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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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44 集合知の強さ

 それからハルくんと二人でミリタリーショップを含めた調達物資をリスト化していった。

 予算的には約50万。私の貯金を下ろせたらいいんだけど、それは無理だから、どうしたものかと考える。するとハルくんが首にかけていたネックレスを差し出してきた。

「これ、初めて俺を指名してくれたお客さんにもらった金のネックレスなんですけど、これでミリタリーショップ分含めた暫定予算は余裕で賄えると思います」

「え、でもそれ大事なものじゃ……」

「大事ですよ。大事だけど、命よりは軽いです。それにかるさんから聞いてます。結花さん、お金払わずに調達するの嫌なんですよね?なら、役に立てそうなことで俺も役に立ちたいんです!」

「……」

 思わず言葉が詰まった。


 差し出されたネックレスは、軽くはなかった。

 物としてじゃない。

 そこに乗っている“意味”が。

 彼が”お客さん”に愛された証だ。


「……本当に、いいの?」

 確認するように聞く。

「はい」

 ハルくんは迷わず頷いた。

「俺、これもらった時、正直めちゃくちゃ嬉しかったです。自分が認められた気がして。でも――」

 一瞬だけ視線を落とす。

「それを惜しんで死んだら、意味ないじゃないですか」

 その言葉は、静かだった。

 でも、重かった。

「……そうね」

 私は小さく息を吐いた。


 正しい。

 たぶん、すごく正しい。


 でも。


「でもね、ハルくん」

 ネックレスを受け取らずに、私は首を振った。

「私は“ただ取る”のが嫌なんじゃないの」

「え?」

「“後ろめたい形で手に入れること”が嫌なの」

 少しだけ言葉を探す。

「誰かのものを奪うとか、踏みにじるとか……そういうのを積み重ねた先に、“ここでの生活”を置きたくないの」

 自分でも、面倒くさい考えだと思う。

 でも、これだけは譲りたくなかった。

「……だから」

 私はネックレスをそっと押し戻した。

「これは、“使う”んじゃなくて、“預かる”にしよう」

「預かる?」

「うん。ちゃんと価値として記録しておくの」

 ペンを取り、リストの端に書き込む。


 ――金ネックレス(ハル)/換金用・借用扱い


「あとで、落ち着いたら返す。今回は私の貯金を使う形にするわ。自宅に現金で手元に置いてある分があるの。それを取りに私の部屋に行ってもらうことになるけど。銀行は……もう当てにできないし」

「……そんなの、いいですよ」

「ダメ」

 即答だった。

「これはハルくんのもの。今は“みんなのために貸してもらう”だけ。私がハルくんから50万借りた形で計上しておくわ」

 一拍。

「ここはね、“助け合う場所”にしたいの」

 視線を上げる。

「奪い合う場所じゃなくて」

 少しだけ、空気が変わった気がした。

 ハルくんはしばらく黙って、それから――少し笑った。

「……やっぱ結花さん、すげえな」

「何もすごくないわよ。私はただの防災オタク」

 苦笑する。

「意地っ張りよね、自分でも思うわ」

「その意地が、たぶん大事なんだと思います」

 そう言って、ハルくんはネックレスを一度握りしめてから、もう一度差し出した。

「じゃあ、預けます」

「うん。預かった」

 今度は、しっかり受け取った。

 重みは変わらない。

 でも意味は、少しだけ変わった気がした。

「よし」

 私はリストに視線を戻す。

「じゃあ優先順位、詰めようか」

「はい!」

「まずはガソリン缶。これは私が勤めてた会社に残ってる可能性が高い。私が勤めてたの、防災用品の会社だから、生存者には即狙われる場所だとは思うんだけど、略奪の優先順位としては水や備蓄食料、衛生用品が先に持ち出されてるはずだから。それにあれは危険物扱いだから、通常の倉庫には置いてなかった。見つけにくい場所にある。次に主食。その次に――」

「ミリタリーショップ」

「うん、それ」

 ペンが紙の上を走る。

 やることは山ほどある。

 でも、不思議と怖くはなかった。

(運だけじゃない)

 今はもう、それだけじゃない。

(ちゃんと、準備して、生きていく)

 そのための一歩を、今踏み出しているんだから。


 

 しばらくして、迦楼羅以外の三人が戻ってきた。迦楼羅はどこだろ?

