25 新しい住人
ホームセンターに向かうにつれ、前に来た時よりも明らかに放置車両が増えていた。
道路はさらに狭くなり、慎重にハンドルを切らないと通れない。
けれど――それよりも、気になることがあった。
あの観光バス。
ホームセンターの手前に停まっていたバスは、そのままだった。
窓ガラスも割れたまま、あの時と同じ。
なのに。
道路に投げ出されていたはずの、大量のスーツケースが――ない。
「……あれ?」
思わず呟く。
「どうしたの?」
荷台から迦楼羅に聞かれて答える。
「ここ、前に来た時……スーツケースがいっぱい散らばってたの覚えてる?」
「……そうだったわね」
でも、そこには何もない。
きれいに――消えている。
あれが避難のための荷物だったのなら、相当な物資量だったはずだ。
「……誰かが片付けた、って感じじゃないわね」
迦楼羅が低く言う。
「うん。だとしたら――」
喉の奥が、少しだけひりついた。
「持っていった、ってことだよね」
「……略奪ってこと?」
桃ちゃん先生の言葉に、ぎゅう、と胸が痛くなる。
いけない、思い出しちゃいけない。
あの地獄みたいな光景を。
――私たち以外にも、生存者がいる。
それは、本来なら希望のはずなのに。
助け合えるはずの生存者が。
――怖い。
「いいから、結花、駐車場に入って」
「うん!」
「いい?作業は15分で終わらせる。だから園芸コーナーに横付けしなさい。園芸コーナーの横に資材コーナーがあるから、塩ビとか工具はアタシに任せて、桃ちゃんと結花は園芸コーナーで種とポットと肥料積んで!」
駐車場に入り、園芸コーナーに軽トラを横付けすると、迦楼羅が荷台から飛び降りる。
それからポケットから出した一万円札を何枚かレジ台に置くと、資材コーナーに走っていく。
私の矜持を分かってくれる迦楼羅に嬉しくなる。
こんな世界でも、等価交換にこだわる私を彼は分かってくれている。
なんて心強いんだろう。
「桃ちゃん、手伝って!」
「桃ちゃん言うな!」
軽トラの荷台に野菜の種、ポッド、肥料を積んでいく。店先にあった苗はほとんど枯れてしまっていたから今回は断念。
彩羽ちゃんは助手席でおとなしく待っていてくれた。
「よし、こんなもんかしらね!」
塩ビパイプを積んでベルトで締めて、工具や消耗品も載せて、よし、ここでの調達は終わり!
としたいけど、あと少しだけ欲しいものがある、と迦楼羅に言うと、バールを持って店内までついてきてくれた。
住人が増える以上、衛生環境をもうちょっと良くするために、衛生用品やせっけん、シャンプーなどを積んでいると、前から欲しかったお米用の保存袋のセットが目に入ったので、それも買い物袋へ。これでどうしようと思っていた作業が捗る。
神社までは遠くはないけど、平坦な道ではない。
何より「略奪者」がいるかもしれないことを思うと、こっちに長居はしたくないし、そいつらがあっちに行ったらどうなるか考えたくもない。向こうには今ユウキが一人でいるのだ。
神社の前に着いたのは12時1分前。
軽トラの時計が狂っていたので、見よう見まねで何とか直したのは割と最初の頃だ。
たった二秒弱しかないゲートが開く時間を逃すわけにはいかなかった。
神社の前でエンジンをかけたまま停まった私に、桃ちゃんが怒鳴る。
「何やってんのあんた!早く行かないと……!」
10.9.8.7……
「聞こえてんの!?」
アクセルに足を置く。
5
4
3
「運転代わるからどきなさい!」
桃ちゃんが荷台を降りようとした瞬間、アクセルを踏む。
目の前が青白く光る。
2
1
0!!
そして私たちは無事に島に戻ったのだった。
新しい住人二人を連れて――。
軽トラの音が聞こえたのか、時計の見方を教えたからか、ユウキが市庁舎から駆けだしてくるのが見えた。全力で転びそうになりながらも満面の笑顔で。
「子ども?」
桃ちゃんがこっちに走ってくるユウキを見て、訝し気な声を挙げる。
「まさか、あんたの子?」
迦楼羅に向かって聞く。
「まあアタシの子みたいなもんね。あとでちゃんと紹介するわ」
軽トラを停めると、桃ちゃんが一番に彩羽ちゃんを下ろす。
「彩羽、大丈夫だった?」
「うん、ママ。ねえ見て、海だよ!」
目の前には真っ青な海。
彩羽ちゃんはそれがまず一番ママに教えたかったことらしい。
「海?なんで?え、幻?」
「波の音するでしょ?ここは現実よ」
迦楼羅が混乱してる桃ちゃんに呆れたように言う。
「ようこそ、神集島へ」
にっこり笑って言う私に、混乱しきった桃ちゃんはぎゅう、と彩羽ちゃんを抱きしめていた。
2人を市庁舎に案内し、まずは応接セットに座ってもらうと、迦楼羅が飲み物の支度をしてくれた。
とは言っても、ペットボトルの水だけど。
「まあ、まずは喉の渇きを癒してからにしましょう」
「……」
「彩羽ちゃんにはあとでごはんも作るからね」
「ごはん!」
「うん。だから今は、私のお話をママと一緒に聞いてくれるかな?」
「……うん」
迦楼羅と私とユウキが並んだ正面に、桃ちゃんと彩羽ちゃんが座ってる。
ユウキは、新しい人が来たんだ、ということを理解していておとなしく座ってくれている。
それから私はこの島に来た経緯を話した。
ここは未来であること、住人はもういない無人島であること、偶然見つけた私たちが避難場所として暮らしていること。
住人はこの三人だけ。ここにゾンビはいないこと。
時々、桃ちゃんから聞かれる質問に答えていると、もう夕方になってしまっていた。
ぐううううう
と可愛らしい音が、ユウキと、目の前の彩羽ちゃんから聞こえてきたタイミングで話を切り上げる。
「そろそろ晩御飯にしましょう。彩羽ちゃん、アレルギーとかあったりする?」
「ないわ」
「じゃあ、私たちと同じもので問題ないね。迦楼羅、魚のあら汁残ってるでしょ?あれで雑炊にしよう」
「了解。それならすぐできるしね。作ってくるわ」
「僕も行く!」
ソファから飛び降りたユウキが迦楼羅の後をついて、一緒にキッチン代わりに使っている給湯室へと行くのを見て、私は桃ちゃんと彩羽ちゃんに向き直った。
「大体のところは理解してもらえた?」
「……色々信じがたい部分もあるけど、現実にあたしたちはここにいるんだから信じるしかないわね……。少なくとも、あの市役所や体育館みたいに追い詰められた感じがここにはない」
「まだまだ作り始めたばかりの場所だから、2人にも色々手伝ってもらうわよ」
「そうね。働かざるもの食うべからず、ってことでしょ?」
「そうそう」
こうしてこの島の住人は5人になったのだった。
【神集島住人数】
5人




