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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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16 爆買いと町の状況

 そんな風にして、丸一日島にいる初めての日になったけど結構実りのある一日だったと思う。雨水の確保はできたし、畑も使えそうだと分かったし、魚も釣れた。

 

一応、検証として、時間通りに鳥居が光るか確認もした。

 やっぱり検証時間には2秒に満たないくらいの時間光った。その光は上から下に流れるように消えることも確認できた。


 その際、とりあえずこちらに入ってくる避難者がいなかったことに安心した。

 でもいつか誰かがあの鳥居を潜ってこちらに来るかもしれない。

 その前にできるだけ色々整えておきたい。


 その夜の夕食は、私と迦楼羅が釣ったアジを塩焼きにしてみた。

 シンプルだけど美味しい焼き魚だった。


「ねえ結花」

「ん?」

「アタシはおなか空かないし食べないから考えてなかったんだけど、調味料必要よね」

「え?」

「結花がテーブル塩持っててくれたからこれ塩焼きにできたけど、調味料なしじゃこの先厳しいと思うわ」


 言われてみれば……。


「物資調達に各種調味料も入れないといけないね」

「それならアタシ、サトウキビの栽培をしてみたいんだけど」

「サトウキビ?」

「そう。今の季節ならホームセンターとかに置いてあったりするのよ。調達物資に入れてくれない?」

「まあどうせ肥料とか苗とか調達に行く予定だったし、いいよ。でも栽培方法知ってるの?」

「知らないから本屋で実用書買ってね」

「分かった。他に必要な調味料は……まず塩は絶対だけど、他には?」

「油は欲しいわね。それと砂糖にしょうゆ、かな?」

「基本だね。じゃあそれは調達メモに書いておく」


 これは盲点だった。

 一人で生き延びるための備蓄と、複数人で暮らすための備えは、まるで別物だ。

 今までの私は、避難生活は“自分が生きるため”だけを考えていればよかった。

 でもこれからは違う。

 ここに来るかもしれない誰かの分まで考えないといけない。


「……調味料、ちゃんと揃えよう」

 ぽつりと呟く。

「料理って、味があるだけで全然違うからね」

 迦楼羅がそう言って、焼いたアジをつつく。

 食べられないのにやっぱり気になるのかな。

「同じものでも、続くかどうかが変わるわ」

「続くかどうか……」


 その言葉が、妙に胸に残る。


「生きるだけなら何でも食べられる。でも、“暮らす”なら話は別よ」

「……そっか」


 私はノートを引き寄せて、調達メモに書き足す。


 ・塩。

 ・油 。

 ・砂糖 。

 ・醤油 。


 そして少しだけ考えてから、さらに書き加えた。


 ・味噌 。


「味噌?」

「うん。保存もきくし、汁物にもなるし、発酵食品だし。あと私、味噌が大好きなんだよね。味噌を自分で仕込むくらいには」

「いいじゃない。アンタ、やっぱりそういうとこ抜け目ないわね」

「味噌がない食生活とか考えられない。なら自分で作るのが一番コスパいいからね。味噌を作るなら大豆と麴と塩があればできるから、麹もできれば確保したい。あれは真空パックで密封されてて、賞味期限長いから、これからこっちで大豆を作っても来年味噌を仕込むのに使える」

