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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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30 こちら側の現実2

 刺すような、探るような視線を四方八方から感じるが、反応はしない。


「(ご近所さん?)」

「(そうね。あのバリケード作ったのも籠城してるこの近所の生存組だと思うわ)」

「(桃ちゃんの家を荒らしたのも?)」

「(可能性は高いけどもうどうでもいいわ。それより早く離れましょう。あたしが帰ってきたのを見て何かいちゃもんつけてくる前に)」

「(今は様子見ってこと?)」

「(おそらくね。肌の色を見たら、あたしがゾンビになったと思ってても不思議じゃないし)」


 視線を無視し、車を発進させる。ちらりと見えたのは、他の家の庭先にある数台の車だった。

 車が使えるのなら、どうしようもなくなったら他所へ逃げることもできるだろう。

 今日は夕方まで向こうには帰れないのだ。早々に目的を済ませて、6時までは目立つ行動はできない。


「次はホームセンターよ」

 

 結花から預かったリストの物資が残っていればいいけど。

 

 ホームセンターの駐車場にはやっぱりゾンビが多かった。

 それは言い換えれば、略奪者は近寄れない場所になってると言うことだ。


「桃ちゃん、手伝ってね!」

「もちろん!」

 床から預かったリストのうち、女性の必須用品を書いた個所を破って渡す。

「そっちお願い!アタシはこっちに書かれたものを回収するから!」

「分かった!」


 ホームセンターの中はそれなりに物資を回収された痕跡はあったが、結花からのリストのものはあらかた回収はできた。

 店の中に入り込んでいたゾンビはやはり迦楼羅と桃を認識しても仲間だと思っているのか、襲ってくることはない。

 

「あ、迦楼羅。この辺りも回収しよう」


 桃が指し示したのは、工具コーナーと掃除コーナーだった。

 また十分に物資は残っている。工具や掃除道具は優先順位は低いということだろう。


「ダメよ。今の段階で予算ギリギリね」

「予算って、お金払うの?」

「そういうの、うちの相棒がうるさいのよ」

「分かった。これ使って」

 桃がポケットから出した財布にはそこそこの金額が詰められていた

「彩羽がクマさんを見に行きたいって言うから、こんなことがなかったらGWに北海道に行く予定で、旅行会社に払うお金用意してたのよ」

「いいの?」

「今、必要なものが優先よ。それにこのあたりの物資はあったほうがいい。さすがにこの辺はないでしょ」

「ないわね。……桃ちゃんが言うならそう(必要)なんでしょうね」

「まあ、財布の中身も少しは残しておきましょ。再度調達に来た時に必要なんでしょ、現金」

「分かったわ。じゃあ積みましょう」


 リスト外のものを持って帰ったら結花が怒るかも、と思いながらも積んでいく。

 だが、そろそろこっちに来るのも限界になるかもしれない空気をひしひしと感じる。ならば、回収できるものはしておいたほうがいい。支払いに不足が出るのなら、世の中には後払いと言うシステムもあるのだから。後払いに来られるのなら、だけど。


 時刻は3時過ぎ。まだ二時間以上ある。

 それなら、もう一か所行っておこう。


「桃ちゃん、用事は終わったけど、まだ時間あるから、次の回収に行きましょう」

「もうお金出せないわよ!?」

「いらないわ。アタシの家だから」

 


 迦楼羅の住んでいた場所は駅から少し離れた家賃の安い古アパートだった。

 節約のためではあったが、さすがにそろそろ引っ越したいとは思っていた矢先だった。

 ここまではまだ略奪の手は届いていないらしく、アパートにどこか壊れた様子はなかった。


「よし、ちょっと回収行ってくるわ。桃ちゃんは荷物の見張りよろしくね」

「分かった。気をつけなさいよ」

「ええ」


 6戸しかない2階建ての小さなアパートの1階の一番端が迦楼羅の住む部屋だった。

 鍵はいつでもベルトに着けている。


「ただいま~っと」

 ドアを開けると埃っぽい。

 でも懐かしくすらある自分の部屋の匂いだ。


「さて、持っていけるものは、と」


 この体になってから、新陳代謝が停まったのかまったく汗もかかない、排せつもない、髪も髭も伸びない風呂いらずの体になってしまった。でもそれはそれとして、汚れるのはやっぱり嫌だし、子どもたちの教育にもよくない。

