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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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32 お花見と図書館

 かなり慎重に追跡者を警戒して、念のため午後6時をスルーして、午後9時にゲートをくぐった。

 もし着いてこられていたら、が一番怖かったのだ。

 なので、まだ明るい時間でもある夕方は避けて、暗くなったところで神社近くに待機した。人の気配もない町は待機するには人目もなく迦楼羅と桃には都合が良かったのだ。

 島に戻ると、結花が市庁舎から走ってくるのが車のライトに照らされた。

 

「おかえり、迦楼羅!桃ちゃん!……もう!6時に帰ってこないからみんな心配してたんだよ!?彩羽ちゃんはママが帰ってくるまで寝ないって言うし……!」

「遅くなってごめんなさい、結花。とりあえず何があったかは説明するわ。荷物は……明日下ろしましょうか」

「じゃああたしは彩羽のところに行くわね。市庁舎でしょ?」

「うん。ロビーのソファでユウキと絵本読んでる」

「ありがと。あの子のパジャマ持ってきたからそれ着せて、今日は市庁舎のほうで休ませてもらうわね」

 軽トラの荷台から桃ちゃんがボストンバッグを持って、市庁舎へと向かう。

「結花」

「何?」

「ちょっと今日あったこと説明するから、海のほうに行きましょう」

 ああ、これは子どもたちには聞かれたくない話をするんだ、と察した私は、子どもたちは桃ちゃんと千里に任せることにして、迦楼羅と港のほうへ向かった。

「もうね。向こうは相当荒れてるわよ」

 迦楼羅から聞いた話は、私の危機管理をマックスまで刺激した。

「……相当、限界なんだね、向こうは」

「そうね。ゾンビも増えてるし、街の荒れ方も加速してる。何より、人間が危険を承知で行動を始めてるのが怖いわね。それだけ追い詰められてるってことよ。初対面の相手に暴力を躊躇いなくできる人間はゾンビより数段危険だわ」

「……」

「結花。そろそろ本気でここに籠城も考えましょう」

「……それって向こうに行かずにここだけで暮らすってことだよね」

「そういうこと。それでね、少し考えたんだけど、ここも自治体だったわけだから、図書館あるんじゃないかしら?」

「……ああっ!」

 迦楼羅に言われて、今さらそのことに気づく。そうだ、ここ自治体だったんだから、図書館がないはずない!

「こういう島なら、娯楽書籍だけじゃなくて実用書や歴史書もそろえてると思うのよ。無理に向こうでこれ以上本を調達しなくても、こっちにあるものを確認して、どうしても足りないと思うものだけピンポイントで買ってきたらいいんじゃないかしら。本以外の物資調達をメインで考えましょう」

「迦楼羅天才!」

「知ってる、ありがと。じゃあ明日は図書館の場所を調べて行ってみましょう」

「うん、そうしよう!」

 市庁舎に戻ると、お気に入りのパジャマを着てご機嫌な彩羽ちゃんと、これまたお気に入りのジャージを着たユウキが並んで眠ろうとしているところだったが、ユウキが「かるにい!」と起きてしまって、寝付かせるのに少し時間を要した。



 翌朝、迦楼羅と桃ちゃんが向こうから持ってきてくれた小型の製氷機で早速氷を作ってみることにした。

 まだ春の終わりで本格的に暑くなるには早いけど、氷があるかないかで夏の乗り切り方が変わる。

 桃ちゃんの製氷機には専用のソーラーパネルがあるので助かる。私が社割で買ったソーラーパネルと蓄電池は小さな電気製品を色々使っているだけでもう精いっぱいだからだ。

「そうそう。昨日ね、クーラーボックスかなり見つけたんだよ」

 迦楼羅と桃ちゃんが向こうに行っている間、探検と称して、ユウキと彩羽ちゃんと千里を連れて民家の物置を色々探してみた。

 さすが漁師町だけあって、釣りが趣味の人が多かったのか、クーラーボックスが結構転がっていて、いくつか洗って乾かしてみた。冷蔵庫欲しいけど、さすがに賄える電力がない。それならクーラーボックスを冷暗所に置いておく、くらいしか案がない。

 ……家電ってすごいんだな、としみじみ実感したところに製氷機が!これで氷作ってクーラーボックスに入れておけば、簡易冷蔵庫になるのでは!?と色めき立ったのは仕方ないと思うの。それを伝えると迦楼羅は「それはいいわね」と賛成してくれた。これで、釣った魚も干物にして数日は保管しておけるかもしれない……!