「麴はどこに売ってるの?」

「私は業務スーパーで買ってる。そうだ、調味料の買い物は業務スーパーにしよう。あそこなら大容量のものが多い」

「分かった。じゃあ明日は本屋に行って業務スーパーにしましょ」

「うん、動線が分かりやすいほうがいい。業務スーパーはホームセンターの近くにあるから、ホームセンター、業務スーパー、本屋で動いて、業務遂行といこう」

「なかなか楽しそうなミッションね」


 軽く笑いながらも、ペンは止まらない。


 この島で、生きていくために。


 ――ここを、“暮らせる場所”にするために頑張るんだ。




 翌朝、簡単に朝食を済ませ、私たちは軽トラで9時のゲートをくぐった。

 二日ぶりの町はどうしたのってくらい荒廃していた。そしてゾンビが爆発的に増えていた。

 私たちの軽トラに群がろうとするゾンビは10や20じゃ足りなかった。


「ちょっとなんでたった二日でこんなことになってんの!?」

「私だって知りたいよ!ゾンビが分裂して増えたとかかないよね!?」

 アクセルを踏んで、ゾンビを振り払い、取り残されている車の隙間を縫って、まずは迦楼羅と出会ったホームセンターに向かう。

 そこの駐車場にもゾンビはいたけど、迦楼羅がバールでお掃除してくれたので問題なく園芸コーナーに横づけできた。


「まず肥料から積もう」

 目についた野菜肥料と鶏糞の袋、あ、米ぬかもある。

 今まで気にしたことなかったけど、肥料って案外安価なんだな……。300円で5キロとか。米ぬかなんて10キロで1000円だ。

 まあ米ぬかは道沿いのコイン精米機からもらうつもりでもあるけど。

 それから野菜の苗のコーナーに行って一番に目についたのがサツマイモだった。

 サツマイモって育てやすいって言うよね。

「迦楼羅、サツマイモはありだと思う?」

 野菜の苗を台車に積んでいる迦楼羅に聞くと頷いてくれた。

「作ったことあるから大丈夫よ。それは植えましょう。ちょっと今は植え付けの季節は違うけど、ジャガイモも欲しいわね」

「ジャガイモなら、そっちの箱の隅にあったよ。売れ残りっぽいけど」

「春の売れ残りの種イモでしょうね。でも使える」

「分かった」

 サツマイモとジャガイモを野菜袋に入れて軽トラに積む。迦楼羅も選んだ野菜の苗のポットを積んで、よしここは終わり。

 私は園芸レジに2万円ほど置いておいた。少し多いかもだけどそれは次に来る機会があった時に使うことにする。

「よし、じゃあ次は業務スーパーね」

「ええ、行きましょう」

 ホームセンターの駐車場を出たところで、大型の観光バスが停まっていることに気づく。

「結花、あれは見ちゃダメよ」

 迦楼羅に言われて、私は前だけを見てアクセルを踏んだけど、一瞬だけ見てしまった。

 バスの中の地獄を。


 血の手形。

 割れた窓。

 中から叩いた跡。


 ――助けを求めた形跡だけが残っていた。

 

 道に散乱したバスの下層部の荷物入れから転がり落ちたであろうたくさんのスーツケース。

 どこからか来た観光客だったのか、それとも大型バスを使って避難しようとした集団だったのか。

 バスと言う密室の中で、1人でも感染者がいたら、それはもう地獄の始まりだ。


 私は吐きそうになるのをこらえながら、ホームセンターから少し離れた業務スーパーに向かった。

 そこにもゾンビは群れていたけど、迦楼羅のバール攻撃のおかげで入口までの道が開ける。


 スーパーの中にも元店員と客らしきゾンビが数匹いたけど、迦楼羅のバールが再度大活躍。

 ほんとに頼りになるなぁ。


 入口にあった買い物カートで店内を走りながら私は調味料の棚へ走った。

 塩、砂糖、胡椒、酢、しょうゆ、粉末出汁、味噌。

 それから使い慣れた米麹。賞味期限を見たら再来年まで大丈夫だったので、来年大豆が採れることを期待していくつか入れる。

 ついでに足りないと思っていたラップと割り箸も詰め込み、最後に日本酒を入れた。

 これは調味料として必須だ。魚の臭み取りにはお酒が一番いい。

 さすがに自分の備蓄に日本酒は入れてなかったしお酒の作り方は知らない。

「迦楼羅!そこのダンボールにこれ詰めて!」

 サッカー台で段ボールの準備をしててくれた迦楼羅にカートごと渡し、私は新しいカートで店内をもう一周する。乾麺やお米、缶詰の主食を詰め込み、レジに迦楼羅のくれたお金からさらに2万円を置き、段ボールを軽トラに積み込む。

 割といっぱいになっちゃったな……。

 時計を見ると12時近い。

 一回戻って荷物下ろしてきたほうがいいかな。

 迦楼羅にそう言うと、そのほうがいいだろう、ということで一度島に戻ることにした。


 ――この判断が、後で大きく響くことになるなんて、この時は思っていなかった。

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