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【完結】終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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76 2往復目の完了

 軽トラが、ゆっくりと動き出す。

 今度は荷台には寝転がっている避難者も入れると8名だ。

 今、島にいる人数と合わせて19名。そして残りは新しいメンツを入れると14名。

 無理だ。

 三往復目で乗れるのは11名が限界だ。

 それは高瀬達も分かっているらしく、無言でこちらを見つめている。

「……全員、座っててください。絶対に立たないで。動かないで、声も出さないでください」

 ハルが荷台に向かって言う。

「……」

 返事はない。

 でも、見ていれば分かる。全員が必死にここからの脱出の緊張感と不安に耐えている。

「行くわよ」

 迦楼羅がアクセルを踏む。

 朝の光の中へ、車体が滑り出す。

 時刻は午前8時過ぎ。午前9時のゲートには間に合う計算だ。

「……静かすぎますね」

 ハルが小さく呟く。

 さっきまで聞こえていたはずの遠音が、妙に少ない。

「さっきより、散ってる」

「はい。でも――」

「その分、“溜まってる場所”があるかもしれない」

「……同感です」

 嫌な予感は、共有されていた。

 交差点を抜ける。

 昨日通った道。

 だが――

「……止まるわよ」

 軽トラが減速する。

「前、見て」

 ハルが目を細める。

 道路の先に、車が何台か斜めに突っ込んだまま止まっている。

 まるで道を塞ぐように。

「……これ、昨日なかったっすよね」

「ええ」

 間違いない。

 “人の痕跡”だ。

「突っ切りますか?」

「……いいえ」

 迦楼羅がゆっくり首を振る。

「時間がない。裏を抜けていきましょう」

「はい」

 ハンドルを切ったのは細い路地へ向けて。

 ギリギリ軽トラが通れる幅の細い道だ。

 向こうから車が来たら立往生になる。

「……行けます?」

「行くしかないでしょ」

 ハンドルを切る。

 路地に入り進んでいると。

「……いる」

 ハルの声が低くなる。

 前方。

 影が、動いた。

 一体。

 二体。

 いや――

「多いな……!」

 壁際にゾンビたちが溜まっていた。

 朝で動きが鈍いとはいえ、数が多い。

「ハル」

「はい!」

「前だけ開けて」

「了解!」

 窓から顔を出し、スリングショットを構える。


 ――パシュッ!


 真正面の一体の頭部に当たる。

 揺れるが倒れない。

 でも、立ち位置はズレる。

「もう一発!」


 ――パシュッ!


 今度は肩。

 バランスを崩す。


「今よ!」


 アクセルを踏み込み車体が一気に前へ。


 ――ドンッ


 一体を押しのける。


 ――ガンッ


 もう一体が横に弾かれる。


「かるさんそのまま!止まらないで!」

「了解よ!」

 狭く、左右が壁の路地。

 逃げ場がない。


 でも――ここを抜けるしかない。


 車の音に釣られて、奥からさらに影が動く。

「またきた……!」

「分かってるわ!」

 加速。

 強引に、押し切る。


 ――ゴリッ


 タイヤが何かを踏む感触。

 荷台で小さな悲鳴。

「大丈夫!もう少しで抜ける!」

 ハルが荷台に向かって叫ぶ。

 前だけを見る。

 路地の出口。

「抜ける!」

 最後の一踏み。


 ――ドンッ


 何かを弾いて。

 そのまま、路地を抜けた。


「……よし」

 ハルが息を吐く。

 だが。

「まだよ」

 迦楼羅の声は冷静。

「ここから大通り」

 視界が開ける。

「……こっちも多いな」

 ハルが苦く言う。

 点在していたゾンビが、こちらに気づき始めている。

 数は10体程度。

 だが、距離が近い。

 下手をしたら荷台に取りつかれかねない。

「スピードで抜けるわ」

「はい!」

「ハル、スリング構えておいてね」

「了解っす!」

 軽トラが加速していく。

 エンジン音が静かな街に響く。

 ゾンビたちが一斉に向かってきて、荷台から悲鳴が挙がる。

 だが――ゾンビたちは軽トラに届かない。

「時間は!?」

「あと10分!」

「余裕あるわね」

 わずかに息を吐く。

「……でも油断は禁物っすね」

「ええ」

 そのとき。

 荷台から、小さな声。

「……あの」

 若い女性の声だった。

「大丈夫?」

 迦楼羅が短く返す。

「……はい。でも……」

 言い淀む。

「何かあったら言いなさい」

「……ありがとうございます」

 それだけで、会話は終わる。

 でも。

 その一言で、空気がほんの少しだけ変わった。

(……まだ折れてない)

