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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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27 救出

ちょっと残酷な描写あります。

「そろそろ友達を迎えに行きたいの」


 私の言葉に、迦楼羅が少し考える。


「部屋に残してきたって言う子?」

「うん。もうあれから1か月以上経つでしょ?備蓄はまだしばらくは大丈夫だと思うけど」

「メンタルのほうが心配ね」

「そう。こんな状況で一歩も外に出ないでいたらおかしくなっちゃう」

 だから。

「それに、私、あの子に必ず迎えに来るからって約束してるの」

「分かったわ。じゃあ迎えに行きましょう」

「いいの?」

「いいも何も約束したんでしょ?それにあんた、部屋に残したものも回収したいって顔に書いてあるわ」


 う、私ってば分かりやすい?


「それならアタシが運転していくわ。ただし、部屋まで一緒に行くわよ。ゾンビがいたら、アタシが露払いをしてあげる」

「助かる」


 桃ちゃんと迦楼羅――二人に共通しているのは“半ゾンビ”であること。

 そして、その代償みたいに腕っぷしがやたら強い。車一台くらいなら持ち上げられるくらいには。それも半ゾンビの特性なんだろうか。何にせよ、桃ちゃんは「彩羽を守るために腕っぷしが強いのはありがたいくらいだわ」と受け入れていたし、迦楼羅も「まあフライパンを捻じ曲げるくらいのパフォーマンスができるほうが、何かあった時に使えるでしょ?」って、何かってなんだ、何かって。

 そういうことで、私と迦楼羅が向こうに行く間、桃ちゃんがユウキを守ってくれると言うのでお願いした。

 一応、自宅の鍵を持ち、迦楼羅が運転する軽自動車の助手席に乗り込む。


 朝6時のゲート。

 そのゲートの向こうは、まさしく地獄になっていた。

 前より明らかに増えたゾンビ。

 道を我が物顔でうろうろしてる。

 それだけじゃない、明らかに空き巣が入ったと思われる住宅街。

 割られた窓、こじ開けられた扉。

 人の“意思”で荒らされた痕跡。

 ゾンビたちが窓が割れた家に入り込もうとしていたり、開いたドアに殺到していたりする。

 そこに無事な人が残っていないことを祈るのみだ。


「行くわよ」

「うん」


 そのまま私の自宅マンションの駐車場まで走る。

 放置車両が多すぎて少し時間がかかったけど、無事着いた。


「行くわよ!」

「そこの非常階段から3階の303号室!」


 駐車場横の非常階段を駆け上がる。

 足音は今は気にしない。時間との勝負だ。


 階段を3階まで駆け上がり、私が見たのは。


「え……?」


 ぎいぎいと揺れる自分の部屋のドア。


「え、なんで……?」

 どうしてドアが壊れてるの!?

 予想外のことにふらふらと部屋の前に近寄る。

 うん、間違いなく私の部屋だ。

「千里!千里!」

 私の後ろをバールを持った迦楼羅が警戒してくれてる。

 だから私はそのまま自分の部屋に突入した。

 狭い1Kだから人がいられるところなんて限られてる。

 キッチンを抜け、居室に入った瞬間、私は悲鳴を挙げた。


「千里!」


 真っ裸の千里が、私のベッドでぐったりしていた。

 慌てて駆け寄って確認するけど、良かった、生きてる……。

 でもこれは……。


 同じ女だもの。体を見れば、千里がどんな目に遭ったのかわかる。

 ――どんな目に。

 

 私はシーツで千里の体を包み、ぎゅう、と唇をかみしめた。

「迦楼羅」

「ええ」

「ちょっとだけ時間頂戴」

「分かったわ」

 千里を見た迦楼羅も、彼女がこの部屋でどんな目に遭ったのか察知したのだろう。

 シーツに包んだ意識のない千里をどうにかベッドに寄り掛かるようにして起こし、私はまだ残っているはずの備蓄へと目を向ける。

 だが、そこはほぼ空っぽだった。ゴミが散乱していて匂いがしてる。

 その事実が現すのは明らかだった。


 ――強盗だ。


 私の備蓄を奪い、千里を弄び、ドアが壊れたままのこの部屋に放置した。

 でもまだ残ってるものもある。

 私は空のボストンバッグに千里のための着替えとして私の服と下着を詰め込み、備蓄オリコンの中に残っていたものを詰め込めるだけ詰め込む。

「迦楼羅、ごめん、私が千里を背負うからこのバッグお願い」

「アタシがその子背負いましょうか?」

「いいよ。私が背負う」


 だって迎えに行くって約束したんだから。


「じゃあ行きましょう」

「うん」

 千里は軽かった。

 大して食べてもなかったんだろう。

 早く連れて帰って水分補給させないと、このままじゃ……。


 千里を背負い、迦楼羅が私の前に立って、急いで非常階段を降りる。

 軽自動車で来て正解だった。

 後ろの座席にまだぐったりしたままの千里を横にして、時間を見る。

 8時半。あと30分もある。

 


「結花。一度ここを離れるわよ」

「え?」

「このままここにいたら危ないわ。たぶん、あんたの部屋にまた誰か来るはず」

「……千里がいると思って?」

「そうね、それもあるけど、見てて気づいたの。あそこ、たまり場みたいに使われてたわ」

「……」

「冷蔵庫の中身もなし。備蓄はそいつらが主に使ったんでしょうね。外から持ち込むより中のもの使うほうがいいもの。そいつらがまた来る可能性が高い以上、ここから離れるわよ」

「……分かった」


 ゾンビは鬱陶しいし怖いけど、ゾンビより今は人間のほうが怖い。

 駐車場を出たすぐ後に、駐車場に入ってくる車をミラーで確認した。

 ……住人?ならいいけど、でも。


 バックミラー越しに見えたのは――

 スモークガラス張りの大きな乗用車。

 あんな車、うちのマンションの駐車場で見たことない……。


 そして。


 運転席の男が、走り去るこちらを見ていたような気がした。


 ――目が、合った。気がした。


「……迦楼羅、あの車……」

「見えてる。結花、見ちゃダメ」


 低い声。


「行くわよ」


 次の瞬間、エンジン音が跳ね上がった。

 迦楼羅の言う通り、すぐ離れて正解だった。


 後部座席で呻く千里を見ながら私はただ悔やんだ。

 私があの島でご飯を食べたりお風呂に入ったりしてるときに千里は――。

 

 私は千里をもっと早く迎えに来ればよかったと悔やむのだった。


 そして9時ジャスト、私たちは無事に千里を連れて島へと戻ったのだった。

 

 

 

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