ無計画に突っ走るし、それでいて偉そうで、めちゃくちゃ面倒くせぇ性格だけど」
「ちょっ……」
しかし、すぐに涙は引っ込んで、ジゼルはムッとした表情でディランを見た。するとディランもジゼルを見下ろし、あの意地悪で揶揄うような笑顔を向けてくる。
「でも、仕事から逃げたことはねぇ。自分が間違えたら認めるし、誰かが困ってりゃ身体張ってでも助けようとする」
心なしか、ジゼルの肩を抱くディランの手に力がこもった気がした。
「そして俺にとって大事なのは、こいつが俺の相棒として相応しいかどうか。それだけだ」




