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中に入ってくる二人の姿を見て、ジゼルが明るい声をあげた。
「まあ。ロンさん、解放されたのですね」
「あ、先ほどはどうも……はい、一旦は……」
ロンが頭を掻きながら笑って答える中、ディランはさっそく出荷前の夜間管理についてロンに尋ねた。
「確かにその日は二人で夜間に業務をしていました」
「どちらも一切目を離さず?」
「……えぇ、もちろんです。出荷前の一番大事な工程ですから」
その時、少しだけロンの目が泳いだことをディランは見逃さなかった。
「ちょうどいい、お二人さん。このまま少し、お話をいいですか?」
ロンとケビンは頷いて、ディランたちの元へ近付いてきた。
「どうされたんですか? もしかして、説明不足な箇所がありました……?」
先に口を開いたのはケビンだった。
「いいえ。ただ、俺たちから一つお伝えしたいことがあるんです」
ディランは勿体ぶったように言うと、親指で隣に立つジゼルを指差した。
「こいつ、俺の相棒なんですが……普段は間抜けな顔をした世間知らずのお嬢様なんですがね、実は『解析魔法』を使えまして」
ロンとケビンの視線がジゼルへ向く。その赤い瞳が不自然な輝きを放っているのを見て、二人はギョッとした。
ディランが不敵に笑いながら言葉を続けた。
「魔法の経過時間、魔法痕、術式構造、魔力波長……要は、魔法を読み取り解析できる便利な相棒なんです」
ロンとケビンの顔つきが変わる。ケビンは無表情になり、ロンの顔は青褪め、とても怯えている表情だった。
「……で、どっちだった?」
ディランがジゼルを見ると、ジゼルの目が普通の赤い瞳に戻っていく。
「この方ですわ」
そしてジゼルはロン……ではなく、ケビンを指差した。
「残念ながら。大量の回収品から微かに貴方と同じ魔力波長がありましたわ」
ジゼルに指を差された瞬間、ケビンは眉を顰めた。
「なにを根拠に、俺を犯人だと決め付けるんです?」
「先ほど、貴方は私の目の前で魔法を視せてくれました」
ケビンはハッとする。さっき、機械を整備する時に、ジゼルの前で魔法を使ったこと……
「貴方……安全制限術式に手を加えましたわね?」
ジゼルの鋭い目に対して、ケビンは呆れたように鼻で笑っていた。
「……馬鹿馬鹿しい。俺は技術者ですよ。仕事中に魔法を使うのは日常茶飯事です。製品に俺の魔力が残っていて、何がおかしいんですか?」
ジゼルは得意げに笑ってみせた。
「ふん。私は解析魔法だけは昔から得意なのよ。そう言い逃れしようとも……」
「そうですね。それだけでは貴方が犯人という証拠にはなりにくい」
「えっ⁉」
まさか味方のはずのディランまで異議を立てるとは思わず、ジゼルは慌てて隣のディランを見上げた。
ケビンは少しほっとした表情を浮かべる。しかし、ディランが急に険しい表情で「だが」と言葉を続けた。
「問題は、お前の魔力がどこに残っていたかだ……安全制限術式、そのものに残ってたんだよ。そんな小賢しい言いがかりで、俺たちから逃げられると思ってんじゃねぇぞ」
そして、ディランは次にロンを見た。
「お前も。もうこいつを庇っても意味がねぇって分かったよな?」
「……」
ロンは瞳を揺らしながら、小刻みに肩を震わせていた。
「どう、して……」
「あんた、嘘つくの苦手だろ? 反応ですぐに分かるよ」
魔法省で事情聴取の時から、やたらと自身のことより部下の心配をしていたロン。その部下というのは、きっとケビンのことだったのだろう。
ロンは青ざめながら涙目になる。不具合事故が相次ぎ、事故調査局から原因の製造識別番号を聞かされた時、ロンは気付いてしまった。
あの出荷前の夜間管理の日、確かに二人で業務にあたっていた。けれど……販売先からの一本の苦情連絡が入った。その対応に、ロンは二時間ほど、席を外していたのだ。
後から思えば、クレーム客は脈絡のない文句を長々と付けてきて、対応時間を引き延ばそうとしているようだった。ロンはただの嫌がらせと考えていたが……
実際に事故が何件も起き、事故調査局からの事情聴取を受けながらも、その日のことを反射的に隠してしまった。
「ち、違う……ケビンが、そんなことをするはずがないんです。この人は、とても真面目で、ひたむきで、誰よりも仕事に誇りを持っていて……だから、変な誤解で疑われないように言わなかっただけです」
ロンはそう言い訳をしながら、ハッとした顔をする。
「それに、僕が席を外したせいです。だったら責任は僕にあります!」
「あんたが部下を信じるのは勝手だ。だが、故意に口を噤み捜査の邪魔をするのは別だ」
ディランに冷たい目を向けられたロンは、それ以上何も言えなくなり、俯いてしまった。




