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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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45 優先順位と初めてのおつかい

「――で?」

 迦楼羅がリストを見て腕を組んだ。

「これ、全部持って帰るつもり?」

 一瞬、空気が止まる。


 リストには、びっしりと必要物資が並んでいる。

 どれも“必要”だ。

 でも――全部は無理だ。


「軽トラ一台よ?」

 淡々と迦楼羅が現実を突きつける。

「重量、積載量、燃料、時間。全部に限界があるわ」

 誰もすぐには答えられなかった。

「優先順位、甘いわね」

 ぴしり、と言い切る。

「“欲しいもの”じゃなくて、“ないと死ぬもの”から選びなさい」

 その言葉で、思考が切り替わる。

 私はリストを見直した。

(ないと死ぬもの……)

「……ガソリン」

 ぽつりと呟く。

「それがないと、そもそも動けない」

「正解」

 迦楼羅が頷く。

「次は?」

「水の確保はできてるから……主食」

「長期的には正しいわね。でも“今回”は?」

 一瞬、詰まる。

 今回の遠征。

 持ち帰るまでの時間。

 帰り道。

「……防衛装備が優先だと俺は思います」

 ツバサくんが口を開く。

「ここを守るためのものが必要です」

「それも正解」

 迦楼羅が指を立てる。

「じゃあ今回のミッションは三つ」

「一、燃料」

「二、生存と防衛に直結する装備と物品」

「三、余裕があれば主食」

 一拍。

「それ以外は、次」

 ばっさりだった。

 でも。

「……分かりやすい」

 思わず笑ってしまう。

「でしょ?」

 迦楼羅が口角を上げた。

「生き残るってそういうことよ」

「あ、でも一つだけ最優先で行かないといけない場所があるわ」

「何?」

「私の部屋から軍資金を持ってきてほしいの。テレビ台の下に災害時用の現金を用意してある。見た目は細工箱みたいな綺麗な箱なんだけど、そこにいざと言うときのお金で100万現金入れてある。それを使って今回の買い物お願い。あと、キッチンの下に味噌の瓶があるからそれも。もうこっちにあまり味噌がないの。でも味噌なしの食生活は健康状態に直結するから外せない」

「分かった。今回はまず結花の部屋。それからガソリンスタンドと結花の会社の倉庫からガソリン缶と軽油缶。それから秋葉原のミリタリーショップでいいかしら」

 迦楼羅の確認に、全員が頷いた。

「順番もそれでいいと思う」

 ツバサくんが地図を引き寄せ、私のマンションの位置に丸印をつける。

「最初に結花さんの部屋。ここはピンポイントで短時間で回収できる」

「次にガソリン」

 ハルが指でルートをなぞる。

「スタンドは当たり外れがあるから、結花さんの会社の倉庫を優先。危険物倉庫なら手つかずの可能性が高いです」

「ちなみに危険物の倉庫は一番奥にあるわ。奥まった2階建てのあまり大きくない倉庫に、危険物の看板がかかってるから」

「最後に秋葉原」

 ツバサが低く言う。

「ここが一番危険だ。人も多かった分、ゾンビも多いし、生存者ともぶつかる可能性がある」


 確かに。


「――だから、秋葉原は時間を決めて動きましょう」


 迦楼羅が口を開いた。


「長居はしない。欲張らない。生存者とは、対話で。決めたものだけ買って、即離脱」


 その言葉に、全員が無言で頷く。


 もう分かっている。

 “全部は持って帰れない”。

 だから――

 “生きて帰るための分だけ持つ”。


「じゃあ決まりね」


 迦楼羅が笑った。


「――近所以外の初めての“遠征”よ」


 軽トラに残り僅かなガソリンを移し、とりあえず動けるだけの燃料を確保する。

 迦楼羅、ツバサくん、ハルくんを送り出したのは、一番生存者が少ないであろう夜12時だった。



 

 ゲートをくぐると、そこは明りのない暗闇で、ゾンビがうろうろする荒廃し命を感じない風景だった。


「分かっちゃいたけど、こうやって見るとなんかすげえいたたまれない気持ちになるな……」

 ツバサの言葉にハルが荷台で頷く。

「ほんとですね……。俺たち、ほんとに運が良かったんだな……」

「さあ、行くわよ。まず結花のマンションからね」

 アクセルを踏み、結花のマンションにたどり着く。

 もうそこにも生きた人間の気配はなく、荒涼としていた。

 3階の結花の部屋はドアが壊れたままでぎいぎいと揺れていた。

 ヘッドライトのおかげで視界は確保できているが、外からこの動く灯りを見られたくはない。

「ここよ。さあ、行くわよ二人とも」


 部屋に入り、荒らされた部屋は足の踏み場もなかったが、テレビなどは使えないと思われたのか無事だった。

 テレビ台の引き出しも開いていたが、綺麗な箱根の寄木細工の箱があり、蓋を開けると、一万円札と千円札がしっかりはいっていた。ふたを閉めて箱ごとッグに入れる。

 その時迦楼羅の目に入ったのは引き出しの中にある結花の字で書かれた「防災ノート」というノートだった。

(あの子の書き溜めて来たもの、か)

