表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/70

47 次のための作戦会議

 夜が終わる。


 それはつまり――“この遠征も終わる”ということだ。


 軽トラのエンジン音だけが、静かな道に響く。

 しばらく、誰も喋らなかった。


 疲労。

 緊張。

 そして――安堵。


 それらが、ゆっくりと体に沁みてくる。


「……なあ」

 不意に、ツバサが口を開いた。

「今回、さ」

 少し笑ってポツリとつぶやく。

「俺ら、ちゃんと“チーム”だったな」

 荷台で、ハルが少しだけ笑う。

「はい。俺、一人だったら絶対死んでました」

「アタシもよ」

 迦楼羅がさらりと言う。

「判断ミス、一個でもあったら終わってたわね」

 軽く言っているが、その重みは全員が分かっていた。

 だからこそ。

「……結花さんに、ちゃんと報告しないとですね」

 ハルが呟く。

「何を取ってきたか、じゃなくて――」

「どうやって生き延びたか、でしょ」

 迦楼羅が言葉を継ぐ。

「“次も生きて帰るための情報”が一番大事よ。これからもあっちに行くんだから」

 ツバサが頷く。

「……あの人、絶対それまとめるな」

「ノートにびっしり書くでしょうね」

「うわ、想像できる」


 少しだけ、笑いが漏れる。

 張り詰めていた空気が、ようやく人間らしい温度に戻る。

 この温度の向こうには、今大事にしないといけない生活が待っている。

 

 軽トラは、見慣れた道へと入る。

 鳥居が開くまであと数分だ。


 ――帰ってきた。


 まだ、安全とは言えない。

 でも。


 “帰る場所がある”


 それだけで、十分だった。


「よし」

 迦楼羅がハンドルを握り直す。

「英雄気取りは帰ってからにしなさいよ」

「そんなつもりないですって」

 ツバサが苦笑する。

「ただ――」

 一瞬だけ、言葉を探して。

「ちゃんと、生きて帰れるんだなって思っただけです」

 それは、誰も否定しなかった。

 朝六時、青白いカーテンを通り抜け、青い海が見える場所へ帰ってきた。

 軽トラが市庁舎の駐車場へ滑り込む。


 夜明けの光が、少しずつ世界を照らし始めていた。

 新しい一日が、始まる。


 ――“生き延びた者たちの一日”が。



「みんな、おかえり!」

 帰ってきた軽トラの荷台を見て思わずニコニコしてしまう。欲しかったものが山積みだ。

「ただいま、結花」

「おかえり、迦楼羅、ツバサくん、ハルくん」

「まず、荷物を下ろしましょう。ほら、大量にあるんだからみんなで手分けして。燃料缶だけは危険物だから、島のガソリンスタンド跡の倉庫を使わせてもらいましょう」

 それからみんなで荷物を下ろして整理してから、朝ごはんに。

 頑張った三人には少し多めにしてあげた。

 迦楼羅と桃ちゃんは味が分かるようになったことで食事にも同席するようになったけど、たくさんは食べない。どうにもまだうまく体が食べ物になじんでないらしい。でも、喉の渇きは相変わらずみたいで、2人には毎日多めに水を飲んでもらっていた。

 


