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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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51 ゲートの真実


 やがて。


 親方が、ゆっくりと息を吐いた。


「……ナオト」

「はい」

「おまえは、どう思う。どうしたい?」


 ナオトさんは、迷わなかった。


「……皆さんを連れて連れていきたいです。そこには建築の専門は今、俺しかしません。だから、親方の力を借りたいです。それに、ここに留まるよりは安全なのは保障できます」

「……」

「避難してきたみんながちゃんと暮らせる場所を作る。結花さんのその信条に俺は助けられました。でも俺だけじゃ足りない。だから、親方たちの力を貸してほしいです」


 ナオトさんのその一言に、親方は、少しだけ目を閉じた。


 考える。

 測る。


 そして――


「……条件がある」


 ゆっくりと、目を開く。


「飯と寝床の確約」

「はい、お約束します」

「……なら、全員で行く。おまえらこっち出ろ」


 奥から現れた人数は6人。親方を入れて7人。うち、子どもが二人。


「そっちの軽トラに乗せてもらえるか?」

「はい。ただ、そこに行くには時間の制限があるので、あとで教えますが、それだけは気を付けてください」

「分かった。で、ナオト。何が欲しい?」

「え?」

「軽トラで来てるってことは、うちの道具取りに来たんだろ?何でも持ってけ」

「……いいんですか?」

「避難先で作業が必要なんだろ?うちの軽トラに積むからこっち来い」


 親方に手招きされて、中に入っていくナオトさんの背中を見送りながら、私は目の前の6人に目を向けた。


「今から皆さんを連れていく避難所ですが、決して快適とは言えません。でも最低限のものは揃っています。ですので、持っていけるものをまとめてください。特にお子さんの着替えは大事です」

 私の言葉にハッとした年配の女性、おそらく親方の奥さんだろう、が話しかけてくる。

「着替えと、他には……?」

「そうですね。歯ブラシとか、本人以外に使いまわしができないような衛生用品も、できれば。薬とか、怪我や病気に対応できるものがあれば。避難所に病院はありません。健康を損なうことが一番まずいです」

「分かりました。では準備してきます。この事務所の奥が自宅になってるんですよ」

「はい、じゃあ私たちは軽トラを敷地に入れさせてもらいますね」

 迦楼羅が門の外に停めてあった軽トラを事務所の前まで入れてくる。

 彼の肌の色を見た全員に最初は警戒の色が浮かんだが、普通にてきぱきと動くのを見た上で迦楼羅の「ゾンビと同じ色のドーランを縫って擬態してるの」という言い訳を信じてくれた。


 それから私たちの乗ってきた軽トラに避難用の荷物と親方以外の6人が乗る。子どもたちは普段乗ることのない軽トラの荷台におおはしゃぎで、お父さんに静かにしなさいと叱られていた。

 荷台に少しだけ余裕があったので、釘やビスなどの細かい消耗品をどんと積む。


「こっちも積み終わった。結花さん、この工場の裏側にガソリンスタンドがある。そこでガソリンを入れよう」

「うん、分かった」


 工務店の軽トラの荷台には、発電機と工具箱、それから資材がいくつか積まれていた。

 もう一台の軽トラには、家族と最低限の荷物。子どもたち二人はお気に入りらしいおもちゃとぬいぐるみを持っていた。


「ナオト」

「はい」

「運転は俺がやる」

「……分かりました」


 短いやり取り。

 それだけで、役割が決まる。


「じゃあ、出るわよ」

 迦楼羅がエンジンをかける。


 先頭は――私たち。

 後続に、親方たちの軽トラ。

 道案内に私たちが先に走るのは当然だ。

 運転する親方には、鳥居が光るほんのわずかな間にくぐるしか避難場所に行く手段がないので、先頭の軽トラにぴったりくっついてスピードは落とさないでくれと頼んだ。

 そして、避難する人たちを前に乗せておいたことがこの後良い判断だったと分かることがあった。


 まず、工務店の裏にあるガソリンスタンドで、ハルくんに教えてもらったやり方で手動ポンプでガソリンの給油をする。さすがに時間は少しかかったけど、迦楼羅とナオトさんで警戒と「お掃除」をしてくれたおかげで、二台とも満タンだ。ついでに携行缶にガソリンを入れ、事務所にあった燃料添加剤を買った。これで少しは保つはずだ。商品棚にあったガソリン缶と軽油缶も買えるだけ買っておく。期限は3年。

