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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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58 生存者たち

 夜の学校の前に、蛍のような懐中電灯の明かりが泳いでいた。


 ひとつじゃない。

 三つ。いや、四つ。

 その光が泳ぐように校内に滑り込んでくる。


「……複数いる」

 ツバサが低く言う。

「囲まれてる?」

「いや……様子見ね」

 迦楼羅は即座に判断した。

 動きが遅い。

 距離も詰めてこない。

 

 ――“狩り”じゃない。


「英二」

「ああ」

「アタシたちの車の位置、見えてる?」

「見えてる。車に触られてはいない」


 つまり。

 今入ってきた人間たちは見えているものを奪いに来たわけではない。

 ならば。


 ――交渉の余地あり。


 そのとき。


「……中にいる人間!」


 外から声が飛んだ。


 男の声。

 若すぎない。年配でもない。


「敵対する気はない!話がしたい!」


 全員が顔を見合わせる。

 遠藤が息を呑む。

「……どうする?」

「決まってるでしょ」

 迦楼羅が、くすりと笑った。

「話がしたいなら付き合うだけよ」

「危険だ!」

「危険じゃない交渉なんてないわよ」


 ぴしゃりと切る。

 そして。


「ツバサ、バール構えて。英二は後ろでカバー」

「了解」

「先生たちは下がって」


 ゆっくりと。

 校舎の正面玄関の扉が開く。


 夜気が流れ込んできた。


 正面玄関の前に立っていたのは――


 男が三人。

 女が一人。


 全員、簡単な武装している。

 だが。


 問答無用で襲い掛かっては来ない。

 無駄に手に持っているものを振り回さない。

 こちらとの話がしやすい距離を守っている。

 つまり、理性があると言うことだ。

 

「……」

 迦楼羅が一歩前に出る。

「話って何かしら?」

 その言葉に、男の一人が前に出た。

「ここに車が二台入ったのを見た」

「それで?」

「この辺で動ける連中は限られてる。だから確認に来た。どこかの避難所から来たのか?この学校には何人かいたのは知っている」

 

 淡々とした口調。

 威圧でも、媚びでもない。

 

 ただ、事実を確認に来ただけだ、という態度だ。


 「……へえ」

 迦楼羅の口元が少しだけ上がる。

「で?確認してどうするの?」

「取引がしたい」

 即答だった。

「こっちはこの辺の地理と安全なルートを知ってる。あんたらは物資を持ってる。分け合えるなら、争う理由はない。こちらにはもう物資に余裕がない。何とかしたいんだ」

 その言葉に英二がわずかに目を細めた。

 遠藤も、驚いた顔をしている。


 ――奪わない。


 それが、まず今の世界では異質だった。

「……アンタたち、何人いるの?」

「拠点には二十人」

「へえ。結構いるじゃない」

「子どももいる。だから外で動ける人数は限られてるんだ」


 嘘を言っている様子はない。

 むしろ。

 ――“見せている”。


「名前は?」

「聞いてどうする」

「話をする相手の名前くらい分かってないと、呼びづらいでしょ」


 軽く返す。

 少しの沈黙のあと。

 

「……相良だ」

 男が名乗った。

「アタシは迦楼羅」

 あっさりと返す。

「で、相良さん」

 一歩、近づく。

「アンタたち、“遊びでゾンビ潰してる連中”じゃないわよね?」


 空気が変わった。

 相良の後ろの男がわずかに動く。

 だが。

「違う」

 相良は即答した。

「それをしている連中がいることは知ってる。でも俺たちは必要な分しかやらない」

「そう」


 短く迦楼羅が頷く。


 ――合格。


「なら話は早いわ」


 にやりと笑う。


「アタシたちは、明日、ここから出る」

「……」

「物資をアタシたちの拠点に運ぶためにね」

 相良が目を細める。

「……それをわざわざ言うのか?」

「言うわよ」


 即答。


「アンタたちが“そういう連中”じゃないならね」

 試す視線。

 数秒の沈黙。

 そして。

「……分かった」

 相良が頷いた。

「手は出さない」

 一歩下がる。

「その代わり、明日、もう一度話をさせてくれ」

「いいわよ。なら、朝早めに来てね。その時アタシたちがもういなくても恨まないでよね」

「分かった。朝早く来させてもらう」

 あっさり承諾する。

「話はするわ。ただし条件」

「何だ」

「変な動きしたら――」

 迦楼羅が、笑う。

「全部潰すわよ」

 冗談みたいな口調。

 でも。

 誰も、笑わなかった。

「……了解だ」

 相良はそれだけ言うと、手を上げて校舎から出て行った。

 光と気配が遠ざかっていく。

 校舎に夜の静寂が戻った。

「……」

 誰もすぐには動かなかった。

 やがて。

「……今の」

 遠藤が呟く。

「敵じゃ、ないのか……?」

「さあね」

 迦楼羅は肩をすくめる。

「でも」

 窓の外を見たまま言った。

「少なくとも、“話が通じる側”ではあるわね」

「……」

「でも、今の話で分かった。”敵”もいるわ。そいつらにはおそらく理屈は通じない」


 そして。

 小さく笑う。


「――明日が楽しみだわ」

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