4-3
「ただ、僕たち調査局が工場に直接赴き、工場内を調査したのだけど……特に製造ラインの不備は見つかっていない」
ジゼルもジュリアンの言葉を聞きながら、報告書へと目を通す。すると、ディランが横から覗き込んできた。
「貴方の分の報告書がありますわよね?」
「面倒くせぇ。お前が開いてんだから、別にいいだろ。あ、次のページ見せてくれ」
ジゼルはぐちぐちと文句を呟きながらも、ディランに言われた通りにページを捲った。
「その製造担当の責任者も非常に協力的で、ここ数年の点検表や製造記録なんかも素直に公開してくれた……報告書に書いてある通りだね。その結果、機械や魔法術式に、事故原因となりそうな異常は何も見つからなかったよ」
ジュリアンがお手上げといった様子で肩をすくめた。
「事故として説明できない……人為的な可能性があると思い、君たち捜査局に協力を仰ぐことにしたんだ」
こうして、この案件は調査局から捜査局へと引き継がれた。
その責任者は、現在事情聴取のため魔法省を訪れているという。
「まずは、そいつに話を聞いてみるか」
「そうですわね」
ジゼルとディランは、責任者が待つ面談室へと向かった。
面談室の中には、製造責任者であるロンという男が静かに座っていた。事情聴取をしていた調査局の者たちと交代して、ロンの前の席にディランが座る。
ロンはディランの質問にも素直に答え、彼の話す内容はジュリアンの報告書とも相違ない。嘘を吐いているようには見えなかった。
それどころか、自分の管理不足のせいで、部下たちにまで疑いが向くことを恐れているようだった。
「捜査のご協力、感謝いたします」
ジュリアンの報告書以上の情報は出ず、ディランはため息をつきながら言った。
「こんなにお時間をいただいて……責任者の貴方が不在だと、貴方が担当する製造ラインは困りますね」
「それなら大丈夫です。ケビンが……えっと、副責任者がとても優秀な技術者ですから」
ディランの青い瞳が鋭くなる。
「優秀な副責任者……ですか」
「えぇ。彼は僕よりもずっと優秀で、とても頼りにしています」
ロンはディランの様子が変わったことにも気付かずに、朗らかな笑顔を浮かべて副責任者のケビンについて話した。
「……本日はお時間をいただき、ありがとうございました。この後は別の者が対応しますので、少しお待ちください」
ディランは席を立つと、ジゼルとともに面談室を出た。
「なんだか、誠実そうな方でしたわ」
ジゼルが言うと、ディランも頷いた。
「あぁ、そう見えたな。それに部下の能力を素直に認める柔軟さもある。ただ、過剰なくらい心配性な小心者……」
ディランはロンの仕草や口調を思い出していた。彼は、今回の事故のことで部下たちに迷惑がかからないことを、やけに心配していた。
「……本当にあの方が故意に事故を起こしたのかしら? そうは見えませんわ」
ジゼルもロンの人柄を思い出しながら、呟くようにそう言うと、ディランは鋭い視線を後ろの面談室の扉に向ける。
「人柄と無実は別だ。いい奴でも罪を犯す奴はいるし、嫌な奴でも罪を犯さなければ犯人じゃねぇ」
ジゼルが難しそうな表情を浮かべて、ディランを見上げる。ディランはジゼルと目を合わせて、ふっと小さく笑った。
「だから、俺たち捜査官がいるんだろうが。馬鹿」
『馬鹿』と言われ、ムッとしたジゼルは言い返した。
「貴方は悪態をつかないと、死んでしまう病気なんですの?」
「かもな。お前限定で」
「この意地悪男ー!」
本当にディランは、ジゼルを怒らせるのが上手い。
「よし。回収した故障魔道具を俺の便利な相棒が片っ端から解析し終えたら、工場に向かうぞ」
それなのに、ジゼルのことをサラッと『相棒』なんて呼ぶから……
「相棒使いが荒いですわ……」
文句を言いながらも、つい、ジゼルはディランを許してしまうのだ。
◆
二人がロンの職場である工場に到着すると、大きな事故が起こったというのに、工場内は混乱もなく、通常通り稼働していた。
「あの方がロンさんの仰っていた、ケビンさんでは?」
ジゼルが工場内の一人の男に気付いて、ディランに耳打ちする。ディランがそちらに目を向けると、そこには他の技術者に指示を出している一人の技術者の男の姿があった。
男は二人の来訪に気付き、わざわざ仕事の手を止めて挨拶に来てくれた。
「お仕事中にすみません。魔法犯罪捜査局です」
「話は伺ってます。俺はケビンです」
やはりその者がケビンだったようだ。ジゼルは予想が当たったと自信に満ちた笑みを浮かべてディランを見ると、鼻笑いで一蹴された。
「製造ラインの確認ですよね? 俺が案内しましょう」
ケビンはそう言って、自らジゼルたちの案内を買って出る。ディランは頷いてケビンの後に続いたので、ジゼルも慌てて彼らの後を追った。
ディランは工場内を見て回りながら、気になる部分を都度ケビンに確認していった。
機械や技術について、聞かれたことには即答。技術知識もかなり深い。それに他の技術者もケビンを頼りにしているみたいだ。
途中、製造工程でトラブルが起きた際にも、他の技術者たちは真っ先にケビンへ判断を仰いでいた。ケビンもまるで責任者のように、淀みなく指示を出していく。
ケビンはジゼルたちに断りを入れて、工場の製造機器の調子を確認するために魔法を使う。そんな姿を見つめながら、ジゼルは感心していた。
(確かに優秀な技術者のようね……ロンさんが頼りにするのも分かるわ)
その時、屈んだケビンの衣服の胸元からネックレスがこぼれ落ちる。




