4-7
ダクトを抜けた先は、操作パネルがある小部屋だった。
ジゼルはそばにあった台の上に足をつき、できるだけ急いで下へと降りた。
身だしなみを整える暇もなく、ジゼルは操作パネルの方へ駆け寄る。
(確か、ロンさんが赤いボタンを押せと仰っていましたわね……)
ジゼルはロンの言葉を思い出しながら、パネルを覗き込む。するとそこには、赤いボタンが……二つあった。
「え⁉︎ どっち⁉︎」
ジゼルは慌てて廃棄置き場の方へ目を向ける。鉄の扉の小窓の中で、迫りくる圧縮機と二人の姿を目の当たりにしてしまう。
時間はない! 二人の命が、ジゼルの手にかかっている……焦ったジゼルは赤いボタン目掛けて手を上げた。
(えぇい! こうなったら、どちらも押しますわー!)
半ばヤケクソになりながら、両手で勢いよく赤いボタンを押した。
ポチ、ポチ!
すると圧縮機が緊急停止し、扉が開いた。
「成功だわ!」
ジゼルが喜んだのも束の間……今度は室内に激しい警告音が鳴り響く。
「エヴァレット、よくやった!」
ディランが笑顔で鉄の扉を押し上げながら出てきた。
「もしかして、赤いボタンを二つとも押しました⁉」
続いて、焦った表情のロンも出てきた。
「えぇ、押しましたわ……!」
「なんてこと……もう一つは焼却ボタンですよ! ちゃんと上に燃焼と書かれてあったでしょう⁉」
ロンが叫ぶ後ろで、廃棄置き場の中で勢いよく炎が噴出された。
ジゼルは扉の小窓から漏れるオレンジ色の光を見つめて、冷や汗を流しながら神妙な顔で頷く。
「焦ってしまって……文字に気が付きませんでしたわ!」
ロンは小窓を覗き込み、中の様子を確認していた。
「まずい……ただでさえ、安全制限術式が正常に機能してないというのに、高温の熱を感知して、魔力暴走が起こってる……」
「それは……どうなるんだ……?」
ディランが恐る恐る尋ねると、ロンは勢いよくこちらを振り返った。その顔は、真っ青だ。
「このままだと、魔道具が爆発します!」
ジゼルとディランは、思わず顔を見合わせる。
「お前なぁ! いつも余計な仕事増やしやがってー!」
三人は一目散に地下の階段を駆け上り地上に出た。直後、工場全体が大きく揺れ、地下から凄まじい爆発音が響いた。
「一歩遅けりゃ巻き込まれてたな。危なかった……」
「従業員が帰った後で良かった……」
ディランとロンが、心底安心した様子で呟いていると……ピシ、と床にヒビが入っていった。
「……え?」
二人の後ろにいたジゼルの足元が、崩れ落ちる。割れた床の下から、息ができないほどの熱気が噴き上がってきた。
ディランが振り返ると、そこには、崩れた床と共に炎の中へ落ちていくジゼルの姿があった。
ジゼルとディランの目が合う。
「あ……」
ジゼルが無意識にディランに手を伸ばす。ディランも反射的に必死に手を伸ばして……
「ジゼル!」
その手をしっかりと掴んだ。二人は炎の中へと落ちていく。
ロンが青ざめながら穴の中を覗き込むと、そこにはジゼルをしっかり抱き締めてぶら下がるディランの姿があった。
ディランはジゼルを抱き寄せると、咄嗟に床から剥き出しになった鉄骨を掴み、なんとか落下を免れていたのだ。
二人の足元では、轟々に燃え盛る炎が渦巻いている。
「僕の手を掴めますか⁉︎ 引き上げます!」
「……先にこいつを……」
苦しそうに顔を歪めながら、片腕でなんとかジゼルを上に持ち上げる。ロンは頷いてジゼルの腕を掴み、そして引き上げていった。
引き上げられたジゼルは無傷だった。ディランが、炎の熱気からジゼルを守るために、防御魔法をかけてくれていたのだ。
次にロンはディランに手を伸ばす。空いた片手でロンの手を掴んだが、自分よりも長身の男を引き上げるのに、ロンは手こずってしまった。
ジゼルも手を伸ばして、ロンと二人で必死にディランを引き上げる。そして、やっとのことでディランを救出することができた。
ロンはひとまず安心してディランを見る。ディランは這い上がったその場に蹲っており、ロンはすぐに異変を感じた。
「大丈夫ですか⁉︎」
ディランを見れば、彼の左足のブーツは焼け落ち、皮膚は酷く焼け爛れていた。
ディランは咄嗟にジゼルへ防御魔法をかけたが、自分にまで手が回らなかった。庇いきれなかった左足に火傷を負ってしまったのだ。
「私より……なぜ自分に防御魔法を使いませんでしたの⁉」
ジゼルは青褪めながら、信じられないといった目でディランに叫んだ。するとディランは、顔色を悪くしながらも目を薄く開けて……
どうやらジゼルに怪我がないようで、ディランは安心しながら力なく笑ってみせた。
「はは……俺としたことが……しくじった……」
ディランはそう言って、気を失ったのだった。




