60 島の強化へ
鳥居を抜けた瞬間、視界が揺れた。
青白い膜を突き破るようにして、二台の軽トラは“こちら側”へと戻ってくる。
次の瞬間。
「――戻ってきた!」
鳥居の前で待機していた大人たちが一斉に動く。
子どもたちも、帰ってきた!と市庁舎から駆けて来た。
軽トラはスパイクトラップ前で停まり、続けて二台目も青白い光が遮断される前に無事に入ってきた。
「ストップ!そのまま待機!」
私が叫ぶと、運転席も助手席も動きを止める。
「……全員無事?」
「無事だ!」
ツバサくんの声。百合ちゃんも助手席で笑ってる。軽トラの屋根の上には元気がいい鶏の声。
でもちょっと積み荷多すぎない?さては欲張ったわね?
「よし……開けて」
スパイクトラップが外され、門が開く。
ゆっくりと、二台の軽トラが中へ入ってきた。
――そして。
「……え?」
最初に声を上げたのは、子どもたちだった。
「にわとり!?」
屋根の上で騒ぐ、十羽の鶏に子供たちがはしゃぐ。
「ちょっ、ちょっと待って!何それ!」
「増えてる!?人も増えてる!?」
千里と桃ちゃんが叫ぶ。
最近の千里と桃ちゃんは、推しとファンっていうより、ただの友達よね……。
まあそれもいいと思う。
軽トラから降りてきたのは、送り出した四人だけじゃない。
大人が二人。
そして、薄汚れた制服姿の女の子二人。
「ただいま」
百合ちゃんが、少し照れたように言った。
「おかえり……っていうか、ちょっと待って!?百合ちゃん、その人たちは!?」
「ええと、うちの学校の先生2人と私の同級生と後輩です」
「……連れてきちゃったかぁ」
「はい。連れてきちゃいました。四人とも農業高校なので役に立ちますよ」
まあそうだろうなぁ……。連れて来たってことは迦楼羅もOK出したんだろうし。
迦楼羅を見ると、こちらに向かってドヤ顔だった。
「ひとまず全員市庁舎へ行きましょう。まず話をしないと」
荷物は後回し。
人命優先。
それがこの拠点のルールだ。
「水、こっち!」
「座ってください!」
中里さんちの奥さんたちが用意してくれて、飲み物は人数分並んでいた。
新しい四人は戸惑いながらも椅子に座らされ、温かいお茶を手渡された。
二階の会議室はこの人数だとぎちぎちだ。
まず告げたのは、ここが約100年後の未来の島であることと、迦楼羅と桃ちゃんが半ゾンビである事実だ。
これはこの島にいる以上、一番に理解してもらわないといけないことだから。
「……すごいな。本当に避難場所があった」
「しかもちゃんと回ってる」
「はい。まだ造っている最中ですけど」
一息ついたところで。
「で?」
私がにっこり笑って、正面にいる迦楼羅に問う。
「説明、してもらおうかしら」
「何を?」
「何をどこまで“欲張った”のか」
「怖」
ツバサくんが小声で呟く。
「別に?」
迦楼羅は肩をすくめる。
「必要なものを全部持って帰ってきただけよ」
「人も含めて?」
「もちろん」
「鶏も?」
「当然。だって残してても死ぬだけだったもの」
間。
「……はあ」
大きくため息をついた。
そして。
「正解」
と白旗を上げる。
「でしょ?」
「むしろよくやったわ」
「でしょ?」
ドヤ顔二回目。
何かムカつく。
ツバサくんが苦笑し、英二さんが肩を落とす。
そこから、簡単な報告が始まった。
学校の状況。
残っていた物資。
そして――
「生存者グループに拠点を譲ってきた?」
「ええ」
迦楼羅はあっさり頷いた。
「維持できる人間がいない場所は、ただの箱よ。あそこは使えるし使わないともったいない。なら、使える人間に任せようと思ったの」
「……なるほどね」
私は少しだけ考え。
「相手は信用できる?」
と迦楼羅に聞いた。
「“話は通じる”」
「十分ね」
短いやり取り。
だがそれで判断は終わった。
迦楼羅が話が通じると判断したのならそれで十分だ。
「それと」
英二さんが口を開く。
「教師二人、農業と保健の先生らしい。百合が教えてくれた」
「マジで?」
「マジだ」
「最高じゃない」
これで素人だけの畑にプロの手が入る。
それに、住人の健康管理を任せることができる。
自分だけでは手が届かなかった部分にまた手が届いた。
「生徒二人は鶏の世話も畑も稲作もできるらしい」
「さらに最高ね」
「よろしくお願いします」
女性教師が頭を下げる。
「田所といいます。私たちも、できることは何でもします」
「助かります」
私も頭を下げ返した。
「ここ、まだ発展途上なので」
そして。
「にわとりはどこ置くの!?」
子どもたちの声。
全員がそちらを見る。
「……そうね」
「鶏なら小屋がいる」
と教えてくれたのは男の先生だ。
「世話は俺も、うちの生徒たちもできる。倉庫から当面の餌も敷き藁も持ってきてある」
「ありがとうございます。それじゃあ……」
少し考えて決める。
「仮設でいいから鶏小屋作るわよ」
「今から!?」
「今から」
「資材は?」
「あるものでどうにかする」
「大工班呼ぶ!」
「呼んで!」
一気に動き出す。
騒がしい。
でも。
その騒がしさは――
「にわとりさん、卵、産むの!?」
ユウキの無邪気な問いに、男性教師が笑って答える。
「ああ、産むぞ!」
「やったー!!」
確実に、“未来”に繋がる音だった。
その様子を。
少し離れたところで、百合ちゃんが見ていた。
「……すごいですね」
「でしょ?」
隣に立った迦楼羅が笑う。
「これが“帰る場所”よ」
「……はい」
百合ちゃんは、小さく頷いた。
(拠点が増えた)
(人も増えた)
(できることも増えた)
でも――
(敵も、増えた)
ゾンビだけじゃない。
“生存者”という不確定要素。
それでも。
「……まあ、いいか」
小さく呟く。
「やることは変わらない。ここを暮らせる場所にすること」
視線を戻す。
そこには、動き続ける人たち。
生きようとする、全員の姿。
これでこの島の住人は21人。
「よし!」
パン、と手を叩く。
「下のロビーに集合!今から新メンバー含めて、全体ミーティングやるよ!」
「「「はーい!」」」
元気な返事が響く。
その声は。
確かに、この場所が“生きている”証だった。
【神集島住人数】
21人