 今日は、全員で島の図書館に行くことになった。

 ユウキと彩羽ちゃんの為におにぎりでお弁当を作り、みんなでお出かけだ。

 図書館は、調べてみたら市庁舎から歩いて20分くらいの郷土資料館の隣にあった。


『神集島図書館』


 と大きな木に彫られた文字は風化はしていなかった。

 ずっとここで来館者を待っていたのかもしれない……。

 入口は開いていたので、全員にヘッドライトかネックライトを装着させ、中に入る。

 もうずっと人が入っていなかった館内の空気は春だと言うのにひどく冷えていた。

「……これくらい冷えていて暗いなら、本もそこまで傷んでなさそうね」

 桃ちゃんが書架から一冊本を手に取る。

「うん、大丈夫そう。でもいきなり陽の下には出さないほうがいいと思うわ」

「分かった。じゃあ、実用書の棚の確認をまずしてみよう」

 書架の2番から3番が実用書。

 それを確認して、手分けして棚を確認する。ユウキと彩羽ちゃんは、入り口近くの絵本コーナーへと走っていった。

 最近は、ユウキが自分のほうがお兄ちゃんだから、と彩羽ちゃんの面倒をよく見るようになっていて少し安心だ。

「あ、これ良さそう」

 千里が見つけたのは『災害時の暮らし方』という、台風などが多いこの地域ならではの実用書だった。

「ええっと……ねえ結花、これ使えるんじゃない?」

 千里が広げてくれたページにあったのは、ドンピシャで今私が欲しい情報だった。

 

『停電時の冷蔵庫の中身をクーラーボックスで長持ちさせる方法』


 何々……?

 片栗粉を溶かした水で作った氷は融けるのが遅いのでクーラーボックスを長く冷やしてくれる、ですって?これは知らなかった……!中身はできるだけ隙間なく詰め、クーラーボックスの内側にアルミホイルを合わせたら、放射冷却効果も狙える、か。

「これは私も知らなかった。ありがと、千里」

「あ、これ持ってきてるから、メモしとく?」

 千里が小さなメモ帳と鉛筆を出してくる。

「市庁舎にあったメモ帳と鉛筆もらったんだ。ここで必要なものメモっておくほうが抜けがなくていいでしょ?」


 私の親友、マジ有能……!


「じゃあ、アルミホイルと片栗粉、メモしておいてくれる?」

「分かった」

 それから迦楼羅と桃ちゃんともいくつか必要なものの確認をしていると飽きたのか、ユウキと彩羽ちゃんがこっちにやってきた。

「ママー、おなかすいたー」

「あらもうお昼近いわね。じゃあ隣の郷土資料館に行ってお弁当にしましょうか」

「はーい」

 全員で隣の郷土資料館に向かう。

 郷土資料館の中も静かで荒らされている様子はなく、ああ、ここには故郷を荒らすような人もいなかったし、外から荒らしに来る人もいなかったんだと分かった。


 郷土資料館の中庭には桜の木が残っていあけどもうさすがに散ってしまっている。来年にはみんなでここでお花見ができたらいいな……。

 中庭の大きめのベンチは大きな桜の木の前にあって、ここでお花見を楽しむための設計なのだとすぐ分かった。


 来年はみんなで笑って、お弁当を食べてお花見をして……。


 鳥居の向こうは殺伐とした地獄でも、ここは今とても平和で守るべき場所なんだと思った。

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