 それもバッグに入れて、キッチンの下から味噌の入った瓶を出して持ち出す。

「よし、ここは終わり!次は結花の会社に行くわよ!」

 マンションから走り去るとき、ちらほらと明かりが見えたのは、生存者がいる場所だろうか。少なくともまだ生きている人間はいる様だ。



 車道に放置された車の間を無理やり抜けるのは、夜はなかなか難しかった。それでも何とか畑を突っ切ったりして結花の勤めていた会社にたどり着く。

 そこは以前「買い物」にきたときよりはかなり荒らされていた。シャッターも開けっ放しで、倉庫にあった物品がかなりなくなっている。水や食料品、衛生用品が優先的に持ち出されているはず、という結花の予想は当たっていた。そして、会社の門も開けっ放しのせいか、ゾンビが夜の中をかなりの数うろうろしていて、正面から入るには行動が難しい。

 お目当ての危険物の倉庫は裏の駐車場から入るほうが早いと聞いていたので、倉庫の外周を裏に回る。

 駐車場の門は開けられていたので難なく中に入ることはできた。それから灯りを頼りにうろうろするゾンビを避けながら、お目当ての危険物倉庫を探していると、大きめの倉庫と倉庫の間にまるで小屋のように小さな二階建ての「危険物倉庫」と書かれた看板が掲げられていた。


「……静かすぎないか?」

 ツバサが小さく呟く。

「ですね……ゾンビあんなにいるのにこっちには来てないですね……」

 ハルも声を落とす。

 迦楼羅は答えず、周囲を見渡した。


「急ぐわよ」

 倉庫の前まで来て、気づいた。


 ――扉が、半開きになっている。


 三人の動きが止まった。

「……開いてるな」

 ツバサが低く言う。

「誰か入ってる可能性、ありますね」

 ハルが続ける。


 迦楼羅はゆっくりと息を吐いた。


「いい?中に入るけど――」

 振り返る。

「“人間”がいた場合、絶対に先に手は出さない。話し合いが優先よ」

「……はい」

「了解です」

「でも」

 迦楼羅の目が細くなる。

「襲ってきたら、遠慮しない。ゾンビならお掃除一択よ」

 静かに扉を押す。

 ギィ……と嫌な音が夜に溶けた。


 中は――暗い。


 だが、残っていた。


 ドラム缶。

 ポリタンク。専用ポンプ。

 そして――未開封のガソリン缶。軽油缶もある。


「……当たりだ」

 ハルが息を呑む。


 その瞬間。


 ――カラン。


 奥で、何かが倒れる音がした。


 三人の視線が一斉に奥へ向く。

 闇の中で、照らされた明りの中でゆっくりと“それ”が立ち上がる。


 人の形をしていた。

 だが、もう人ではない。

 片足を引きずりながら、こちらに向かってくる。

「……一体」

 ツバサが小さく言う。

「音、立てないで」

 迦楼羅が即座に返す。


 ここは危険物倉庫。

 何かのはずみに引火する可能性のあるものがいくらでもある。


「ツバサ」

「はい」

「やれる?」

 一瞬。


 ツバサは腰のバールに手をかけた。


「……やります」

「任せた。外におびき出しなさい。そのための音なら立てていい。ここは表からは遠いから少しくらいの音なら向こうにいるゾンビたちには聞こえないはず」

「はい」

 バールで床を叩く。

 ゾンビがその音に反応した。

 ツバサは後ずさりながら、バールで地面を叩き、ゾンビを倉庫の外へと誘導する。

(そうだ……こっちにこい)

 外までおびき出したところで、ゆっくりと前に出る。


 呼吸を整える。

 気配を消す。


 ゾンビは聞こえていた音の行方を見失ったのか、ただふらふらしている。

(頭を――一撃)

 距離、二歩。

 一歩。


 踏み込む。


 ――ガンッ!!


 鈍い音が夜に響く。

 振り下ろされたバールが、ゾンビの頭部にめり込む。


 ぐらり、と壊れかけた体が揺れた。


 もう一撃。


 ――ゴッ。


 今度は確実に崩れ落ちる。

 動かない。

 沈黙。


「……クリア」

 ツバサが息を吐く。

「ナイスです……」

 ハルが小さく言う。


 迦楼羅は倒れたそれを一瞥してから、すぐに視線を切った。


「いい?長居しないわよ。ゾンビたちに群がられたら終わり」

 切り替えは早かった。

「必要な分だけ持つ。ツバサ、ガソリン缶優先」

「了解」

「ハル、軽油も見て。発電機用」

「分かりました」


 三人は一斉に動き出す。


 倉庫の中には、まだ使えるものが確かに残っていた。


 だが――


 全部は持っていけない。


「1リットル缶を箱ごと乗せる。かるさん、これ3年先まで使える」

 ツバサが箱を持ち上げ、次々と軽トラに乗せていく。

「十分ね」

 迦楼羅が頷く。

寄木細工の箱から10万円抜いて、倉庫の棚に置いておく。しまった、結花に社割の割引はいくらくらいか聞いておくの忘れていた。まあある程度でいいだろう。


 欲張らない。

 それが、生き残るためのルール。


「撤収」


 短く言い切る。


 三人は振り返らず、倉庫を後にした。

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