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そこには、学院時代の同級生だった令嬢が数人立っていた。ジゼルも彼女たちの顔を覚えている。
(彼女たちは、リリアナさんの友人の……)
会うとも思っていなかった人物たちとの再会に、ジゼルは思わず固まってしまった。
「どうして……」
そばにいたヴェロニカも、彼女たちの姿を見て驚いている様子だった。ハッと息を呑む音が聞こえてきた。
「やはり……ジゼル様ですね」
「……えぇ。皆さん、お久しぶりですわ」
ジゼルは少しだけ強張った表情で、しかし公爵家の令嬢としての品位を保ちながら優雅なカーテシーをしてみせた。
令嬢たちも形式上の挨拶を返す。その表情は居心地悪そうだ。
「魔法省にお勤めになったというお噂、本当でしたのね」
「現在は魔法犯罪捜査局に所属しておりますわ」
「貴女が……ですか?」
ジゼルの返答に、令嬢たちは複雑そうな表情を浮かべていた。すると、その中の一人が、ディランに気付き目を向けた。
「そちらは……」
「彼は、ディラン・アシュクロフト公子ですわ。私と同じ……」
魔法省に勤めていて、という言葉を続ける前に、令嬢たちは驚きの声を上げた。
「アシュクロフト大公家⁉」
普段社交界に姿を見せない大公家嫡男を目の前にして、彼女たちは浮き足立っているようだ。頬をほんのりと赤く染め、目を輝かせていた。
それと同時に、彼女たちのジゼルを見る目が急に変わった。
「なんだ。王太子の次は、次期大公ってこと……?」
明らかな嘲りの混じった声色に、ジゼルは声を固くさせて聞き返す。
「今……なんと仰いましたの?」
すると令嬢たちは互いに見合わせながら、クスクスと忍び笑いをした。
「いえ、大したことではありませんわ」
嫌な雰囲気が流れる。ジゼルも今自分が馬鹿にされていることは分かっているので、彼女たちを見つめる目が、だんだんと冷たいものになっていった。
「皆、やめなさいよ。二人は貴方たちが考えている関係ではないわよ!」
ジゼルが言い返してやりたい気持ちをぐっと抑えていると、ヴェロニカが一歩前に出て友人たちを諭そうとしていた。
「いやぁ、でも……ねぇ?」
彼女たちの嘲笑は終わらない。ヴェロニカがもう一歩踏み出した時、ずっと黙って一連の流れを見つめていたディランが、口を開いた。
「こいつは同じ魔法犯罪捜査局の仲間であり、虐め甲斐のある後輩……そして俺の相棒だ」
ディランの言葉に、令嬢たちの笑いが止まった。「え? 相棒……?」と、戸惑いながら狼狽える彼女たちに、ディランが鋭い目を向ける。
「そう。なんか文句ある?」
「い、いえ……」
ディランには強く出られないらしく、令嬢たちは気まずそうに目を逸らし、困惑した表情を浮かべていた。
そんな気まずさで息が詰まるような空気の中、ジゼルは周囲が騒めいていることに気付く。見ると人だかりができていた。
「王太子妃殿下ですわ!」
ジゼルが人だかりの中心にいる人物を見て固まっている間に、令嬢たちは救われた表情で喜びながら声を上げた。
リリアナだった。ジゼルの表情が緊張で強張っていく中、貴族たちに囲まれていたリリアナは穏やかな笑顔で断りを入れて、こちらへと近付いてくる。
やがてリリアナもジゼルの存在に気付き……そして二人は目が合う。互いに固まったまま、沈黙してしまった。
しかし、先に動いたのはジゼルだった。
「……王太子妃殿下。ご機嫌麗しゅうございます」
公爵令嬢として完璧な礼をもって、ジゼルはリリアナを王太子妃として認めていることを周りに証明した。
お手本みたいな挨拶に、周りの貴族たちが感心する。
その時、リリアナの耳に、誰かがぼそりと呟く声が届いた。
「元王太子妃候補と現王太子妃殿下か。比べると、やはり……」
リリアナの顔が強張る。そんな彼女の様子に気付かないまま、強力な味方を得たと令嬢たちは再びジゼルを嘲笑った。
「まあ。あのジゼル様が、リリアナ様に頭を下げてるわよ」
「学院時代からは想像もできませんでしたわね」
そんな友人たちの声が聞こえて、リリアナはハッとする。リリアナはやっと王太子妃らしい笑顔を作った。
「……お久しぶりです。ジゼル様」
ジゼルが顔を上げる。頭を下げている側だというのに、その佇まいには気品が溢れていた。まさに、未来の王太子妃として育てられ、長年磨かれた淑女としての気品が輝いている。
周りの貴族たちはジゼルの佇まいに感嘆のため息をついていた。ジゼルとリリアナを比較するような、そんな視線をリリアナは肌で感じる……
リリアナの脳裏には、学院の頃のジゼルが蘇っていた。
『身の程を弁えなさいよ』
そう言って、こちらを見下す……恨みに満ちた赤い瞳。
リリアナは無意識に一歩下がる。それを見てジゼルは一瞬傷ついた表情を浮かべた。




