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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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53 あの日の空の色

 迦楼羅の言葉に、シン、と場が静まり返りグラスの氷がからん、と揺れた音だけが響いた。

 桃ちゃんは腕を組んだまま静かに迦楼羅の言葉の続きを待ってる。何かあれば桃ちゃんから説明の捕捉をするつもりなのだろう。


「アタシと桃ちゃんはそれぞれ噛みつかれる以外の形で半分ゾンビになったの。理性もあるし、言葉も通じるし、普通に生活もできる。

 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、所謂五感と言われるものは全て生きてる。

 最近まで味覚は死んでたけど戻ってきてるからご飯も食べるし。

 触感は少し強いというか、力が強くなっているけど、それ以外は特に前と変わりはないわ」

「……」

「だから、アタシと桃ちゃんがここにいることが嫌なら、あっちに帰ってもらうしかないわよ?」

「……だからそりゃねえって」

「……」

「アンタらは俺たちを助けてくれた。ここまで家族を守ってくれた。そんなの人間でもゾンビでも信用するに決まってんだろ」

 親方の言葉に張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ緩んだ。


 でも――完全には解けない。

 当然だ。

 “半分ゾンビ”なんて存在。

 この世界の異常そのものなんだから。


「……一つ、聞いてもいいか」

 親方が、低く言った。

「なんですか」

「ゾンビってのは……なんでああなった」

 静かな問い。

 それはここにいる全員が、ずっと目を逸らしてきた疑問だった。

 でも誰も答えを知らない。

「……分かりません。私は専門家ではないし、ただ状況を見て知っているだけ。それはここにいるみんな一緒だと思います」

 私は、ゆっくりと言葉を選ぶ。

「噛まれて感染するタイプがメインみたいだけど、それだけじゃない。桃ちゃんや迦楼羅みたいに、“別の形”で変異した例もある」

「……別の形、か」

 親方が眉を寄せる。

 その時。

「ねえ、結花」

 迦楼羅が、ぽつりと言った。

「さっきの、“あれ”」

「……あれ?」

「鳥居よ」

 空気が、わずかに変わる。

「あの光」

 迦楼羅の目が、少しだけ細くなる。

「アタシ、あれ見たとき……ちょっと似てると思ったのよね」

「……何に?」

「“最初の日”の空」


 ――。

 私は思わず息を止める。

「……最初の日って」

 ナオトさんが低く聞く。

「パンデミックが始まった日」

 迦楼羅は淡々と続ける。

「空、見てなかった?」

「……」

 私は、思い出す。

 あの日。

 ニュースも、通信も混乱していて。


 でも――空だけが、やけにおかしかった。


「……もう夕方だったのに、何だか眩しかった」

 ぽつりと、口から出た。

「普通の夕焼けじゃなくて……なんていうか……」

「青白かった」

 迦楼羅が、私の言葉を継ぐ。

「そう。あんな感じ」

 鳥居のゲートで見た、あの光と同じ。

 上から落ちてくる、あの色。

「……偶然じゃねえのか」

 親方が言う。

 でも、その声にはわずかな迷いがあった。

「どうかしらね」

 迦楼羅が肩をすくめる。

「でもさ」

 にやりと笑う。

「“あのゲート”、時間で開いて即閉じるでしょ?」

「……うん」

「しかも、“通れなかったものは切る”」

 

 ギロチンのように。


「そんなもんが、ただの避難用の通路なわけないじゃない」

 ぞくり、と背筋が冷えた。

「……じゃあ、あれは何なんだ」

 ナオトさんが、低く言う。

 誰も、すぐには答えられない。

 ただ一つ、はっきりしていることがある。

「……分からない」

 私は、正直に言う。

「でも」

 一度、全員の顔を見る。

「“あっちの世界”と“こっちの世界”は、あの鳥居で繋がってる。私たちがその不思議な力で助けられたのは確か」

「……まあいい」

 少しの沈黙のあと、親方が言った。

「理由なんざ後だ」

 腕を組む。

「今は、生きる方が先だろ」

「……はい」

 私は、頷いた。


 そうだ。


 今はまだ――“謎を解く段階”じゃない。

 謎なんて解けなくてもいい。ゾンビがなんで発生したかなんて、偉い人たちが解明したらいい。

 私たちはここで生きるための「生活」を作るのが最優先でやるべきことなんだ。

 

 胸に残る違和感に蓋をして、まずは新しい人たちが休むための場所として、ホテルに案内した。

 ここは、とりあえず寝泊まりするのにちょうどよくて部屋数もある。迦楼羅が連れてきた四人もここで寝泊まりしているのだ。ちなみに、ホテルの部屋で亡くなっていた人はみんなで協力して、海が見える場所に埋葬済だ。

 シーツの取り換えは時間がある合間で他の部屋の分もツバサくんたちがしてくれていたのですぐ使える部屋がいくつかあったのは幸いだった。

 

「お風呂の用意できますけど、みなさん入りますよね?」


 と聞くと、全員入りたいとのことで、ハルくんとシゲトさんがお風呂の準備してくれた。

 まともにお風呂も入れなかった時間がどれだけしんどかったか、と思うと、まずは存分にお風呂を使ってもらいたかった。

 子どもたちのために彩羽ちゃんのシャンプーハットを貸してほしいとお願いすると、彩羽ちゃんが「はい!」と持ってきてくれた。本当にいい子だなぁ。

 人数増えたし、ちょっとお風呂の数を増やす方法を考えたほうがいいかもしれない。

 今は源泉引いて湧き水足して、適温にするだけの方法だし。

 向こうは家族風呂的なもののほうがいいだろう。

 漁協に余ってる生簀あったっけ?ちょっと確認してこないと。


「さて、それじゃ今日は皆さんの歓迎会と言うことで、この市庁舎で晩御飯にしましょう。島を見て回りたい方は明日以降でお願いします。晩御飯まではお風呂に入ってゆっくり休んでください。ハルくん、皆さんをお風呂まで案内してもらえる?で、お風呂あがったら、ホテルの使える部屋まで案内してあげてほしいの」

「分かりました、結花さん」


 ハルくんに着いてぞろぞろ出て行く中里家の皆さんを見送ってから、私たちは私たちの会議を始めることにした。

 

 

【神集島住人数】

17人


一気に増えました。

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