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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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26 お風呂に入れるようになりました

 2人の最初の夜はプライバシーも考えて、市庁舎の仮眠室を譲った。

 毛布があるだけで助かる、ということで二人に仮眠室を譲り、私はユウキと一緒にロビーで眠ることにした。

 ユウキは一人でも大丈夫、というけど、たぶん大丈夫じゃない。だから私は夜眠るときはユウキと一緒に寝るようにしていた。



 翌朝、彩羽ちゃんのために、と朝ごはんのホットケーキを焼いていた迦楼羅と私に彩羽ちゃんより先に起きて来た桃ちゃんが話しかける。

「ねえこの島の詳細な地図ってある?」

「詳細な地図?」

「そう。危ないところを記したものとか」

「まだ探しきれてないなぁそういうのは……」

「じゃああたしがそれを探していい?」

「お願いしていい?二階に土木課ってあったから島の地図とかはそっちにあるかも」

「分かった。それと、あたしは他所で暮らすから、彩羽だけはここに置いてやってくれない?」


 え?


「あたし、今は停まってるけどいつあいつらみたいになるか分からないじゃない?そんな危険なのあの子のそばに置いておけないもの」

「あら、それを言ったらアタシだって桃ちゃんと同じよ」

 迦楼羅がホットケーキをひっくり返しながら笑う。

「アタシは彩羽ちゃんと一緒にいていいわけ?」

「……」

「あんたはあの子の母親なのよ、人間やめても。あんたの代わりはどこにもいないの」

「……」

「せめてあの子と二人で暮らせる場所を探しなさい。お勧めは、ここから歩いて5分くらいのところにあるホテルかしらね。壊れてないベッドもあるし、今なら部屋は選び放題よ」

「……いいの?」

「いいも何も、後ろにいる彩羽ちゃんに聞いてごらんなさい」

 いつの間にか起きてきていた彩羽ちゃんが、桃ちゃんの後ろでちょっと泣きそうな顔をしていた。

「彩羽……」

「ママ……一緒にいるって言ったよ……」

「……うん……うん、そうね、約束したね……。ごめんね……」


 桃ちゃんがそっと彩羽ちゃんを抱きしめる。

 ああ、この母娘をここで守らないと、と改めて決意した。


「さあ、朝ごはんにしましょ。ユウキ、彩羽ちゃんを顔洗うところに連れて行ってあげて」

「うん、かるにい!」

 ユウキがタオルを手にして、彩羽ちゃんの手を握る。

「僕、ユウキ!朝ごはんの前には顔洗うんだ。こっちきて!」

 そのまますぐ近くの湧き水まで彩羽ちゃんを連れていく。

 生活用水として使うと決めたすぐ近くの水路の片づけは終わっていて、今では綺麗な水がしっかり湧き出るだけの場所になっている。

 2人が顔を洗いに行っている間に、朝ごはんの支度をしてしまう。

 迦楼羅と桃ちゃんには新しい水。

 私たち三人にはホットケーキ。

 いただきます、と5人で声をそろえた食卓は、なんだかとても幸せだった。



 

 桃ちゃんが土木課の棚のファイルを片っ端から確認して見つけたこの島の詳細な地図。

 危険な崖や通行が不便な場所、直す予定だった箇所の工事資料などがあった。


「ここのホテルはいい場所に建ってるわね」

 それは私が最初に入ったホテルだった。

「このホテル入ったけど、水も生きてるし、厨房も磨いて掃除すれば使えると思う」

「なら、あたしと彩羽はこのホテルを使わせてもらおうかしら。いい?村長さん」


 村長?私が?


