↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

112/132

104 ショッピングモールは危険です

 ショッピングモールの巨大な建物が見えてきたとき、誰も口を開かなかった。

 本来なら、休日は買い物客で賑わい、地元のコミュニティと生活が集約した場所だ。

 そこが今では。


 「相変わらず多いわね……」


 入口やモール前の広場に溢れる人ではなくなったモノたち。

 それが入り込んでいく巨大な建物は、まるで墓標のようだ。


「……さて、正面からは無理だな」


 助手席の高瀬が呟く。


「なら、正面以外を探すしかないわね」

「裏口とか、搬入口か?」

「それもありだけど、あそこはどう?」


 迦楼羅が指さしたのは5階建ての立体駐車場だった。

 店内に直接行ける階段も通路もある。


「なるほど、立体駐車場なら店内の中まで通路を使えば入れるかもしれんな」

「ええ。ゾンビのほとんどはおそらく1階のフロアにいるでしょうけど、上にもいないことはないはず。車で入るほうが成功率は上がるし安全よ」

「妥当だな」


 駐車場の入口付近には、放置された車が何台も折り重なるように止まっていた。

 ドアが開きっぱなしの車。

 ガラスの割れた車。


 そして――乾いた黒い染み。


「よし、行くわよ」

 2台の軽トラが立体駐車場へ向かう。

 入口は無事に突入できた。

「三階まで行くわよ」

 無線で後ろの車に連絡を入れながら、上へと向かう。

 駐車場内にも何体かゾンビがふらふらしていて、車の音に反応していたが、こちらに向かって来ようとするのを冷静に轢き倒していき、三階にたどり着く。

 一度通路の前まで行き、中の様子を見ると、三階には見える範囲ではゾンビの数は少なかった。

「扉を開けて車ごと突っ込むわよ」

 一度車を降りて、通路の扉を開ける。扉も通路も軽トラ一台くらいなら十分通れる幅はあった。

「電器屋は一番奥の広いフロアにあるみたいだから、そこまで一直線。いいわね?」

 「了解です」

 後ろの軽トラの運転手のツバサの返事を合図にアクセルを踏んだ。

「行くわよ!」

 アクセル全開。

 通路を一気に駆け抜ける。

 音に釣られて現れた数体を、躊躇なく弾き飛ばし下へ落とす。

 止まらない。

 止まれば終わり。

 視界の先――そこには。

 開けたフロアと電器屋の看板。

 電器屋の前に着くと、店内のフロアマップをサッと確認して、店内の真ん中あたりに設置されているソーラーパネルのコーナーに走る。

「……結構色々種類があるのね」

 大小さまざまなパネル。

 ポータブル電源。

 蓄電器も様々だ。


 ――残っている。


「これは当たりだな」

 高瀬が低く言う。

 手近な箱を持ち上げてみる


 ――重い。


「全部は持てないわ。ここからが本番よ」

 迦楼羅が指示を出す。

「選ぶわよ」

 空気が変わる。

「優先は大容量。次に持ち運びできる重量。規格は統一できるものを優先」

「了解」

「桃ちゃんは型番確認。ツバサは搬出ルート確保。高瀬さんは外警戒」

 全員が一斉に動く。

「アタシはランタンと電池を見てくるわ」

 防災コーナーと看板を掲げてある店内案内を見てそちらに向かうと、欲しかったものがぎっしりあった。

 

 懐中電灯、LEDランタン、ネックライト、人感センサー。

 ソーラーパネル対応の充電池、充電機器、乾電池。

 同じくソーラーパネル対応の小型の製氷機。

 風邪薬や痛み止めを含めた衛生用品のセットまであった。これはラッキーだ。


 ソーラーパネルと蓄電器を含めたそれらを軽トラの荷台に積み、レジにまとまった金額を置き、再び車に乗ろうとしたところで、桃が迦楼羅を呼び止める。

「迦楼羅、待って」

「どうしたの、桃ちゃん」

「そこ。手芸屋よ」

 桃に言われて見ると、電器屋の斜め前に無人の手芸屋があった。

「あら、これはラッキーね。桃ちゃん、お手柄。ちょうどいいわ、そこで裁縫道具をまとめて買いましょう。ただ……どういうものが必要なのかアタシ良く知らないのよね……」

「俺もです」

「俺もだ。針と糸くらいは分かるが……」

 男たちの無知さに桃がため息をつく。

「しょうがないわね、あたしが一回りしてくるわ」

「桃ちゃん、油断しないでね」

「分かってるわよ」

 桃はそう言って、迷いなく手芸屋の中へ入っていった。

 

 店内は暗く静かだった。


 ――静かすぎる。


 電器屋のざらついた空気とは違う。

 布と糸の匂いが、やけに生々しい気がした。


 棚には色とりどりの布。

 整然と並んだ糸。

 時間が止まったみたいに、すべてがそのままだった。


「……ラッキーじゃん」


 小さく呟きながら、桃は手早く見て回る。


 針セット。

 丈夫そうな糸。

 ミシン糸も針もボビンケースもある。

 ボタンも様々だ。

 布も十分。


「これなら……」


 奥へ、もう一歩踏み込む。

 その時。

 ――カサ。

 わずかな音。

 桃の足が止まる。


「……?」

 視線を奥へ向ける。

 レジカウンターのさらに奥。

 バックヤードへ続く半開きの扉。

 暗い。

 光が届いていない。

「……誰か、いる?」

 小さく呼びかける。

 返事はない。

 ただ。


 ――ズル……。


 何かを引きずるような音。

 次の瞬間。


 バックヤードの扉の隙間から、手が出た。

 黒ずんだ指。

 爪は割れ、皮膚は裂けている。


「っ――!」


 桃が後ろへ跳ぶ。

 同時に、扉が勢いよく開いた。

 中から飛び出してきたのは――名札を付けた店員服のゾンビ。


 エプロンは血で固まり、顔の半分が崩れている。

 だが動きは――暗い場所のせいか思ったより速い。


「チッ……!」


 桃が棚にぶつかりながら体勢を立て直す。

 ゾンビが一直線に距離を詰めてくる。

 狭い。

 棚が邪魔で動きにくい。

 腕を掴まれる。

「離せっ……!」

 噛みつこうと顔が迫る。

 桃は反射的に腕で押し返すが――向こうの力のほうが強い。

 足がもつれる。

 倒れる――倒されたら負ける、と、その瞬間。


 ――ガンッ!!


 横から強烈な衝撃。


 ゾンビの体が吹き飛び、棚に叩きつけられる。


「桃ちゃん!」


 迦楼羅だった。


 手には持ってきていたいつものバール。

 振り抜いた勢いのまま、もう一撃。


 ――ガンッ!!


 頭部を叩き潰す。


 ゾンビは動かなくなった。


 数秒の沈黙。


「……大丈夫?」

 荒い息のまま、迦楼羅が問う。

「……っ、は……」

 桃は床に手をつき、呼吸を整える。

「……油断した」

「してたわね」

 容赦ない一言。

 だが声は静かだった。

「油断するなって、さっき言ったばかりよ」

「……分かってる。ありがとう、助かった」

 桃が立ち上がる。

 手は、わずかに震えていた。

 それをぎゅっと握り締める。

「でも、これで分かった。どの店舗もバックヤードにまだいるかもしれない」

「ええ。だから――」

 迦楼羅が視線を奥へ向ける。

「ここは長居しない。必要なものだけ取って、すぐ出るわよ」

「了解」

 桃は一度だけ深く息を吸い、もう迷わず棚から目につく端から必要なものをかき集め始めた。

 今度は――背後を、何度も確認しながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。