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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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36 何かが戻る時

 迦楼羅と桃ちゃんがまだ帰ってこない。夜9時のゲートを過ぎても帰ってこないなんて初めてだ。

「ママは……?」

 とぐずる彩羽ちゃんを千里とユウキがなだめて寝かせてくれたのは助かった。


 私は外に出て、暗い海の音を聞いていた。

(何かあった……?)

 いや、あの二人なら大丈夫だ。特に桃ちゃんは、彩羽ちゃんがいれば無敵だし。

 12時のゲートで帰ってくるかもしれないから、私はもうちょっと起きておこう。

 でも起きているだけだと、埒もないことばかり散漫に浮かんでは消えていく。


「……一人で考えててもダメね」


 こういう時は思考の整理が一番冷静になれる。

 私は市庁舎に戻り、ちょっともったいないとは思ったけど電灯をつけて、ノートを開いた。

 最初の頃からこうやって状況のまとめを書いてるのは、こうやって時々見返すと色々と自分の思考が整理されるからだ。


 ・ゾンビは聴覚で獲物を見つけるようだ。音に誘われる。

 ・半ゾンビは今のところ迦楼羅と桃ちゃんだけ。

 ・二人とも、味覚以外の感覚は生きてる。ただ触感は少し鈍いみたい。力は強い。

 ・野菜の生育は順調。もう少し畑を広げてもいいかも。

 ・コンポストトイレも順調。畑の肥料にも使えるらしい。

 ・市庁舎の屋上から雨漏りの危険があるので要修繕。

 ・稲作は全員初心者の為、事前に要調査。


 一行書き加える。


 ・ゾンビより危険なのは略奪を覚えて躊躇ない生存者。


 少しずつこの島での「生活」にまとめがシフトしていくのがこうやって見ていると分かる。

 最初はただの避難のつもりだった。でもここを見つけて、ここで避難生活を送るうちに「日常生活」が出来上がっていった。

 元の生活に未練がないとは言わない。

 でも、もう戻れない場所のことは考えない。

 

 それにあの世界には嫌な思い出が多すぎた。

 災害の記憶。

 秩序のない避難所。

 備えのない非力さ。

 理性のない人間の怖さ。

 暴力が向かうのは弱いもの。

 

 災害は、人の心を簡単に壊す。

 生き残ったことで味わった地獄を私は決して忘れない。


 もしこの島のことを知られたら……確実に略奪に来るだろう。

 そういう人種がいることを私は経験で知っている。

 私は聖人じゃない。この手が届く範囲を守るだけで精いっぱいだ。

 千里とユウキ……。この2人だけは守る、絶対に。

 迦楼羅もだ。彼は、私が巻き込んだ責任があるから。

 桃ちゃんは彩羽ちゃんを守るためなら何でもするだろうなという確信がある。当に母は強し、だ。

 

 私はペンを止めた。


 紙の上に並ぶのは、冷静に整理された“事実”ばかりだ。

 でも、そのどれもが――安心を保証するものではない。


 時計を見る。

 午後九時三十分。

 


 12時まではまだかなりある。


(……あの二人が、この時間になっても帰らないなんて初めてだ)


 胸の奥が、じわじわと冷えていく。


 嫌な想像は、いくらでも浮かぶ。

 事故。ゾンビの群れ。……人間。


 ――いや。


 私は首を振った。


「大丈夫。あの二人よ」


 そう口に出すことで、自分を落ち着かせる。

 迦楼羅は強い。桃ちゃんも強い。


 あの二人が一緒なら、簡単にやられるはずがない。


 ……それでも。


 ペン先が、無意識に次の一行を書いていた。


 ・帰還予定時刻を過ぎた場合の行動指針を決める必要あり。


 書いた瞬間、ぞくりとした。


 これは“もしも”じゃない。

 “何かがある前提”の思考だ。


 私はペンを握り直す。


 ・捜索に出るか、待機するかの判断基準。

 ・子どもたちの安全確保を最優先。

 ・最悪の場合の籠城強化。


 ……だめだ。


 考えがどんどん悪い方向へ向かう。

 これは良くないけど、避けて見過ごしておくわけにもいかない部分だと、2人が帰ってきていないことで浮き彫りになった。


 最も大事なことは一つ。この島で暮らす”今”を守ることだ。


 もし、この島に入り込む”略奪者”が来たら。

 あの時は何もできなかったけど、今なら。私にも少しは戦う手段はある。


 私は迦楼羅にもユウキにも千里にも見せたことがなかった、会社に置いてあったリュックから”それ”を取り出して構えてみた。

 うん、大丈夫、まだ使える。でも最近練習してなかったからなぁ。ちょっと練習が必要だな。

 もしここに”敵”が現れたら、最も良いのは最初に戦意を削ぐことだ。それは先に攻撃を仕掛けることも有効だ。


 私は知っている。

 世の中には”奪う”ことしかしない奴らがいることを。

 そういう奴らは先制攻撃で徹底的に痛みを叩きこみ、二度とこちらに接触しようなどと考えさせないのが一番なのだ。情けは無用。


 少し考えに耽っていると、いつの間にか突っ伏して眠ってしまっていたようだった。

 目を覚ましたのは、表から車の音が聞こえて来たからだ。


 帰ってきた!


 表に飛び出すと、見知った軽トラがこっちに走ってくるところだった。

 辺りは朝靄で包まれていて、結局一晩帰ってこなかったのだと分かった。


「迦楼羅!桃ちゃん!おかえり!」

 停まった軽トラに駆け寄ると、2人が疲れ切った顔で降りてきた。

「ただいま、結花。遅くなったわね」

「ちょっと色々トラブルがあってね……。とりあえず一休みしていいかしら?」

「二人とも疲れてる顔してる。市庁舎のロビーで休んで。まだみんなは寝てるよ」

 軽トラの運転を変わって、市庁舎の駐車場まで持っていく。


 2人は湧き水のところで水を飲んでから市庁舎に戻ってきた。

 こういう時、ごはんを食べられるのなら用意しておくのになぁ……。

 あ、でも水分は摂取できるんだし、紅茶でも淹れようかな?

 と、今まで思いついてなかったけど、これなら二人でも、と思い、急いでお湯を沸かす。

 ティーパックは一番庶民的なあのラベルのやつだけど、少し濃いめにしてみた。たまには水以外も飲んでほしい気持ちが大きかった。


「二人とも紅茶いれたよ」

 ロビーの応接セットにぐったり座っている二人に紅茶を持っていき、2人の前に座る。

「ありがと。もうちょっと飲みたかったのよね」

「うわ、なにこれ、濃すぎない!?」

 桃ちゃんが抗議の声を挙げるが、どうせ味は分からないんだし問題なくない?

 と、文句を言いながらも早速一口飲んでるし。

「にっが!ちょっとこれ苦すぎるわよ!」


 は?


「え、桃ちゃん今なんて……」

「だからこれ苦すぎ!」

「……味分かるの!?」

「……あ?」


 私の疑問に気づいたのか、2人とも紅茶を口にする。

「うわ、にが!」

「うん、苦い……苦いのが分かる……」

「さ、砂糖、入れてみる?」

「そうね、入れて飲んでみましょう桃ちゃん」

 慌てて砂糖を持ってきて、2人のカップに入れて混ぜる。

「……甘い」

「うん、甘いのが分かる……」

「ふ、2人とも味覚が戻ったってこと!?」


 半ゾンビになってから、2人の味覚は完全に死んでた。

 でも今、2人は苦みと甘みを取り戻してる……!


 ノートに書いておくことが一つ増えた。

 それはとても喜ばしい変化だった。


 一一だけど、どうして今?

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