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5-3

 放っておいてもジゼルとディランの口喧嘩は終わりそうにないので、ヴェロニカが仕方なく仲裁に入った。


「そこのお二人、じゃれ合ってないで行きますよ」

「なっ⁉」


 ジゼルとディランが声を揃えて振り返る。ヴェロニカが片眉を上げてみせ、ジュリアンが苦笑いを浮かべている姿を見て、二人はやっと口を閉じた。


 前夜祭の会場は、魔法省の敷地内にある大きなパーティーホールだった。


 会場に入る前、ジゼルは入り口の前でギルバートと鉢合わせた。


「あら。ギルバートも来ていましたの?」

「……父上の代わりにね」


 ギルバートは次期公爵として、学院卒業後から少しずつ、ローレンスの代わりに社交界へ顔を出すようになっていた。


「エヴァレットくん、お久しぶり」

「グレイソンさん」


 ギルバートとヴェロニカは顔見知りだった。それもそうだろう。学院時代、それぞれアレクシスとリリアナの親友として名が通っていた二人だ。会えば、親しげに挨拶する仲だった。


 ギルバートはヴェロニカと数言会話を交わした後、ディランとジュリアンに目を向けた。


「アシュクロフト公子、ジュリアン卿。お初にお目にかかります。ギルバート・エヴァレットです。妹がお世話になっております」


 そう言って丁寧に一礼するギルバートの姿を見て、ディランはジゼルへ耳打ちした。


「お前、本当にあの兄貴と血が繋がってんの?」

「失礼ですわね! 私とギルは双子ですわ!」


 まあ、外見はよく似ているけど……と、ディランは改めてギルバートを見る。すると、彼の赤い目が自分をじっと見つめていたので驚いた。


「ディラン・アシュクロフトです。毎日、妹さんの面倒見てます」

「ちょっと!」

「……そうですか。妹がご迷惑をお掛けしているようで」

「ギルバートも、そうすぐに受け入れないでくれます⁉︎」


 騒ぐジゼルを他所に、ディランとギルバートは握手を交わした。


「まあ、手の掛かる相棒ではありますね」

「相棒……ですか」


 ギルバートはチラリとジゼルに目を向ける。


「パーティーでは、大人しくしておくように」


 淡々とした表情でそれだけを言うと、ギルバートは会場の中へと入っていってしまった。


「……兄というより、父親みたいだな」

「ギルバートは昔から、小言が多いのですわ」


 ディランが言うと、ジゼルは眉を顰めながら答える。


(ギルバート、一体なんですの……?)


 双子だから分かる。ギルバートは基本的に、あまり表情が動かない人物だが、最後にジゼルへ視線を向けた時だけ、身内には分かる程度の複雑そうな表情を浮かべていた。


 ジゼルは何だか胸騒ぎがした。


「お前がヘマしないか心配で見に来たんじゃねぇの?」

「そんなこと、あり得ません!」


 しかしジゼルは気持ちを切り替えて、張り切った表情でディランの前で両手を腰に当てて見せた。


「私、エヴァレット公爵家の令嬢でしてよ? この私がパーティーの作法を知らないとでも?」

「おぉ。いつにも増して、鼻に付くほどの傲慢令嬢だな」


 今日のジゼルには、ディランの意地悪など効かない。なぜならパーティーは、公爵令嬢であり元王太子妃候補であったジゼルの、得意分野だからだ!


「パーティーで、この私の右に出る者はなかなかおりませんわー!」


 すっかり勢いを取り戻したジゼルの高笑いを見ながら、ジュリアンは安心した様子で笑顔を浮かべていた。


「今夜のエヴァレット君は、いつも以上に生き生きとしているね!」


 三人が呑気に過ごしている中、ヴェロニカだけが神妙な顔で、会場の中へ消えていくギルバートの背中を目で追っていた。




 会場はすでに、大勢の招待客で賑わっていた。魔法事故調査局のジュリアンとはここで別れることになる。調査局の上司から課せられている使命があるらしい。


 魔法省から参加しているのは、もちろんジゼルたちだけではない。会場を進みながら、他局の顔見知りとも挨拶を交わしていった。


 当然、声を掛けてくるのは魔法省の人間だけではない。貴族たちとも挨拶する機会があり、そのたびにジゼルは、公爵令嬢らしい完璧な教養と作法を見せた。


「……本当にこういうの得意なんだな」

「あら、貴方はそうではありませんの?」


 車椅子から後ろを振り返りながらディランが言うと、ジゼルは嬉しそうに笑って挑発的に返した。


「俺は昔から……こういう人付き合いは苦手だ」


 ディランが顔を顰めながら前を向く。するとジゼルが足を止めて、後ろから覗き込んできた。


「大公家が聞いて呆れますわね!」


 珍しくディランを負かせたことが嬉しいのか、ジゼルは楽しそうに笑っている。そんなジゼルの得意げな様子に、ディランは腹も立たず、むしろ笑いが込み上げてきた。


「お前なぁ……」

「まあ、でも貴方は社交活動が苦手でも、それ以外が優れておりますから、そう問題ないのではありませんの?」


 思いがけないジゼルの言葉に、ディランは一瞬固まった。だが、すぐにニヤリと笑ってみせた。


「へぇ。お前、ついに俺の優秀さを認めるんだな」

「……」

「恥ずかしがんなって」

「う、煩いですわね!」


 またディランが揶揄って、ジゼルが言い返していると、後ろから「ジゼル・エヴァレット……?」という声が聞こえてきた。


 ジゼルは声のした方を振り返った。

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