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3-1

 ジゼルが魔法省に勤め始めて、早一か月。これまでジゼルはディランと組み、捜査官としていくつかの事件を解決してきていた。


 今日も一件の事件を解決し、二人は仲良く……いや、口喧嘩しながら捜査局に戻ってきた。


「だから、俺が犯人を取り押さえるっつっただろうが! お前は運動音痴なんだから、でしゃばるんじゃねぇ!」

「だってっ、あそこで犯人が川に飛び込むとは思わなかったじゃない!」


 ジゼルは涙目になりながら、自身の腕を鼻先に近付けて匂いを確認した。


「もう最悪だわ、川に飛び込むはめになるなんて……何度、洗浄魔法をかけても、川のどぶ臭さが取れた気がしないわ!」

「お前がヘマしたからだろ。ったく……人の仕事増やしやがって……」


 ディランが大きく舌打ちする。今ではもう慣れてきたが、相変わらずディランはジゼルに厳しく、何かと馬鹿にしてくる。

 それがジゼルには悔しくて堪らない。


「なによっ! 私だって一生懸命頑張ってますのよ!」


 ジゼルだって真剣に仕事に取り組んでいるのだ。ただ、少し……張り切りすぎて空回りしてしまうだけで。少しくらい、ディランに自分の頑張りを認めてほしかった。


「おかえり。今日も犯人検挙だって? 二人とも、ナイスコンビだね!」


 エリオットが今日も優しい笑顔を浮かべて、両手にマグカップを持って出迎えてくれた。


「うぅ……エリオットさんの優しさが身に染みますわ」


 ディランとは大違いだと言いたげに、ジゼルはエリオットが淹れてくれた珈琲を啜った。


「どこがだよ……」


 ディランは疲れた顔でマグカップを受け取りながら、今日の事件のことを思い返す。


 逃げ出した犯人を二人で追っていた時、ディランが現場捜査と推理で犯人の逃走経路を特定し、ジゼルが解析魔法で犯人の魔力痕を追跡していた。


『違うわ! そっちじゃない、川沿いよ!』


 犯人の残留魔力を解析したジゼルが、ディランに犯人の行方を示す。着実に犯人との距離を縮め、ついに大きな川沿いで追い詰めた……までは良かった。


 ディランが魔法で犯人を捕らえようとした、その時……


『逃げ場はありませんわよ! 今度こそ、私が捕まえますわー!』


 何の作戦もなく、ジゼルが犯人に飛び掛かったのだ。


『おい⁉︎』


 ディランがフォローする間もなく、ジゼルは犯人へ一直線に突進していった。


『捕まえましたわー!』


 ジゼルが叫びながら犯人へ手を伸ばすと、逃げ場を失った犯人はジゼルの手を躱すように川の中へ飛び込んだのだった。


『……え?』


 ジゼルは急に止まることもできず……そのまま犯人とともに川の中へ落ちてしまった。


 ドボーン!


 川の中で揉み合うジゼルと犯人……いや溺れる二人を、ディランが救出した……という一連の流れを、ディランはうんざりとした様子でエリオットに話して聞かせる。


「それは……はは、ディランも大変だったね」


 エリオットが気遣ってディランを労うと、その横でジゼルがぷりぷりと怒っていた。


「あの犯人、泳げないくせに、決死の覚悟で川に飛び込んだらしいわ。馬鹿よね!」

「お前も溺れてただろうが……」


 ディランはジゼルと組んだことを早々に後悔していた。


「犯人の居場所を突き止めたまではいいのに……どうして余計なことばかりするんだ! この馬鹿!」

「ばっ⁉︎ また私の悪口を言うんですの⁉︎」


 そして始まる、ジゼルとディランの口喧嘩。この一か月で、捜査局の者たちはすっかり慣れてしまっていた。


 こうやってひとしきり口喧嘩を終えると、最後には結局、二人で新しい事件を追いに捜査局を飛び出すのだ。


 ――しかし、今日は違った。


「やっぱお前と組むの無理だわ!」


 ディランが苛々した様子で言った。


「なんですってぇ⁉︎ 私だって、貴方となんかっ…」


 ジゼルが負けじと言い返そうとしたところで、捜査局にアーネストとヴェロニカが戻ってきた。


「また喧嘩しているのか……」


 アーネストが呆れた様子で言った。


「仲が良いな、お前たちは」

「よくない!」


 声を揃えて反論するジゼルとディランに、アーネストはくすっと笑った。


「俺はこいつと組んだこと、かなり後悔してます!」

「私だって!」

「はあ……まあ、だったら丁度いいな」


 また喧嘩を始める二人に、アーネストはため息をついた。


「ジゼル。ヴェロニカの担当事件にお前も協力しろ」


 そして、局長としてジゼルに命じた。


「はい⁉」


 真っ先に声を上げたのはヴェロニカだった。ディランもわずかに眉を寄せる。

 ヴェロニカはあり得ないといった表情で目を見開き、ディランは複雑そうな顔をしていた。


「ディランはグレゴリーと組んでくれ」

「……わかりました」


 アーネストに素直に従うディランは、これから事件現場に向かうというグレゴリーと共に、捜査局から出て行ってしまった。


 ジゼルは、グレゴリーに付いて捜査局を後にするディランの背中を見つめていた。


(本当に離れ離れになるとは、思いませんでしたわ……)


 この一か月、口喧嘩をしながらもずっとディランと事件を追ってきたから……何だか変な気分になってしまった。

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