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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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62 山羊捕獲大作戦! 前編

 昼過ぎ。

 市庁舎の一角から、いつもとは違う匂いが漂っていた。

「……いい匂い」

 誰かが、ぽつりと呟く。

 それは、ここに来てからあまり感じることのなかった――“ちゃんとした料理”の匂いだった。

「できたわよ」

 調理台の前で、フライパンを持った茜さん、英二さんの奥さんが振り返る。

 皿の上には、大きなふわりと黄色いもの。7つあった卵全部を使ったのかかなり大きめだ。

「……オムレツ?」

 思わず声が出る。

「卵焼きに近いけどね。材料が限られてるからシンプルだけど」

 そう言いながら、人数分に切り分けていく。

 その様子を、子どもたちが食い入るように見ていた。

「これ……にわとりの卵?」

「そうよ」

「ほんとに食べていいの?」

「そのために育ててるのよ」

「いただきます!」


 一斉に手が伸びる。

 口に運んだ瞬間。


「……おいしい」

 ユウキが、ぽつりと呟いた。

 その声は、小さいのに。

 やけに、はっきりと聞こえた。

「甘い……」

「ふわふわ……」

「すごい……これ……」

 誰もが、ゆっくり噛みしめている。

 ただの卵。

 ただの料理。

 でも。


 それは確かに――“かつて当たり前にあった生活”の味だった。


 ふと、視線を上げる。

 みんなが、同じものを食べている。

 同じ場所で。

 同じ時間に。

 みんな嬉しそうだ。

「……いいわね」

 隣で、迦楼羅が小さく言った。

「うん、すごくいい」

 思わず笑う。

「こういうの、ちゃんと増やしていきたいわね」

「……ああ」

 英二さんも頷く。

 子どもたちが美味しそうにオムレツを食べている光景を眩しそうに見つめている大人たちはみんな嬉しそうだ。

 そして。

「でも、これだけじゃ足りねえな」


 親方の現実的な一言。

 誰も否定しない。


「卵は安定するまで時間がかかる」

「肉も欲しい」

「保存もできるやつな」

 話が、自然と“次”へ移る。

 そのとき。

「そういえば」

 ぽつりと、桃ちゃんが言った。

「この島、山羊がいるって話、前にしてなかった?」

 一瞬の沈黙。

「あー……」

 思い出す。

 畑や漁業に足跡あったっけ……。

「いたわね。野生化してるって」

「昔、この島にあった観光農園で飼われてた山羊が逃げ出して山で繁殖したってことなんだろうな」

「見たことあるぞ」

 ツバサくんが手を上げる。

「山の方で。逃げ足速いけど」

「捕まえられる?」

「……やってみる価値はあるな」

 英二さんが腕を組むその横で。

 迦楼羅が、にやりと笑った。

「いいじゃない」

「迦楼羅?」

「やりましょうよ、“狩り”」

 その一言で、空気が変わる。

 さっきまでの“食事の時間”が。

 一気に、“準備の時間”に切り替わる。

「待って、ただ追いかけても無理でしょ」

「罠がいるな」

「ロープと囲いも必要」

「地形使うか……」

「テキサスゲートなら作れるな」

 一斉に意見が飛び交う。

 その様子を見ながら。

(……いい流れ)

 と、思う。

 

 食べて。

 満たされて。

 次に、“どうやって手に入れるか”を考える。

 他から奪うわけじゃないのがいい。

 それはもう。


 ただの生存じゃない。


 “暮らしを作る”ってことだ。


「よし」

 パン、と手を叩く。

「午後は山羊捕獲作戦のミーティング!作戦案がある人は出して!」

「「「「おおー!」」」」


 子どもたちまで、なぜかテンションが上がっている。


「危ないから子どもたちはこっちで遊んでろ!」

「「「「えー!!」」」」

「山に行くんだぞ!山羊は危ないところを平気で走る動物だ。だから子どもたちは留守番だ!」

「……しょうがないか。じゃあみんなでゲームしよう!すごろくでまだやってないのあったからみんなでやりたい」

 とユウキが言うと、みんな頷く。

 最近はユウキが、子どもたちのリーダーみたいになってるのはやっぱり一番年上っていう気持ちがあるからなのかもしれないな。

 うん、それも成長。

 当麻くんも舞ちゃんも、ユウキのことを新しくできたお兄ちゃん、という位置づけで慕っているし、彩羽ちゃんは大好きなお兄ちゃんがちょっと取られたみたいに思っているみたいで、その幼い嫉妬が微笑ましくもある。

