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「局長! 私、この女と組むなんて嫌ですよ。一人で十分です!」
ジゼルがディランの後ろ姿を見送ったところで、ヴェロニカがアーネストに訴えた。
この一か月、ジゼルはそこそこ捜査局のメンバー達と馴染んできていたが、ヴェロニカだけ一言も口を利いていなかった。というより、その機会がなかった。
それはヴェロニカが、徹底的にジゼルを無視し避けていたからだ。
ジゼルとヴェロニカが不仲なことはアーネストも分かっている。彼は淡々とした口調で言った。
「……ここは職場だ。だから私は仲良くしろとは思わない。だが、私情を理由に局長である私の判断に背くのか?」
アーネストの厳しい視線がヴェロニカに向けられる。すると、ヴェロニカにも思うところがあるのか、さっきまでの勢いが萎んでいった。
「……いえ……でも、急にそんなこと言われても……」
ごにょごにょと言い訳するヴェロニカに、アーネストはため息をつく。
「お前が今抱えている事件には、ジゼルの能力が必要だ」
ジゼルの能力……つまり『解析魔法』。事件解決に行き詰まったヴェロニカにもそれが分かっているから、同じ解析魔法が使えるアーネストに事件のことを相談したのに。
(まさか、あの女と組まされるなんて……)
ヴェロニカは俯いて、両手で拳を握り締めた。
「……そして、お前たちがどんなに仲が悪かろうと、能力に関しては相性が良い……これ以上の理由が必要か?」
自分の上司にそこまで言われて、ヴェロニカはもう何も言えなかった。
諦めたように息を吐き、そばに立つジゼルを睨みつける。
「……行くわよ」
まるで敗北した気分で、ヴェロニカは言葉を捻り出した。
「いい? 私の邪魔だけはしないでよね! ヘマしたって、私はアシュクロフトさんのように助けてなんてやらないんだから!」
ヴェロニカはそれだけを吐き捨てるように言うと、さっさと捜査局から出て行ってしまった。
残されたジゼルは、眉を顰めて彼女が出て行った扉を見つめる。
「……何よ、私だって一生懸命にやっていますわ……」
そう呟き、横でお前は行かないのか? と言いたげなアーネストの視線に押されて、ジゼルは慌ててヴェロニカの後を追った。
捜査局を出ると、待ち構えていたヴェロニカが液体の入った小瓶を投げ渡してきた。ジゼルは慌てて、その小瓶を両手で受け止めた。
「解析しなさい」
命令口調で指示するヴェロニカに腹を立てながらも、ジゼルは言われた通りに液体を解析する。結果、ごく普通の回復魔法薬だった。
「……特に怪しい術式などもありませんわ。ごく一般的な回復魔法薬です」
ジゼルの回答に、ヴェロニカはため息をつく。
「な、何ですの⁉ 大体、事件内容を話して下さいませんと……」
ヴェロニカは嫌そうにジゼルから顔を逸らしたが、少しの間をあけてぽつぽつと事件について話し始めた。
事件現場はジゼル達が通っていた学院だった。
「――そこで、生徒の魔力暴走が同時多発したの。どうやら、原因はその魔法薬のようで……」
ヴェロニカがジゼルの手の中にある小瓶を指差す。どうやらこの液体は、魔力暴走を引き起こした生徒から押収した、飲みかけの魔法薬らしい。
この魔法薬は学院内の売店にも卸されている、どこの商店でも手に入る一般的な回復魔法薬だ。
「使用された薬剤の成分を鑑定したけれど……違法な成分は検出されなかった。ただ……」
「ただ?」
ヴェロニカが複雑そうな表情で言葉を切り、ジゼルは思わず聞き返す。
「薬剤の配合比率が少し、気になったわね……」
さっきまでジゼルと組むのは嫌だと騒いでいたヴェロニカはどこへやら、今ではすっかり捜査官の顔になっていた。
「でも、魔力暴走を引き起こすほどのものではない……その先の手掛かりが、どうしても私だけじゃ掴めないのよ」
ヴェロニカは苛立たしそうに頭を掻いて弱音を吐いた。そして、ハッとした表情でジゼルを見る。
「……ま、新人のあんたに言ったって、意味ないでしょうけど」
余程ジゼルに弱みを見せたくなかったのか、ヴェロニカは嘲笑的な笑みを浮かべてジゼルを挑発した。
しかし、ジゼルは怒るどころか、自信に満ちた笑顔で言った。
「でしたら、次に私たちが取る行動は現場の学院へ向かうことですわ!」
「……え?」
ヴェロニカは意外そうに目を丸くする。ジゼルは続けた。
「あの意地悪男が言ってましたの。事件解決の糸口は、必ず現場に残されている、と!」