 朝ごはんを終えたあとは、子どもたちと千里は学校へ。

 その他の大人たちは会議だ。


「――じゃあ、会議と報告会を始めます」

 私はノートを開いた。

 あの、部屋から持ち帰ってもらった“防災ノート”。

 少しだけ汚れていたけど、無事だった。これは私が積み重ねてきた大事な情報だから持ち帰ってもらって嬉しかった。

「まずは……お疲れ様」

 一言だけ、ちゃんと伝える。

 三人が、ほんの少しだけ顔を緩めた。

「それで――教えてほしいの」

 ペンを構える。

「“何を持ってきたか”じゃなくて、“何があって、どうやって生き延びたか”」

 ツバサとハルが、ちらりと迦楼羅を見る。

 迦楼羅が小さく頷いた。

「いいわよ。全部話す」

 それから。

 三人の話を、私は一つも漏らさないように書き留めていった。


 秋葉原の状況。

 ゾンビの密度。

 音への反応速度。

 人間との接触。


 そして――判断。


「……なるほど」


 私はペンを止めた。

 ノートの一ページが、びっしりと埋まっている。

「今回の成功要因、三つあるわ」

「三つ?」

 ハルが首をかしげる。

「一つ目。“欲張らなかったこと”」

 全員が小さく頷く。

「積載量、時間、リスク。全部をちゃんと意識して、“持てる分だけ”にした。これはすごく大きい」

「……まあ、かるさんが止めてくれたんで」

「当然でしょ」

 迦楼羅が肩をすくめる。

「二つ目。“役割分担”」

 私は指で軽く机を叩く。

「運転、警戒、回収。ちゃんと分かれてたから、無駄な動きがなかった」

「確かに……」

 ツバサが思い出すように言う。

「三つ目。“正しい撤退判断”」

 空気が、少しだけ締まる。

「戦わなかったこと。長居しなかったこと。交渉も最小限にしたこと」

 ノートに線を引く。

「これが、一番大きい」

 誰も、すぐには言葉を返さなかった。

 それだけ、重みがある生還なのだ。

「……逆に、反省点もあるわ」

 迦楼羅の言葉にペン先を少し止める。

「一つ。“音を出したこと”」

「あ……」

 ハルが小さく声を漏らす。

「扉の鍵を壊した時の音。あれでゾンビたちが寄ってきた可能性が高い」

「……すみません」

「いいの。そのおかげで主食を回収できたんだもの」

「そうね。おかげで主食の備蓄に少し余裕ができたわ」

「あれは必要な行動だった。でも――“音が出る行動”は常にリスクとして認識しておくべきだと改めて思ったわね」

 もう一つ大事なこと。

「“支払い忘れ”が何か所ある?」

「うっ」

 迦楼羅が露骨に目を逸らした。

「……秋葉原の最初のお店と、最後の主食回収分と二か所ね」

「これは……まあ、命優先だから仕方ないけど」

 苦笑する。

「次からは“払える余裕があるかどうか”も含めて判断ね」

「善処するわ……」

 ぼそっと返ってくる。

 私はノートを閉じた。

「――今回の遠征」

 全員を見る。

「成功よ」


 はっきりと言い切る。


「物資もだけど、それ以上に“次に繋がる情報”を持ち帰れた。それにハルくんのおかげでガソリンスタンドでの給油ができたのは大きいわ。手動でガソリンが給油できるなんて知らなかった。ねえハルくん、地下にあるガソリンってそろそろ限界かしら?」

「そうですね。だいたい半年もつって言われてます。でもスタンドのタンクは地下だから、地上にある車のガソリンよりは劣化は遅いはずですから、あと2カ月くらいはいけるかと」

「と、いうことはあのパンデミックからそろそろ5か月。もう少しいけそうね。まだ使えるのなら、燃料添加剤を入れればもう少し保つかもしれない。よし、次回はガソリンスタンドからのガソリン回収と、燃料添加剤も入れましょう。次は私も行くわ」

 その一言で、空気が変わった。


「……マジですか」

 ツバサくんが思わず聞き返す。

「本気よ」

 私は迷わず頷いた。

「今回の情報、机の上でまとめるだけじゃ足りない。現場の“感覚”を知らないと、次の判断を間違える可能性がある」

 ノートを軽く叩く。

「文字だけじゃ分からないものがあるの。匂いとか、距離感とか、“怖さの質”とか」

 誰も否定しなかった。

 それは――三人とも、痛いほど分かっているからだ。

「でも結花さん」

 ハルくんが少しだけ眉を寄せる。

「危ないです」

「分かってる」

 分かってるから行くのよ。

「だから、“守られる側”じゃ行かない」

 私には私にしかできないことだってある。

「役割、ちゃんと持っていく」

 視線を上げる。

「補給と管理。それと判断補助。あと、簡単な攻撃と防御をツバサくん教えてもらえる?今回みたいな優先順位の調整は、現場でやった方が早い」

「……分かりました」

 ツバサくんが頷く。

「あの場で判断できる人がもう一人いるのはでかい」

「それに」

 私は少しだけ笑った。

「私、防災オタクよ?」

 その一言に、空気が少しだけ緩む。

「備蓄だけじゃないの。使い方も、想定も、全部やってきた。それは全部このノートに書いてあるわ」

 迦楼羅が、じっとこちらを見る。

「……足引っ張ったら、置いていくわよ?」

「望むところよ」

 即答した。


 一瞬の沈黙の後、迦楼羅が、ふっと笑った。


「いいわ。連れていく」

 決定だった。

「ただし条件がある」

 ツバサくんが指を立てる。

「単独行動は禁止」

「分かってる」

「かるさんの指示には即従う」

「もちろん」

「危険と判断したら強制撤退」

「異論なし」

「……よし」

 ツバサくんが息を吐く。

「これで“チーム”だ」

 その言葉に、ハルくんが嬉しそうに笑った。

「じゃあ、次の遠征に向けてリストとルートの準備ね」

 私はノートを開き直す。

「まずは今回持ち帰った物資の仕分け」

「それはみんなでやりましょう」

 と桃ちゃんが言ってくれた。

「次に買う物資の優先リストの洗い直しも必要ね」

 まだまだ必要なものは多い。だから、みんなで決める。

「それから――」


 一度、全員を見る。


「“訓練”するわよ」

「訓練?」

 ハルくんが目を丸くする。

「実戦前の予行演習」

 私はペンを走らせながら続けた。


「暗闇での移動」

「無音での連携」

「負傷者の搬送」

「簡単な攻撃と防御」


 一つ一つ、書き出していく。


「できないことを、できるようにする」

 顔を上げる。

「――次は、“運が良かった”じゃ済まないかもしれないから」


 全員の表情が引き締まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