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【完結】終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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91 嵐の前に

 翌日。

 朝食のあと、再び島の反対側へ向かう。

 今日は人数が違う。


 シゲトさんと、大工組の三人と私で五台の自転車で向かってる。

 今日は下見なので、車で来る必要はないと思ったのだ。

 ガソリンの節約は必須だからね。

「思ったよりちゃんと残ってるな、この道」

 ナオトさんが周囲を見ながら言う。

「人がいる間は、最低限の整備はされてたんだと思います。人がいなくなってから、止まっただけで」

 自転車を降り、昨日と同じ場所に停める。

 草は、昨日よりも少しだけ踏み倒されている。

 人が来た跡だ。

「……いいな。こういうのは分かりやすい」

 親方が小さく頷いた。

「人の気配が残ってる」

 その一言に、英二さんが「確かに」と笑う。

 玄関までの道を進み、家の前に立つ。

「じゃあ、見ていくか」

 ナオトさんの一声で、空気が切り替わる。

 下見と見極めと決定の空気だ。

 引き戸を開け、中へ。

 昨日と同じ、乾いた埃の匂い。

「土間があるのか。ここにある薪ストーブは煙突を直せば使えそうだな。煮炊きもできそうだ」

「床は?」

「一部抜けそうだが、全面やり直しってほどじゃない。」

「どう減築するかだな。結花さん、家族三人って言ってたな?」

「はい、ご夫婦と小さな女の子一人です」

「じゃあ、寝室は一つでいいな。それとこの土間を上がったところの縁側の部屋をリビングスペースにしよう。それと女の子なら、そのうち一人部屋も欲しくなるだろうから、2LDKってとこか?それ以外を壊して、出た資材を使おう」

「俺、ちょっと水回り見てきます」

 シゲトさんが廊下の奥へと向かった。

 そのあとすぐに。

「結花さんー、ちょっと来てくださいー!」

 シゲトさんに呼ばれ廊下の奥へ行くとそこには……。


「ミシン……?」


 昔懐かしい足踏みミシンがカバーをかけてそこにあった。

「これまだ動きそうだ。服の直しとかこれでできるんじゃないか?」

「ですね。戸塚さんにも聞いてみます」

「ああ。こんな年代物のほうが、今のご時世じゃ動くものとして使えるんだなぁ」


 今の世界がいかに電機と言うエネルギーに頼り切ってるのかその言葉で改めて実感する。

 それでも家電は便利だし、明かりがないと夜は困る。

 となると次の買い物のリストは決まったな。


「それから、ここの水道ですが、パッキン替えたら使えそうです」

「それは朗報だわ」

「この島の湧き水は全世帯にいきわたっていたみたいですね。水道管さえ生きてて蛇口が使えたら大丈夫みたいです」

「お風呂は?」

「それはさすがに使えないです。でもここから今のお風呂のあるところまで毎日来るのは大変でしょうから、何か考えましょう」

「うん」

 

 私とシゲトさんの後ろで大工の三人が、無駄のない動きで家の中を見て回る。


 踏み、叩き、目で追う。


「柱も梁も生きてる。これはデカいな」

「屋根も大丈夫そうだな。雨漏り跡はあるが、落ちてはいない」

「最低限の補修で住めるとこまでは持っていけるな。減築も問題なさそうだ」

 結論が、思ったより早い。

 それだけで、少しだけ肩の力が抜ける。

「どのくらいかかりそうですか?」

「まず減築分の場所を落とすのに1週間、そこから直すのに1か月ってとこだな」

「そんなに早く?」

「元がしっかりしてるからな。あとは資材をどれだけ集められるかだ。集落のほうの空き家を何軒かバラしていいか?」

「もちろんです。使えるものは使いましょう」

「よっしゃ、そんじゃ一旦戻るか」

「待ってください、親方。戻る前に井戸の確認をしておきましょう」

「そうだな。井戸が使えるかどうかはデカい」

 ナオトさんが外に出る。

 家の横、畑の脇にある石組みの井戸。

 手押しポンプがそのまま残っていた。

「……これ、動くか?」

 ナオトさんがハンドルを握る。

 ぎぃ、と鈍い音。

 もう一度ゆっくりハンドルを上下させる。


 ――ごぼっ。


「……お?」

 全員の視線が集まる。

 もう一度、押して引く。

 今度ははっきりと音がした。


 ――ごぼ、ごぼっ。


 そして濁った水が少しだけ吐き出された。

「出たな」

 ナオトさんが短く言う。

「最初は濁るが、しばらく出せば澄む。井戸が死んでない証拠だ。呼び水なしでいけたってことは、ここはかなり水量が多い井戸だろうな」

「じゃあ、水は――」

「使えるな。飲用は一度煮沸か、簡易ろ過はしたほうがいいが」


 それでも。

 ここで水が取れる。

 それだけで意味が違う。


 ある場所から運ばなくていい。

 水のための生活がここだけで完結する。


「……これは大きいですね」

「電気がなくても生きられる形にはなるな」

 ナオトさんがポンプを軽く叩く。

「こういうアナログは強い。壊れても直せるしな」

「島にどれくらい井戸があるか地図を作りますか」

「そうだな。水が出る家を直すことで集落ができる」

「じゃあ明日は畑の後で、手が空いた人たちで集落の確認に行きましょう。ナオトさんたちは、この家のほうに専念してください」

「分かった。リヤカーで道具は運ばせてもらう」

「軽トラでいいですよ?」

「いや、ガソリンは節約したほうがいい。まだ調達にも行かないといけないだろう?」

「……じゃあお言葉に甘えます。暑いので、ちゃんと水分補給はしてくださいね、皆さん」

 分かってる、という返事の中で、私は家の庭を吹き抜けていく風が少し湿っているなと気づいた。

 海からの風だからかな?と思ったけど、少し違う気がした。

 

 今は夏。

 なら、この湿り気と風は。


 おそらく台風だ。

 ――嵐が、近い。

 

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