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【完結】終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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69 ワクチン確保と戦闘

 階段は、思ったよりも静かだった。

 足音が、コンクリートに吸い込まれるように消える。

 ヘッドライトの灯りを大きくし、視界を確保する。

 

 手すりには薄く埃が積もっている。階段にも。

 ――誰も、最近は上がっていないのが一目で分かった。


「……三階、だったわね」

「ええ」

 田所が、小さく頷く。

 クーラーボックスを抱える腕に、無駄な力は入っていない。

 緊張しているのは同じはずなのに、その動きは落ち着いていた。


 階段を上がる。

 一階。

 二階。

 途中、廊下が見えた。

 扉は半分開き。

 机は倒れ。

 紙が散乱している。


 ――荒らされている。


 でも。


(食料だけ……って言ってたわね)


 確かに、それ以上を探した形跡は薄い。


「……入った形跡はあるけど、長居はしてない感じね」

「ええ。最低限だけ持っていった、という印象です」


 三階に上がる。

 空気が、変わった。

 ほんのわずかに――冷たい感じがする。

「……」

 田所先生が、息を吐くように言う。

「冷蔵設備さえ無事なら……」

 廊下の奥まで進むと「医薬品保管室」と書かれたプレートを見つけた。

 ドアは閉まっていて、鍵がかかっている。

 迦楼羅は迷いなくバールを振り上げ、ドアノブを叩いた。


 ガンッ!!


 激しい打撃音がして、ドアノブが壊れる。

「……開けるわよ」

「はい」

 迦楼羅がゆっくりとノブに手をかける。

 耳を澄ます。

 ――中から音はない。

 ゆっくりと、押す。

 ギィ、と小さな音がしてドアが開いた。


 中は――暗い。

 だが。

 奥に並ぶ冷蔵庫のランプが、かすかに光っていた。

「……当たりね」

 中に入り、警戒しながら冷蔵庫の前に立つ。

「先生、確認して」

「はい」

 田所がすぐに動く。

 一番手前の冷蔵庫を一つ開ける。

 ――そこから冷気が流れ出た。

「温度……保たれてる」

 もう一つ。

 さらにもう一つ。

 中身を確認していく。

「……あります」

 はっきりとした声。

「牛用、山羊用、鶏用、混合ワクチン……種類も揃ってる」

「使えるの?」

「ええ。少なくとも見た目と保存状態は問題ありません」

 一本取り出してラベルを確認する。

「使用期限も……まだ切れてない」

 その言葉に、空気が一気に軽くなる。

(いける)

 成功だ。

 だが。

 その瞬間だった。


 ――ガタン。


 小さな音。


 二人の動きが止まる。


「……今の」

「外……じゃない」


 この部屋の、どこか。

 視線を巡らせる。


 冷蔵庫。

 棚。

 机。


 そして――奥。


 薄暗いロッカースペース。

 何かが、倒れている。

 ……いや。

 違う。

 それは。


 “動いた”。


「――来る!」

 次の瞬間。

 影が、跳ね起きた。

 白衣。

 血。

 濁った目。

 青白い血の気のない肌。


 ――おそらくここの職員だったもの。


「っ!」


 距離が近い。

 狭い。

 回避が難しい。


 迦楼羅が即座に田所の前に出る。

 腕を振る。

 持っていたバールが、横に薙がれる。


 ――ゴンッ!


 頭部に直撃。

 だが倒れない。

 ぐらりと揺れて、それでも突っ込んでくる。


「しぶとい……!」


 踏み込んで距離を詰め、バールを振りかぶる。


 今度は――上から叩きつける。


 ――ガンッ!!


 骨が砕ける感触。


 ゾンビの動きが、止まる。


 崩れ落ち、床に転がってやっと息を吐いた。


「……はぁ」

「……大丈夫ですか」

「平気よ。そっちは?」

「問題ありません」


 田所は、すでに作業に戻っていた。

 震えていない。

 その手は、正確にワクチンを選び、クーラーボックスに詰めていく。

 豪胆でたくましい女性だと迦楼羅は思った。

「必要な分だけにするわよ」

「はい。全部は無理ですし、そんなにいりません。山羊と鶏の分だけ確保できたらいい」

 効率よく素早く。

 でも、確実に。

 外では、まだ何が起きているか分からない。

 時間は、長く取れない。

「……これで、最低限は確保できました」

 発泡の蓋を閉めて、入れていた保冷剤を発泡の周りに隙間なく敷き詰め、クーラーボックスの本体をカチ、とロックする。

「よし」

 迦楼羅が頷く。

「戻るわよ」

「あ、待ってください、迦楼羅さん」

「何かある?」

「今からあの人たちの拠点に行くなら、これもらっていきましょう」

 田所が見せたのは、未使用のノートとバインダーとボールペンだった。

「そうね、それはもらっていきましょうか」

「記録は私に任せてください」

「ええ、お願いするわね」

 そのとき。


 遠くから――ガンッ、と。


 鈍い音が響いた。

「……ハル」

 何かあった?