 適当に着替えと、戸棚にあったストックの調味料や調理道具を転がっていた空の段ボールに詰める。

 それから、桃にだけ出させるのは悪いので、引き出しにしまってあったへそくりを残らずポケットに押し込んだ。


「これでいいか」


 もうこの部屋に帰ってくることもないかもしれない。

 そう思うと少し名残惜しかったが、表で桃が待ってる。

 段ボールを抱えて表に出ると、桃がバールを手に構えていた。

 その周りにはゾンビ、ではない人間が何人か金属バッドを構えて、桃と対峙していた。


「桃ちゃん!」

「遅い!」

「おい、もう一匹ゾンビでたぞ!」

「か、かまわねえよ!人数はこっちのほうが多いんだ!囲んでやっちまえ!」

「見ての通りの強盗よ。この車ごと寄こせ、だってさ。冗談じゃないわ」

「ゾンビにこんなもんいらねえだろうが!」


 状況が見えていないのか、現実が見えていないのか。

 きっと両方だ。

 ゾンビに話が通じてる時点でおかしいとは思わないのか。


「てか、おまえら!どっかで籠城してんのか!?そこ教えろ!!」

「……」

「人間様がこの車も物資もお前らが籠城してる場所も使ってやるって言ってんだよ!」

「……」

「……お、おい、もうやめとこうぜ。あいつらゾンビにしてはなんか変だ」


 一人逃げ腰だったが、そこは数の暴力。聞き入れるものはいない。


「桃ちゃん」

「手加減しろなんて言わないでよ?あたしは彩羽のところに帰らないといけないのよ。手加減する余裕なんてないわよ」

「誰が言うもんですか。この体になってちゃんと暴れるのは桃ちゃんは初めてでしょ?いい練習になるんじゃない?」

「そうね。悪いけど、このバール貸してくれる?」

「いいわよ、それは桃ちゃんが使って。でも殺しちゃダメよ。骨と心を折るくらいにしときなさい」

 

 段ボールを荷台の空いているところに乗せると、じりじりと桃の隣に寄り、背中合わせの位置を取る。


 一瞬の沈黙。

 先に動いたのは向こうだった。


 金属バットを振り上げて頭を狙ってくる大振りな動きは隙だらけだ。

 素人の動きだが、勢いだけはある。

 きっともう日常に余裕がないのだろう、と察することはできたが、それに同情するほどお人よしでもないのだ。

 そして、こんな理性の壊れた生存者たちをあの島へ招待するわけにはいかない。


「遅いっ!」

 

 桃がバールを横一線、胴体ががら空きの目の前の男に叩き込む。

 みしっと嫌な音がして、男がバットを取り落として蹲った。

 そして、迦楼羅へ振り下ろされたバットを、彼は片手で止める。

 ギィン、と鈍い音。

 

「……は?」

 次の瞬間。

 握ったまま、へし折った。

 まるで割り箸でも折るような、ぱきん、と軽い音がする。

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃ……!」

「……」

「分かった?アンタら程度じゃあたしたちには勝てないの。さっさと失せろ!」

 バールを振り上げたまま凄む桃の勢いに負け、5人ほどいた襲撃者は這う這うの体で傍に停めていた車で逃げ出した。

「ねえ、桃ちゃん」

「何よ」

「あいつら、どこからアタシたちに目をつけてたんだと思う?」

「?」

「あの車。あれ、桃ちゃんちから見えたやつと同じだと思うのよ」

「……つまりあたしの家から尾行されてた、ってこと?」

「おそらくね」

 

 なら、まだ諦めてないかもしれない。神社のゲートの秘密をあんな理性を失ったやつらが知れば、間違いなく押し寄せてくる。

 それだけは回避しなければ。

 

 ゾンビよりも、人間のほうが厄介だと――改めて思い知る。

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