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【完結】終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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102 新しい住人と次にほしいもの

 校門を抜けてしばらく走ったあと、迦楼羅はバックミラーから視線を外さなかった。

 大丈夫、追っては来ていない。足がないのだから当たり前だが。


 問題は、そこじゃない。

 ――鳥居。

 あの地点を越えるまでが、本当の勝負だ。

「……来るわよ」

 誰にともなく呟く。

 やがて見えてきた赤い鳥居。

 その周囲に、昨日よりも明らかに増えている人影。

 ざわ、と空気が変わる。

 軽トラが近づくにつれて、視線が一斉に突き刺さった。


 ――多い。


 昨日とは比べ物にならない数だ。

 少なくとも20人はいると思っていいだろう。

 鳥居に近くの空き地には見慣れたスモークガラスの車も停まっていた。

 そして、そのほとんどが様子を見ている目ではない。

 値踏みする目だ。

 積んであるものがどんな意味を持つのか。奪う価値のあるものか。

「……よし、いける」

 昼12時のゲートが開く時間になる。

 アクセルを、少しだけ強く踏み込む。


 速度は落とさない。

 止まれば囲まれる。

 囲まれれば――終わりだ。


 鳥居の脇に立っていた男が、一歩前に出る。

 何かを言おうと口を開く。


 だが、その瞬間。

 タツヤの軽トラがクラクションを鳴らした。

 短く、鋭く。

 びくり、と男の動きが止まる。


 その時鳥居が青白く光った。それに危険を感じたように跳ね退いた男の姿を迦楼羅は見逃さなかった。

 おそらく、あの腕を切り落とされた現実を知っているのだろう。その恐怖におののいたのだ。


 そして二台の軽トラはそのまま光の中、鳥居を抜けた。

「……抜けたわね」

 迦楼羅が、今度こそはっきりと安堵の息を漏らした。

 拠点に戻ったとき、最初に駆け寄ってきたのは結花だった。

「おかえり……って、え?」

 軽トラの荷台を見上げた結花の目が、ぱちぱちと瞬く。

「なにそれ……ミシン?」

 信じられない、という顔。

 迦楼羅は軽く肩をすくめた。

「学校にあったのよ。戸塚さんちにあるのと合わせて2台あれば、色々できそうでしょ?ついでに学校にあった布地や道具ももらってきたわ」

「うそ……!」

 結花の顔が、ぱっと明るくなる。

 荷台に駆け寄り、まるで宝物みたいにミシンを見上げる。

「これあれば、服作れる……!直しもできる!冬を越す準備が具体的に見えて来たわ。ミシン使える人がいないか探さないと!」

「これ重いからおろす場所決めてくれたらそのまま持っていくわ」

「やった……!」

「それから人間は最後の三人。これで救出しないといけない人は全員よ」

「良かった。皆さん、ようこそ。下りてください。まずは皆さんの仲間がいるホテルにご案内します」

 結花が近くにいたナオトを呼び、相良たち三人を農業高校から避難してきた人たちのいるホテルへ案内するようにお願いする。

「さて、タツヤくんと迦楼羅は報告会ね!市庁舎に来て。荷物は後でいいわ」

 結花の背中を追いかけながら、2人はやっと大きな仕事が一つ完了したことを実感して安堵した。




 用意しておいた簡単な食事を二人に出し、報告会が始まった。

「それで高校のほうは?」

「とりあえず適当にけむに巻いてきたわ。尾行したくても足がないとできないでしょうし、まずこの辺りにはたどり着けないわね」

「物資も満足してたみたいです。とりあえず生き延びたきゃ、今度こそ必死になるんじゃないですかね?」

 まあそれならいいけど……。

「農業用の機械が手に入ったのは大きいわね。田んぼの用意ができるし、畑にも使える。あとで、遠藤先生に見てもらいましょう」

「ええ。アタシじゃ何が何だか分からないから、機械も道具も適当に持ってきただけだしね。でもこれで次にほしいものは決まったわ」

「え?何?」

「追加のソーラーパネルと蓄電器よ。冷蔵庫も製氷機も充電式草刈り機も電気が必要だもの」

「今あるのじゃ足りないものね。そうね。なら次は電器屋へ買い物ね。もしくはうちの会社の倉庫に残っていればいいんだけど……」

「そっちも確認はするとして、おそらく一つ大丈夫そうなところは見当がついてるわ」

「え?」

「最初の頃、ユウキの服や本を調達に行ったショッピングモール覚えてる?」

「うん」

「あそこ、ゾンビがぎっしりだったから生存者もいないくらいだったでしょ?つまり物資がそのまま残っている可能性が高い。食料品も、生鮮食品はダメでも缶詰や乾物とかならいける可能性が高いわ。子どもたちも増えたし、食事の栄養に関してはもっと強化できるかもしれない。で、フロアマップ覚えてるけど、3階に電器屋があったのよ。全国チェーンの電器屋だったから、そこならソーラーパネル残ってるんじゃないかと思うわ」