「急ぐわよ」

「はい」


 田所がクーラーボックスを抱え直し、急いで階段へ向かう。

 今度は、足音を隠さない。

 速度を上げる。

 “交渉の続き”と、“現実”が待っている場所へ急いで戻らないと。



 二階から一階へ駆け下りていく途中で。

 

 ――ガン。


 何かが音を立てた。

 田所が、足を止める。

「……いるわね」

「どこですか?」

「下に」

 迦楼羅の低い声。

 次の瞬間。


 ――ガタガタガタッ!!


 一階ロビーへの入り口に外からゾンビが殺到していた。

 迦楼羅が舌打ちする。

「多い……!」

「どうしますか?」

「やるしかないわね。田所先生は、車の中で待機!そのクーラーボックスを守ってちょうだい!」

「分かりました!」

 車のキーを田所に渡し、迦楼羅が一階へ駆け下りる。

「あったか!?」

 高瀬が声を張り上げる。

「あったわ!」

 それで会話は通じる。

「分かった!あとはあいつらをどうにかして脱出だ!」

 高瀬は、近くにあった掃除用具入れを開けて、中を一瞬で確認する。

 モップの柄を引き抜く。

 さらに、壁に立てかけてあった折り畳み式の看板を蹴り倒し、支柱を外す。

「タツヤ、それ持て」

「……それでやるのかよ」

「できるだろ?」

「できるに決まってんだろ!」

 迷いがない。

 モップの柄を、看板の金属パーツに引っ掛けるように組み合わせて――即席の長柄武器を作る。

(……早い)

 ハルが、わずかに目を見開いた。

 考えてから動いたんじゃない。

 “見た瞬間に使い方を決めている”。

「来るぞ」

 高瀬が、入口の右側に。

 タツヤが、反対側に。

 迦楼羅が、真正面。

 自然と、三角の陣形になる。

 それぞれに武器を構えた後ろ側にハルが軽トラの荷台でスリングショットを構えてる。


「いけるか?」

「問題ないわ」


 短い会話。


 そして。


 ――ガンッ!!


 扉が破れ、ガラスが飛び散り、ゾンビが一斉にロビーになだれ込んでくる。

 数が多いせいか、うまく進めないらしく、詰まっている。そこを高瀬が長物の柄でゾンビの胸を突き動きを止める。


 ――ドンッ!!


「今だ!」

 次の瞬間。

 迦楼羅が正面から滑り込む。

 手にしたバールが、正確に頭部を叩き潰した。

 ――鈍い音。

 一体、沈む。

 もう一体が、タツヤに向かう。

「くそっ……!」

 振りかぶる鉄パイプ。

 だが。

 振り切る前に。

 後ろから、モップの柄が首に引っ掛かった。

「振るな!」

 高瀬が、引く。

 バランスを崩したゾンビの体が、前に傾く。

 そこへ。


 ――バキッ!!


 タツヤの一撃が、頭に入る。


 そうして殺到していたゾンビ合計15体はロビーの床で動かなくなった。

 

 終わって残ったのは静寂。

 荒い息だけが空気を揺らしていた。


「……終わりね」


 迦楼羅が、軽く肩を回す。

 高瀬は、武器をそのまま構えたまま周囲を確認する。


「音でまだ来る可能性ある。早く動こう」


 判断が早い。

 無駄がない。

 そして。

 誰も、指示していないのに――連携が成立していた。


(……やるな)


 軽トラの上でスリングショットを構えて待機していたハルが、小さく呟いた。

 敵じゃない。

 でも、甘くもない。

 この街で生き残ってきた人間の動きだ。


「さて、それじゃ」

 迦楼羅がバールを軽トラの荷台に置いて、運転席に向かう。

「2人とも荷台に乗りなさい。拠点に案内してもらうわ」

 

 

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