106 制限時間内の攻防と買い物
一度島に戻り、荷下ろしと休憩の後、再び遠征組は鳥居を潜った。
鳥居の周りにいる視線はもちろんあったが、それを気にしたり関わっている暇はない。大事な目的があるのだ。
「今回は郊外ルートを取るわ。生存者がいるかもしれない住宅街は避けて、流れが少ない道を使う。ゾンビは多いかもだけど、なぎ倒していくわ」
「ショッピングモールみたいな密集は避けるってことだな」
「ええ。目的は必要物資の買い物。戦闘じゃない」
ギアを入れる。
「それと――」
一瞬だけ、視線を後ろへ。
「無理はしない。切り捨てる判断は即座に。欲張らない。それを徹底すること」
誰も反論しない。
それが、このチームのルールになっていた。
「行くわよ」
軽トラが走り出す。
――二回目の遠征。
今回は――狙って取りに行く。
ショッピングモールと倉庫での成功はギリギリだった。だから油断はしない。
「最初のポイントは?」
ツバサが無線で聞く。
「シゲトが教えてくれた郊外の工材専門店。その隣に大型のホームセンターもあるらしいから、まずその二つの店で買い物いくわよ」
「了解」
「そのあと、道沿いのコイン精米機で米ぬか回収。今日はそこまで」
ルートが決まっていると分かりやすくていい。
住宅街を避けた道は、予想通り――静かだった。
ショッピングモール周辺のような放置された車の密集もない。
だが、その分。
「……見えないわね」
桃がぽつりと呟く。
道の両脇は、田畑と倉庫。
ところどころにある民家も、閉まっているか、扉が壊れたまま放置されている。
「見えないのが一番厄介よ」
迦楼羅が即座に返す。
「音がしたら、どこからでも湧く」
「……確かに」
高瀬が周囲を見回す。
開けている。
だからこそ、遮るものがない。
――音が通る。
「スピード維持。このまま抜けるわよ」
軽トラは速度を落とさず進む。
その時。
――カン。
乾いた音がした。
「しまった、石をはねたみたいね」
タイヤが跳ねた石が近くにあった倉庫の壁に当たったようだ。
「……まずい」
ツバサの声。
次の瞬間。
――ガシャッ!
道路脇の農機具小屋の扉が内側から弾け飛んだ。
「来るぞ!」
中から飛び出してきたのは数体。
だが、それだけじゃない。
――バキッ。
別の方向。
田んぼの中。
水の中から這い上がる影。
「地面の下に潜ってた!?」
「え、あいつら潜れんの!?」
「止まるんじゃないわよ!」
迦楼羅が叫ぶ。
軽トラがそのまま突っ込む。
泥を巻き上げながら、飛び出してきたそれらを弾き飛ばす。
「数は多くない!でも散ってる!」
「だから厄介なのよ!」
ショッピングモールと違う。
――密集じゃない。
――点在。
だからこそ、予測が効かない。
「この先、右よ!工材専門店!」
「見えた!」
看板の錆びかけた文字。
広い駐車場。
そして――
「……車が少ない」
高瀬が言う。
「いい兆候とは限らないわよ」
迦楼羅は速度を落とさない。
駐車場に乗り入れ、周囲を一周して様子見をする。
「……外は少ない」
「中は?」
「分からない。だから――」
一瞬の間。
「車ごと突っ込む」
「またそれかよ!」
「安全第一よ!」
ブレーキを踏むことなく、入口へ。
車を降りた時。
――店の奥。
資材コーナーのさらに奥。
シャッターの向こう側から。
――ドン。
鈍い音。
「……嫌な音だな」
高瀬が呟く。
「時間制限、10分!」
迦楼羅が即座に判断する。
「必要なものだけ買って即出る!」
「了解!」
全員が散る。
煙突用のステンレスパイプ。
接続部品。
耐熱シート。
シゲトに聞いてたコーキング剤、コーキングガン、断熱材。
「積めるだけ積んで!」
その時。
――ガンッ!!
シャッターが、大きく歪んだ。
「……早いわね」
次の瞬間。
――バキィッ!!
金属が裂ける音。
シャッターの隙間から腕が突っ込まれる。
一本じゃない。
二本、三本――。
「来るぞ!!」
シャッターが押し破られた。
外から雪崩れ込む影。
「数が多い!」
「撤収!積んで出るわよ!」
だが、入口側にもすでに回り込んできていた。
「……挟まれた!」
ツバサの声。
前方、後方。
両方から迫る。
逃げ道が狭まる。
「チッ……!」
迦楼羅が舌打ちする。
バールじゃ捌ききれない数。
その瞬間。
「下がれ」
低い声。
高瀬だった。
腰のホルスターに手をかける。
「高瀬さん……!」
「一回だけだ。道が開くかどうかは分からんが」
引き抜かれる。
――ニューナンブ。
黒い金属が、静かな店内で異様に浮く。
「全員、耳、塞げ」
誰も動かない。
動けない。
「いいから下がれ!!前方の1点突破を狙う!!車に乗れ!!」
その一喝で、全員が反射的に距離を取り、車に乗り込んだ。
次の瞬間。
――パンッ!!
乾いた破裂音。
空気が震え、音が遠く響く。
一体の頭部が弾け飛ぶ。
だが、それだけじゃない。
店内に。
外に。
その一発の音が届く。
迦楼羅が歯を食いしばる。
「もう撃たないでよ!」
「だから一回だって言っただろ」
高瀬は冷静だった。
だが、その一発で。
前方の密集が、一瞬だけ止まる。
――道ができた。
「今よ!!」
「行け!!」
残りを蹴散らしながら、軽トラ運転席の荷台に高瀬が飛び乗る。
「発進!!」
アクセル全開。
車体が揺れながらゾンビを弾き飛ばし、突き抜ける。
背後で――。
ざわ。
ざわざわ、と。
音に引き寄せられた気配が、確実に増えていく。
「……呼んだわね」
桃が呟く。
「分かってる」
迦楼羅が前を睨む。
「だから――もうここには戻らない」
高瀬は何も言わず、銃を戻した。
ただ一言。
「次は使わないで済むように動け」
それが、全てだった。