 事務所のカウンターにお金を置いて、軽トラ用の替えタイヤも何とか空いている場所に積み込んだ。


 ガソリンスタンドを出発し、再び二台の軽トラが動き出す。


 満タンのガソリン。

 増えた人数。

 積み込んだ資材。


 ――これで無事に帰れる。


 そう思ってしまった。


「行くわよ」


 迦楼羅がアクセルを踏む。

 先頭の軽トラが走り出し、すぐ後ろを親方たちがぴったりとついてくる。

 荷台では、子どもたちを含めた6人がおとなしく座っている。

 事故を起こしたらアウトだけど、ゲートの時間に遅れるわけにもいかないから、できる限りのスピードと注意を払うしかない。


 ――この人たちを守らないと。


 そう思った、その時。


「……結花」

「うん」

 迦楼羅の声が、わずかに低くなる。

「……後ろ、見て」


 ミラーを見る。


 神社も近くなってきた遠くの道路の向こう。

 黒い影が、こちらに向かってくる。

 エンジン音が、遅れて届く。

 スモークの大型の乗用車が後ろに迫ってくる。


「……来たわね」

 思わず、息が詰まる。

「さっきの連中ね……!」

 この辺りを私たちを探すために張っていたのだろう。しつこい。

 でもここまで来て、帰らないのはあり得ない。

 後ろのみんなはかなり疲れ切っている。早くゆっくり休ませないと。

「スピード上げるわよ!」

 軽トラが跳ねるように加速する。

 後続も、必死に食らいついてくる。


 でも――


「距離、詰められてる!」

「分かってる!」

 道路の障害物を避けながら、限界まで踏み込む。

 止まれない。

 絶対に。

「くそっ……!」

 迦楼羅の焦りが滲んだ舌打ち。

「一台、突っ込んでくる!」


 ミラーに映るスモークの車。

 そして――横に並びかけてくる影。


「……来る!」


 次の瞬間。

 後続の軽トラに、男が一人、飛びついた。


「っ!」


 荷台の縁に、しがみつく。

 振り落とされない。

 離さない。

 まるで、獲物に食いつくみたいに。

 そうか、後ろの荷台には物資を積んである。

 それを狙ってるって意味もあってしがみついてるのか。


「……っ」

「結花!このまま行ったほうがいい!向こうには防衛ラインができてる!」

「そうね!ここまで来て帰らない選択肢はないわ!行きましょう!」


 バレる?それならそれで構わない。最悪、鳥居を壊してしまえばいいんだ。

 そうしたらもう二度と誰もあそこを通れない。

 私たちもこっちには来られなくなるデメリットもあるけど、こっちからの侵入者を潰せるメリットもある。


「見えた!」


 迦楼羅の声。

 前方。

 ――鳥居。

 時刻は12時10秒前。

 いける。


「そのまま突っ込むわよ!」

「うん!」


 減速しない。

 そのまま――軽トラが鳥居をくぐる。


 いつも通り。

 一瞬の視界のゆがみがあるだけ。

 そして――通過。


「後ろは!?」


 振り返る。


 後続の軽トラが、ゲートに入る。

 その瞬間。

 ――違和感。

 空気が、変わった。


「……え?」


 鳥居の上から。


 青白い光が――落ちるのをみた。

 それはもちろん知っていたけど、何だろう、初めて正面から見たその光は、まるで大きな刃が落ちてくるかのような。


 その光が落ち切った時、悲鳴が響いた。

 後続の軽トラの荷台。

 そこにしがみついていた男が。


 ――いなくなっていた。血まみれの腕一本を残して。

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