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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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22 お風呂大作戦開始……の前哨

 定期的にお風呂に入ることを決めて、市庁舎に戻ってきた。

 今日はこれから、ユウキのための勉強会だ。

 ご褒美のおやつは迦楼羅に任せて、私はユウキの前に絵本を何冊か置いた。

 

「ユウキ、これ読めるかどうか教えてくれる?」

「うん」

 

 最近、ユウキはだいぶ懐いてきてくれたように思う。

 だからこそ、この子をきちんと教育しないといけない。

 それが、この子をここに迎え入れると決めた、私と迦楼羅の責任なんだ。

 幸い、留守番は問題なくこなせるようになってきた。

 だからここからはもう一段階だ。


 ユウキが本を開いて一生懸命読み始める。

 

 ユウキが、一文字ずつ指でなぞりながら読む姿は一生懸命で微笑ましい。


 ゆっくりだけど、ちゃんと読めている。


「うん、よく読めました!」


 出来たら褒める。

 それが私と迦楼羅で決めたユウキの教育方針。

 どんな小さなことでも、成功体験はユウキにとっては自己肯定を促す大事なことだと思ったからだ。

 ユウキが、私に褒められて、嬉しそうに笑い、少しだけ胸を張った。迦楼羅の作ってくれたおやつはチョコホットケーキで、ユウキは美味しいよ!と嬉しそうだった。


「じゃあ次は――今日の晩ごはん、自分で捕まえてみる?」

「……さかな、とるの?」

「そう。かるにいと一緒に釣りに行こう」

「準備できてるわよ。ちゃんと子ども用の竿もあるわ」


 それから三人でテトラポットのあるところに行って釣竿をたらす。

 静かでのんびりした時間だ。

「……あ、うごいた!」

 ユウキの竿が、小さくしなる。

「そのまま、ゆっくりリールを巻いて!無理に引っ張らないで!」


 迦楼羅に言われた通りに、ぎこちなくリールを巻く。


 ばしゃ、と水面が跳ねて――。

「つれた……!」

 信じられない、みたいな声だった。

「すごいじゃん、ユウキ!」

「自分で釣ったわね」


 ユウキが、ぱっと顔を上げる。

 その顔は、今まで見たことないくらい嬉しそうだった。


 そのあとも釣りを続けて――。


 成果は、迦楼羅がシマアジ2匹、ユウキがシマアジ1匹、私がボウズ。


「……なんで私だけ釣れないの?」

「日頃の行いじゃない?」

 即答だった。

「ひどくない?」

「事実よ」

 でもまあ、いいか。


 今日は――ユウキの成功体験が一番の成果だ。


「晩ごはんにユウキが釣った魚、食べようか」

「うん!」


 元気な返事が返ってきた。




 刺身が大好きだけど、さすがに生魚はこんな環境下では避けたほうがいいと迦楼羅と話し、塩焼きとあら汁にすることにして、迦楼羅がシマアジをさばくのをユウキが興味津々で覗き込んでいた。

 魚の焼ける音と匂いが食欲をそそる。


「危ないから触らないようにね」


 という迦楼羅の言いつけはきちんと守ってる。

 ただ、「ごはん」というものができあがる過程に興味があるようだった。

 

「かるにいはご飯を作る人だったの?」

 ユウキの問いかけに迦楼羅が笑う。

「そうね、お店では賄いはアタシがよく作ってたわ」

「へー。ホストクラブにも賄いってあったんだ?」

 私の問いに、思い出すように教えてくれる。

「うちの店は若い子も多くてね。なかなかちゃんと食べられない子もそれなりにいたのよ。そういう子たちのためにオーナーに頼まれてアタシが賄いを作るようになったらそれが好評でね。いくつかは店に出すメニューにも採用されたくらいよ」

「へえ」

「だからアタシいつか自分で作った野菜で作ったものを出すカフェをのんびりやりたかったのよねぇ。そのために貯金もそれなりに頑張ってたんだけどね……」

「それが迦楼羅の夢だったの?」

「そうよ。だから頑張って開業資金貯めてたのに、もうそれどころじゃなくなっちゃったわね」

 迦楼羅の過去の一端を知り、その未来があれば良かったのに、と心から思うが口にはしない。

 きっと迦楼羅は気にしちゃうから。



 その日の晩御飯は、土鍋炊きのごはんにシマアジの塩焼き、あら汁と豪華なごはんだった。味はもちろん美味しかった。

 ユウキの「さかなってこうやってごはんになるんだね」という言葉がとても印象的だった。

 ユウキの晩御飯の後のデザートはフルーツの缶詰を開けてあげたらとても喜んで笑っていて、その笑顔だけでさらに満たされた。



 それから数日は向こうに行かずに過ごした。


 畑の水やりをして、湧き水の採取をして、物資の片づけをして、気づけば一日が終わる。

 ユウキも小さな手で畑の石をどけたり、水を運んだりしてくれている。


 あの温泉宿までは自転車で約5分。そこから階段を少し上がるけど、温泉施設よりはここに近い。

 なら、どうにかあの源泉を温泉宿の下の駐車場まで引けないかと考えていた。


 もしこれができたら、毎日お風呂に入れる。

 それはもう、贅沢じゃなくて“普通の暮らし”だ。


 しかし――ここにあるもので何とかしようと思ったけど、無理だった。


 お湯を流すには最低でも塩ビパイプが必要だ。

 それはここにはない。

 つまり、向こうに調達に行くしかない。


 ついでに本屋にも寄りたい。

 DIYの実用書もほしいし、ユウキの本も増やしたい。


 やることは、まだまだ山ほどある。

 

 それにそろそろ千里を迎えに行くことも考えないと。

 備蓄自体は2か月くらいはもつように残してある。

 それに千里は私の防災オタクっぷりを良く知ってるから、私が使っていた防災マニュアルもきちんと読んでくれているはずだ。

 だからあと数週間は大丈夫、だと信じたい。


 迦楼羅に相談に行くと、今すぐ必要、とは言い難いけど、ユウキの健康のことを思うとお風呂にはできるだけ毎日入ったほうがいい、と言われ、そこは私もじゃないのかと突っ込んだら「アンタは清拭だけで3週間耐えたじゃない」ってさらっと差別された。ちくしょう。

 でも本屋より図書館のほうがいいかもしれないと言われた。

 図書館なら、最新の実用書、今時なら配信向けに素人でもできるレベルの実用書がある可能性が高いと。

 なので次はまず図書館に行って本を探した後、ホームセンターに行って必要なものを調達するコースにしよう、と決まった。



 そしてその図書館で、私たちはまた一つ出会いをすることになるのだった。

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