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書類の束を抱えたベティがディランの元へ近付いてくる。
「これ、今日の分の仕事よ。ここに置いておくわね」
「げっ、こんなに……」
どさりと机の上に置かれた書類の束に、ディランが顔を顰めると、ベティは朗らかに笑って「ジゼちゃんをいじめる罰よ」と言い残し去っていった。
ディランは呆然と書類の山を見つめる。
「はあ、今日も書類仕事か……」
「どうやらジゼルをいじめすぎて、ベティさんを怒らせたようですね」
うんざりするようにため息をつくディランに、ヴェロニカが苦笑いを浮かべていた。
「足が完治するまで現場に出るなって局長に言われてるしな……仕方ねぇけど、毎日書類仕事でつまんねーんだよ」
ぶつくさと不満を呟くディランに、ヴェロニカはアーネストから頼まれていた用事を思い出し、一つの手紙をディランに差し出した。
「そんなアシュクロフトさんに朗報です」
ヴェロニカはにこりと笑った。
「書類仕事以外のお仕事ですよー」
「……げっ」
手紙を見て、ディランは嫌そうに顔を歪めながら声を上げる。その手紙は、王立魔法技術博覧会の前夜祭への招待状だった。
王立魔法技術博覧会とは、国と魔法省が協力して毎年行われる大きな行事だ。魔法省の監督のもと、技術者たちが新型魔道具や魔法技術を貴族や商会へ披露する場だった。
「俺、怪我人なんだけど」
こういう時だけ、ディランは都合の良い怪我人となる。でもそれは、すでにアーネストも想定済みだった。
「局長からの伝言です。『足が悪いだけで、口と頭は動くだろう』」
「……チッ。あの鬼上司」
ディランはますます眉を顰めていく。
「我慢してください。私だって嫌だけど、魔法薬関連の技術展示監督として出席するはめになっているんですから……」
ヴェロニカはそう言いながら、自分の博覧会での役割を思い出したのか、次第に顔色を悪くしていった。二人して憂鬱な表情を浮かべている。
その時、飲み物とサンドイッチを抱えたジゼルが戻ってくる。
「買ってまいりましたわよ、貴方の好きなカツサンド! これで文句はありませんわよね⁉」
何とも呑気な奴だと思いながらディランはジゼルを見た。そして、思い付く。
「ちょうどいい。お前も行くぞ」
「はい? なんのお話ですの……?」
ポカンと呆けるジゼルに、ディランは例の招待状の手紙を見せた。
「王立魔法技術博覧会の前夜祭」
「へ?」
まだ話が飲み込めていないジゼルに、ディランは急かすように言った。
「間抜け面はもういいから。ほら、さっさと今日の分の書類仕事を終わらせるぞ!」
「ま、間抜け面ってまた言いましたわねー⁉︎」
ジゼルはディランの付き添いとして、今夜の前夜祭に参加することになったのだった。
◆
夜、久しぶりに着飾ったジゼルは、魔法省のエントランスでヴェロニカと合流した。
「あら。あんたのそんな姿を見るのも久しぶりね」
ヴェロニカはすでに到着しており、ジゼルのドレス姿を見て揶揄うように笑っている。
「ええ。卒業以来……ですわ。最近の流行を追えていなかったから、いささか不安ですけれど」
「悪くないんじゃない?」
「適当に答えないでくださいます⁉」
ジゼルは心細そうに眉を顰めており、本当に不安そうだ。ヴェロニカは息を小さく吐いた。
「……あんまり言いたくないけど……あんたは、いつだって綺麗だったわよ」
今も、昔も……
ジゼルが驚いてヴェロニカを見ると、彼女は気まずそうに目を逸らしていた。少し、頬が赤くなっている。
そこに、ディランと車椅子を押すジュリアンがやって来た。
「お待たせ二人とも。普段から顔を合わせているけれど……そんな姿を見ると別人みたいで、なんだか照れちゃうな」
にこにこと笑いながら二人を褒めるジュリアンに、ヴェロニカは軽く頷いて言葉を返した。
「モントローズさんも相変わらず素敵ですよ」
「そうかい? 嬉しいねぇ」
その横では、ディランが素っ気ない表情でジゼルを見ていた。
「な、なんですの……?」
「ふぅん」
ジロジロとこちらを観察してくるようなディランの視線に、ジゼルは何だか気恥ずかしくなってくる。
「馬子にも衣装ってやつだな。いつもの間抜けさがない」
「なんですってー⁉」
公爵令嬢として、流行を追えていないことに少し自信をなくしていたジゼルは、言い返す代わりにヴェロニカを指差しながら尋ねた。
「ヴェロニカは……彼女はどうですか⁉」
ディランがヴェロニカへ目を向ける。
「グレイソンは、そうだな……普段より知的で洗練されて見える。いいじゃん」
その言葉に、ジゼルは愕然とした。
(この意地悪男が素直に褒めるとは思っていませんでしたけど……それでも、なぜいつも私ばかりに意地悪をしてくるの……⁉︎)
ヴェロニカは褒めるくせに……ジゼルはくやしくなって、ディランに背を向けた。
「私、帰らせていただきますわ!」
「はぁ? 俺の車椅子、誰が押すんだよ」
「知的なグレイソンさんにでも、押してもらえばいいですわー!」
またもや口喧嘩を始める二人を、ヴェロニカとジュリアンは慣れた表情で見つめていた。
「あほらし」
「うーん。アシュクロフト君は、将来とても苦労しそうな性格をしているね」