 でも舞ちゃんは自分より下だし、というのも分かっていてお姉ちゃんぶりたい気持ちもあるようだった。

 うん、結論、みんな可愛い。

 


 ロビーの中央に、大きめの机が引き寄せられる。

 以前この市庁舎で使っていたらしいホワイトボードは最近ではミーティングに不可欠なものになっていた。

 100均で買ってきていたホワイトボード用のマーカーが大活躍してる。

 議事録は親方の奥さん、麻美さんがここに来てから受け持ってくれている。

 あとで見返せるのは本当に助かる。


 さっきまで“食卓”だった場所が、あっという間に“作戦室”に変わった。


「じゃあ、始めるわよ」

 私が言うと、全員の視線が自然と集まった。

「今回の目的は一つ」

 指を一本立てる。

「山羊を“生きたまま”確保すること」

 とホワイトボードに大きく書く。

「つまり肉じゃなくて、まずは乳だな」

 英二さんが補足する。

「そう。だから――怪我させないことが前提」

 その言葉で、空気が少しだけ変わる。

 ただの“狩り”じゃない。

 “捕獲”だ。

 「で、問題はそこだ」

 ツバサくんが腕を組む。

「山羊は足速いし、崖とか普通に走る。普通に追いかけたらまず逃げられる」

「山羊って群れで動くのよね?」

「だな。バラけると面倒だ」

「なら」

 すみれが手を上げる。

「“追い込む”しかないですね」

 その一言に、全員が頷く。

「地形、使うか」

「谷か、細い道か……」


 机の上の簡易地図に、指が集まる。


「ここ」


 英二さんが指したのは、山の中腹。


「この辺、斜面になってて逃げ道が限られる」


「で、そこに何置くの?」


 桃ちゃんの問いに。


「テキサスゲートだな」


 親方が即答した。

「テキサスゲートって?」

「蹄のある動物が嫌がる罠みたいなものだよ。人や車は問題なく通れる。門扉のない門みたいなものだ」

 と、遠藤先生が教えてくれた。

 簡単にホワイトボードに図を書いてくれて、親方と大きさを打合せしている。

「作れるの?」

「木と鉄パイプがあれば簡易ならいける。完全じゃねえが、“嫌がる”くらいにはなる」

「嫌がる?」

「足場が不安定に見えると、家畜は嫌がるんだよ。踏みたがらない」

 と遠藤先生。

「つまり」

 千里が腕を組む。

「後ろから追われて、前に進むしかない。でも戻ろうとすると怖いから止まる」

「そういうこと」

「そこに囲い?」

「そうだ」

 話が、一気に繋がる。

「囲いはどうする?」

「簡易でいい。ロープと網で“視覚的に塞ぐ”だけでも違う」

「完全に閉じるのは?」

「最後に人で閉めるしかねえな」

「……危なくない?」

 百合ちゃんが、小さく言う。

 その問いに、少しだけ沈黙。

「危ないわね」

 私ははっきり言う。

「だから役割分担する」

 机を軽く叩く。

「追い込み班、待ち伏せ班、設置班」

「追い込みは足速い奴だな」

「俺とツバサでやる」

「待ち伏せは?」

「俺も入る」

 英二さんが手を挙げる。

「設置は?」

「俺たちがやる」

 親方たちが頷く。

「偵察は?」

「午前中に一度見に行ってくる」

「了解」

 どんどん決まっていく。

 その流れを見ながら。


(ちゃんと“チーム”になってる)


 そう思う。


「あと」


 私は、少しだけ声を落とす。


「一回で成功させるつもりでやる」


 全員が、こちらを見る。


「失敗したら、山羊は警戒する。次はもっと難しくなる。ここでも欲張らない。群れ全部じゃなくていい。数頭いれば、私たちの目的は達成される」

「……だな」

 英二さんが、静かに頷く。

「だから準備は徹底」

「了解」

 短い返事。

 でも、その中に緊張感がある。

 そのとき。


「ねえ!」


 横から声。


 振り向くと、ユウキたちがロビーのカウンターに固まってこっちを見ていた。


「山羊、捕まえたら見ていい!?」

「……見るだけならな。」


「「「「やったー!」」」」


 また歓声。

 その無邪気さに、思わず笑う。


「じゃあ決まりね」


 パン、と手を叩く。


「山羊捕獲作戦、開始!」


「「「了解!」」」


 みんなの声が重なる。


 それは、“生きるための道をまた延ばす声”だった。

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