 迦楼羅は思う。

 この人たちは、まだ生きる意思がある。

「見えた!」

 ハルが前を指す。

 鳥居。

 ゲートの位置。

「……まだ早いわね」

 時計を見る。

 少し余裕がある。

「どうします?」

「周りにスモーク貼りの車はいない?」

「はい、見える範囲には」

「あいつら、最近この辺りにいないのよね。どこかに移動したのかしら」

「まあ俺らの活動範囲に敵が減ったのなら、それは悪いことじゃないですけどね」

「そうね、それはそうなんだけど……」

 今は、後ろにいる人たちが優先だ。

「少し手前で待機するわ」

 タイミングが最優先。

 もし間違ったら、後ろの荷台に被害者が出てしまう。

 

 路地に入り、減速。

 エンジン音を抑える。

 ゾンビが、ゆっくりと鳥居の周りに集まり始める。

「……増えてますね」

「でも許容範囲。あれくらいなら跳ね飛ばしていける」

「はい」

 時計を見る。

 そろそろだ。

 エンジンをかけ、ゆっくりと路地を出ると、ゾンビたちがこちらに気づく。

「……行くわよ!」

 鳥居に青白い光が滲むその瞬間を狙い、ゾンビたちを跳ね飛ばし。

 ――帰還する。

 タイヤが、慣れた地面を踏み、海の匂いが確かにする。

「……戻った」

 ハルが呟く。

 荷台で誰かが泣いた。

 堪えきれずに。

「……二往復目、完了ね」

 迦楼羅が息を吐く。

 でもその目はもう次を見ている。

「あと、一回」

 最後。

 一番危ない往復。

 それが、まだ残っている。

「さあ、皆さん、着きました。今、迎えが来るので。自力で動ける人は下りてください」

 ハルの誘導に荷台の避難者がノロノロと動く。

 市庁舎から走ってくる仲間たちが避難者を下ろし、ホテルのほうへ連れていく。

「迦楼羅!ハルくん、おかえり!」

 走ってきた結花の嬉しそうな声を聴いて、少し心が和らいだ。

 でも、先に報告がある。

「結花、新しい報告があるの」

「報告?」

「三人、増えてた」

 名前、年齢、健康状態を書いた追加の紙を差し出す。

「正直、あまりいい印象はない。でも判断はあんたがするべきだから」

「そう。危なそうだった?」

「そこまでじゃないわね。単に絶望してた」

「そう。まああっちじゃそれが今の生存者にとっては当たり前なのかもね……」

「そうね。ここみたいに笑顔でいられる場所なんて、向こうには今ないと思うわ」

「……乗れそう?」

「全員は無理」

「なら、4往復目で全員。それでいくわ」

「それでいいの?」

「ええ。迦楼羅が見た相手だもの。なら、ある程度は信用できるし、何かあっても対処してくれるでしょ?」

「魚の餌でもいい?」

「任せる」

「分かった。じゃあハルも連れて行っていい?」

「ハルくんを?」

「そう。三往復目がおそらく一番危険になる。アタシは運転に集中しないといけないから、護衛としてやっぱり連れて行きたいの。あのスリングショットすごいわ」

「ハルくんならちゃんと使いこなしてくれるだろうと思ったんだ。じゃあハルくんも連れて行って」

「ええ。次は昼に出て夕方に帰るコースになるわ」

「分かった。気を付けてね」


 それから少し休んでから迦楼羅とハルは昼12時のゲートを通って三往復目となる新宿へ向かった。

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