 それぞれ手にここにあった工具を持っているあたり、もうすでに動き出しているのが分かる。

「ちょうどいいところに」

 私はリストを持ち上げる。

「調達物資、優先順位つけてるんだけど――それぞれ欲しいもの、教えて」

「お、いいな」

 シゲトさんが椅子に腰を下ろす。

「じゃあ俺からいいか」

 ナオトさんが口を開いた。

「まずは建材系だな」

 指を折りながら挙げていく。

「釘、ビス、金具類。これはいくらあっても足りない。迦楼羅がかなり用意してくれてるが、正直まだまだほしい。あと、ブルーシート。雨対策と仮設に使える」

「分かった」

「断熱材も必要だ。冬が来る前に絶対いる。工具の替え刃。ノコギリとドリル系」

 一度言葉を切る。

「あとできれば、発電機」

「発電機?」

 思わず聞き返す。

「ああ。電動工具をまともに使うなら必要だ。もちろん家を直す間だけでもいい。その間さえ使えたら」

 現実的だった。

「でも発電機は……」

 

 あれはめちゃくちゃ高い。

 さすがに私も入手を諦めた品だった。


「俺が昔世話になってた工務店の古い奴をもらって来ようと思う。もう使ってない奴が転がってたのは覚えてる。軽油だけは必要だが、ガソリン缶があるなら、軽油缶もあるんじゃないのか?」


 あ。


 そうだ、軽油缶もある。あれも確か3年くらい使えるはず……!

 リストに経由缶、と書き込んだ。

「俺は優先順位はっきりしてます」

 次にツバサくんが手を上げる。

「まず警戒系がここは足りてない。無線機。最低でも二組以上」

「確かに、通信手段は必要よね……」

「ホイッスル。音で知らせる用」

「災害用のなら3つならあるわ」

「それじゃ足りません。全員が持って使うことで、どこが危険なのか判断がつく。それからライト。できれば全員分ヘッドライト型とネックライト型。両手を開けておくことが大事です」

 ペンが止まらない。

「次に防護手袋。耐切創のやつ。できればそれ系のジャケットも」

「それならミリタリーショップで買えますね」

 とハルくんが情報を差し込んでくれる。

「ゴーグル、ヘルメット、もしくはそれに準ずるもの」

「……結構いるね」

「はい。ゾンビに噛まれたら終わりなので」

 淡々としているのが逆に重い。

「最後に簡易トラップ用。ワイヤー、釘、ハンマー、スコップ。土嚢袋」

「土嚢袋なら、この市庁舎の物置にかなりあったから、使えるかどうかあとで見てもらっていい?」

「分かりました。あとできれば、スコップは人数分」

「あ、そんなに?」

「掘るのも、防御ですから。それにスコップは武器にもなります」

「それなら、ミリタリーショップに軍用のスコップがあります。あれは武器にもなるように作られてるので欲しいですね」

 ハルくんの情報がまた厚みを持つ。

 なるほど、としか言えなかった。

「俺は生活維持だな」

 シゲトさんが腕を組みながら言う。

「まず水」

「それは湧き水でカバーできます」

「浄水器。できれば複数」

「浄水器はキャンプ用を5つ、交換用のフィルターも少しあります」

「交換用のフィルターは多めにほしいな。それから貯水タンク」

「それは、この島に残ってるものが使えます。かなりの数があるので、まずは綺麗に洗わないとですが」

「次に電気。蓄電器とソーラーパネルがあるのは見た。でもできればもう少し大きめのものが別で欲しい」

「それはどうして?」

「充電しておける小型の家電は、充電しておくのがいざと言うとき強いからだ」


 なるほど。

 今までは使うときだけ蓄電器に繋げばいいやって思ってたけど、そういうことでもないのか。

 

「そんなの手に入るかな……」

「ホームセンターならワンチャンある。大型なら小型の冷蔵庫も回せる」


 現実的なラインだった。


「あとトイレが足りないから増やしたほうがいい。今作ってあるコンポストトイレは下水が使えないこの環境では最適解だ」

「それは必要だと思ってました」

「集落の中を見て回ったら、ポータブルトイレを置いてある家がいくつかあった。あれを使えると思う」

「じゃあそれで増やしましょう」


 そこに迦楼羅が帰ってきた。

 私たちが顔を突き合わせてリストを作っているのを見て微笑む。

「短い時間で仲良くなっちゃって。嬉しいわね」

「迦楼羅。今回の調達だけど、迦楼羅とツバサくんとハルくんでお願いしたいの」

「まあそれはいいけど……。ツバサ、ハル、いいわね?」

「もちろんです」

「やります」


 さて、リストができたらコースの選定だ。

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