「だって、ここを作ると決めたのはあなたなんでしょ?ならあなたがこの島の村長さんじゃない」


 村長……村長か……。いずれここを村くらいの規模の場所にできたらいいなとは思う。


「分かった。じゃあ、暫定の村長として許可するわ。ホテルを使ってください」

「そうさせてもらうわ。じゃあ、後で彩羽と一緒に行ってくる」

「どこを使うのか決めたら教えてね」

「はいはい」


 ホテルにある寝具が使えるかどうかは分からないから、それだけはちゃんと確認するようにお願いしておいた。それと2階の一番端っこの部屋には亡くなった人がそのままだということも大事なことだから伝えておいた。

 あの人、そろそろきちんと埋葬してあげるべきかな……。


 それから今日は向こうには行かずにこっちでの作業日に充てることにした。

 何の作業って、そりゃもちろん悲願の源泉引き作業だ。

 彩羽ちゃんもお風呂に入れてあげたいし、私ももちろんお風呂に入りたい。

 

 軽トラに塩ビ含めた資材を積んで、温泉宿のあるところまでやってくる。

 階段を少し登ったところにある宿の更に裏手の源泉のところまでくると、石組の囲いのところに、少ししっかりした塩ビパイプを桶のように設置する。その桶に溜まったお湯が桶部分からつなげる塩ビパイプを通って、下まで流れるようにしたいという私の要望だった。

 ――簡易的な、温泉の引き湯だ。

 下には水道もあり、水も出るのでお風呂が多少熱くても無理なく使えると思う。

 さすがに子供にドラム缶は危ないということで、迦楼羅と桃ちゃんにお願いして、漁港にあったおそらく魚を入れるいけすに使っていたのであろうケースをお風呂として設置してもらった。

 お風呂の周りにブルーシートを使って目隠しも完了。

 これで「個室」として使える。できればそのうち屋根を設置したい。どこかの民家のカーポートでも持ってくるかな。

 

 そして問題の塩ビパイプだけど、素人がやるにはなかなか難しく、パイプの継ぎ目からお湯が漏れたりきちんと繋がってなかったりで結局三日がかりの作業になってしまった、が。

 無事にお風呂場は出来上がった。

 漁港にあったパレットを土台にして風呂桶にしたいけすを置いて、お湯を注ぐ。

 少しずつだけどたまっていくお湯をユウキと彩羽ちゃんが楽しそうに見ている。

 

 ユウキと彩羽ちゃんは少しずつ仲よくなってきているようだった。

 ユウキが彩羽ちゃんに絵本を読んであげているさまは尊いしかでてこない可愛らしい光景で。

 桃ちゃんも嬉しそうに見てるから、母親としては許せる光景なんだろう。


「じゃあ彩羽ちゃん、お風呂に入ろうか」

 これで無理なくこの島でもお風呂に入れるようになる。

 それは通常の避難生活では無理な、普通の生活だ。

「うん、ゆかねえ!」

 ユウキの真似をしてなのか、彩羽ちゃんが私のことをゆかねえ、迦楼羅のことをかるにいと呼ぶようになった。

 


 いけすは広くて、私、ユウキ、彩羽ちゃんの三人で入っても十分すぎる広さだった。

 シャンプーも持ってきてしっかり頭を洗えたのが本当に気持ちよくて、最初は全然泡立たなかったのが泡立つようになってからは面白くて。

 ああ、ちゃんと髪を洗えるってこんなにありがたいんだ、としみじみ思った。

 こんな当たり前のこと、もうしばらく忘れてたんだなぁ……。

 ユウキと彩羽ちゃんの髪も洗ってあげて、2人をバスタオルに包んで、ブルーシートの向こうの迦楼羅と桃ちゃんに渡し、私は一人でのんびり湯船につかった。


「千里……」

 ポツリと呟いたのは友人の名前。

 もうあれから結構経つ。

 備蓄自体はまだ切れてはないと思うけど、さすがにそろそろ迎えに行ってあげたい。

 迦楼羅だけじゃなくてもう一人半ゾンビがいることに叫びそうだけど、あっちにいてもいずれはじり貧だ。

 その前にこっちに連れてきたい。

 約束したんだ、迎えに来るって。

「どうするか考えないとな……」


 その時の私はだいぶぬるま湯の考えだったと思う。

 理性の切れた人間がどうなるか、どんなことをするのかよく知っていたのに。

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