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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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52 住人になりますか?

 軽トラが二台通った後の鳥居は、いつものように静かだった。

 目の前の海も、変わらず青くてきれいで。

 ――だから余計に。

 後続の軽トラの荷台に残されたそれだけが、ひどく浮いて見えた。

 血に濡れた、腕。

「……」

 喉の奥が、ひどく乾く。

 ああ、でも。

 子どもたちが前の軽トラに乗っていて、本当によかった。

 前の荷台からじゃ、後ろで起きていたことなんて見えなかったはずだ。

 見せずに、済んだ。

「結花」

 迦楼羅の声。

「あれを処分しましょう」

「あれを……?」

 分かっているのに、聞き返してしまう。

「ええ」

 迦楼羅は、いつもの調子で言った。

「海にでも放り込めば、魚がきれいに食べてくれるはずよ」

「……うん」


 頷く。

 それしか、できなかった。


 その時、コンコン、と助手席の窓を叩かれ、見ればナオトさんが降りてきていた。


「迦楼羅、結花さん。何とか無事だな」

「うん。ナオトさんも大丈夫?」

「こっちも大丈夫だ。荷台に残ってるあのお荷物以外はな」

「ナオト。あれ、海に放り込んでおいてくれない?魚の餌にするのが一番処分としては困らないわ」

「分かった。すぐしてくる」


 ナオトさんは軽トラの座布団に腕を包んで、子どもたちには見えないように海に向かい、全力で座布団ごと海に放り投げた。

 水音が一つ、聞こえた。

 荷台は後で掃除しておこう。まずは……。


 助手席から降りると、後ろの荷台のみんなを下ろす。


「皆さん、神集島へようこそ。ここが私たちが今避難している無人島です」

 周りをきょろきょろ見るのは仕方ない。

 私だって初めて来たときは何ここって思ったもの。

「まず、市庁舎へ案内しますので、荷物持ってください。お茶の用意しますから」

 土嚢は跨げば通れるくらいの高さなので、スパイクトラップがある場所さえわかれば問題ない。

「あっちの建物まで皆さん歩けますか?無理ならこのまま軽トラで行きますが」

「いえ、大丈夫です、歩けます」

「パパ、ママ!見て!海だよ!」

 はしゃいだ子供たちが荷台から下りて海を見て飛び跳ねている。

 とりあえず全員を連れて、市庁舎に向かう。

 二階の会議室なら全員座れるかな。子どもたちには何か甘いものを……。

 

 などと考えていると、市庁舎からハルくんが出て来た。

「ハルくーん、ただいまー!」


 その声に手を挙げてこっちに走ってきてくれる。いや、ほんとハルくんって癒し枠だよね……。昔飼ってたポメラニアンみたい。


「おかえりなさい、結花さん!で、新しい人たちですか?」

「ええ。ナオトさんが昔勤めていた工務店で籠城してた人たち。とりあえず他のみんなに頼んで、二階の会議室に何か飲み物用意してもらえる?子どもたちには甘いものがいいんだけど」

「了解っス!」

 市庁舎に戻っていくハルくんの後を追うように全員で戻る。荷物の整理は後回しだ。

 市庁舎に戻り、ロビーで待っていると、千里が二階から下りてきてお茶の用意ができたと教えてくれたので全員で二階の会議室へ行く。

 そこにはユウキや彩羽ちゃんも含めて、こちら側の10名が揃っていた。

 最近少し暑くなっているので、桃ちゃんの製氷機が大活躍中だ。氷を入れた緑茶と、子どもたちには氷を入れたカルピスの用意ができていた。カルピスは乳酸飲料として優秀なので、備蓄に何本か入れておいたのだけどユウキがとても気に入ってしまっていて残りが少ない。買いに行きたい物資の一つになっていた。


「さて、それじゃ皆さんには座ってもらいましょう。子どもたち優先で。椅子が足りない人は、適当に他の部屋から何か持ってきて座って」


 と私が言うと、ナオトさんとツバサくんが他の部屋から椅子を持ってきたので全員座れた。

 子どもたちは目の前のカルピスにそわそわしていて、でもおとなしく待っている。


「まず、喉の渇きを潤してください。それから話を始めます」


 私の言葉に、全員グラスを持って口をつける。

「ああ、美味しい……」

「お茶なんていつ以来かしら……」

「カルピスおいしい!」

「うん、おいしいね、お兄ちゃん!」

 子どもたちも嬉しそうで良かった。

 少しだけ喉の渇きを癒す時間を経て、まずはこの島についての説明をした。


「先ほど皆さんが見た通り、ここは今は無人島になった場所です。そして、私たちがいた時代からおそらく100年ほど未来の時間軸になります」


 ポカンとする大人たち。

 うん、まあSF設定を現実に持ち込まれたらそうなるよね、分かる。


「私がここを見つけたのは偶然です。でも避難場所としては良いと思いました。ゾンビはいない、略奪者もいない、水もある。なので、今ここに避難してきた人たちが普通に暮らしていける場所を作りたいと思ってみんなで頑張っています。それをお手伝いしてほしいんです。もちろん向こうに帰りたいと言うなら止めませんし、お送りします。ここの住人になるかならないかは自由です」

「……いや、そりゃねえな」

 親方がぼそりと言う。

「あっちにいたって下手すりゃ今日明日には死ぬ。なら、今日明日を生きるための場所をこれからここで作るほうがよっぽどいい」

「親方さん……」

「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は中里正樹。中里工務店の社長で大工だ。ほら、おまえらも」

 親方に促され、座っていた人たちが口を開く。

「中里麻美、この人の妻で普段は会社の経理と事務やってました」

 と柔和な笑顔の年配の女性を皮切りに、自己紹介が始まる。

「中里英二、長男で、騒ぎの前は親父について大工してました。基礎も含めてインフラの勉強もしてます」

「中里茜です。この人の妻で、仕事は病院の調理センターで調理師をしていました」

「中里百合、高校3年生です」

「なかざととうま!6さいです!」

「なかざとまい!4さいです!」

 

 うん、子どもは元気が一番だね。


「まず聞いておきたいんだけど、皆さんアレルギーは?特に食べ物」

「ないです」

「うん、食べるものがみんな一緒だと助かるから良かった」

「じゃあ、こっちも自己紹介しようか」

 ユウキ、彩羽ちゃん、桃ちゃん、ツバサくん、ハルくん、シゲトさん、ナオトさんの順で自己紹介が終わり、みんなの視線が迦楼羅に移る。

「うん、大事なことだから最初に言っとかないとね」

 迦楼羅がにっこり笑って中里家の皆さんを見回す。


「アタシと桃ちゃんはね、半分ゾンビなの」

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