「なるほど。あそこなら、他の足りない物資の調達もできそうね」

「ええ。2往復くらいはするつもりでリスト作りましょう、向こうとも相談して」

 あそこなら色々揃う。人間もうかつには近寄れないだろうから、多少荒らされていたとしても、2階、3階までは行けてないだろう。

 それなら遠慮せず買い物に行けそう。

「じゃあ、向こうにお願いしたリストができているかどうか、高瀬さんに聞いてみましょうか。タツヤくん、お願いできる?」

「分かりました」

 タツヤくんが出て行くのを見送って、私と迦楼羅は話の続きに戻る。

「物資のことなら、農業高校から連れて来た人たちにも聞いてみましょうか」

「ええ。挨拶もしないといけないし、迦楼羅、一緒に行ってくれる?」

「分かった、行きましょうか。全員、新宿組がいるホテルとは違うホテルに入ってもらってるはずだから」

「分かった」

 ノートとペンを持って、私と迦楼羅は集落の端っこにあるもう一軒のホテルへ向かった。

 ロビーにいた千里と桃ちゃんに「高瀬さんとタツヤくんが来たら少し待ってもらってて」と言い残して。



 こっちのホテルは整理整頓と掃除こそしたけど使ってはいなかった。でも使えるようにしておいて正解だった。

 ロビーには23人の老若男女。

「皆さん、こんにちは、はじめまして」

「……」

「神集島へようこそ」

「……」

「楽にしてください。私は方八馬結花といいます。私も避難者の一人です。ただ、一番最初にこの島に来たのでその縁でリーダーのような役割をさせてもらっています。少しは皆さん休めましたか?」

「……相良と言う。ああ先に来てた奴らに話は聞いた。みんなゆっくり休めたそうだ。少なくともここにはゾンビもいなけりゃ、俺たちに無茶な働きを命じる奴もいないからな。……今のところは」

「相良さん。先に言っておくわ。この子が島のリーダーであることは絶対よ。だから変なけん制はしないで」

「迦楼羅」

 窘める様な私の声に、彼はきちんと線を引く。

「結花。これは大事なことなの。あんたがきちんと立ってないと、この島は即ダメになるわ」

「……」

「だから堂々としてて。さて、それじゃあ、今日はみんなゆっくり休んでちょうだい。あとで食事を運ばせるわ。で、一つお願いがあるの。このノートにみんなの名前、年齢、健康状態を書いてもらえる?アレルギーがある人も申告してね。この島には医者はいないから健康状態は自己管理が基本なの。衛生管理に関しては特にしっかりお願いしたいわ」

 迦楼羅が差し出したノートとペンを相良さんが受け取る。

「それから、物資調達にいくにあたって、必要なものがあったらそれも書いておいて。明日の朝の食事を持ってくるときに回収させてもらうからよろしくね」

「……ああ、分かった」

「さて、今日の用事はそれだけ。皆さん、ゆっくり休んでくださいね。どの部屋を使っても構いませんから」



 私たちがロビーを出て、廊下に足を踏み出した瞬間だった。

 背後で、小さく声が漏れる。

「……あの女、若すぎないか?」

「でもあの強いのが付いてるだろ」

「じゃあ実権はあっちじゃねえのか?」

 ひそひそとした声。

 聞こえないと思っているのだろう。

 私は足を止めなかった。


 ――分かってる。


 当然だ。

 いきなり現れた島のリーダーが、ただの避難者だなんて。

 しかも若い女。


 舐められない方がおかしい。

「……聞こえてるんでしょ?」

 隣で、迦楼羅がぼそりと呟いた。

「いいの」

 私は首を振る。

「最初はあれでいいの。舐められてるくらいがちょうどいい」

「……強いわね、あんた」

「強くないとやってられないだけ」

 少しだけ笑ってみせると、迦楼羅も肩をすくめた。

 外に出ると、潮の匂いがした。

 空は高くて、雲もない夏の晴れた空。さっきまでの張り詰めた空気が嘘みたいに穏やかだ。

「でもさ」

 迦楼羅がふと、真顔に戻る。

「あの相良って男、油断しない方がいいわね。話は通じるけど、それだけに頑固なとこがある」

「うん。私もそう思う」

 あの視線。

 あれは助かった人間の目じゃない。

 ――全体の状況を測っている目だ。

「しばらくは別動線で動かすわ。仕事もいきなり重要な場所には入れない」

「賢明ね」

「あと、島のルール、早めに新宿組も含めて全員に共有しないと」

「破られたら?」

「……その時は」

 一瞬だけ言葉が詰まる。

 でも、逃げない。

「例外は作らない。追放はする」

 はっきりと言い切ると、迦楼羅が小さく笑った。

「ほんと、あんたがリーダーで良かったわ」

「重い言葉ね、それ」

「その分、背負いなさい。手伝うから」

「容赦ないなあ……」

 苦笑しながら、私は頭の中で次の調達のことを考える。

 メンバーは迦楼羅、高瀬さん、桃ちゃん、ツバサくんで行こうか。

 うちの会社の場所を迦楼羅は知ってるから、できれば残っているかもしれないガソリン缶と軽油缶もお願いしたい。


 やることは山ほどある。


 物資リストの確認。

 電器屋への遠征計画。

 農業機械の整備。

 スリングショットの講習の拡大化。

 何より――この島を、壊させないために。


「……まずは、ルール作りからね」

「ええ。甘いとすぐ崩れるわよ」

「分かってる」


 振り返らない。


 さっきのロビーの空気も、視線も。

 全部、背中に乗せたまま。


 私と迦楼羅は歩き出した。

【神集島住人数】

79人

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