表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/132

97 労働力をもらいます

 朝の空気は、夏だというのにやけに冷たかった。

 軽トラのエンジン音が、その静けさを破る。

「行くわよ」

 迦楼羅の声に助手席の桃ちゃんが頷く。

 後ろでは、もう一台の軽トラにタツヤくんの姿。

 交換用の物資は、念のため、それぞれの荷台に分けて積んである。

「……準備オッケーです」

「じゃあ出す。10秒前」

 ゆっくりと、車が動き出す。

 見送りは――いない。

 そのほうがいい。

 彩羽ちゃんが目が覚めてママを探しても大丈夫なように、ユウキにお願いしている。

 

 どうか無事に。


 それだけがたった一つの願いだった。


 


「……静かですね」

 タツヤの声が無線から響く。

「そうね」

 てっきり向こうでは待ち構えられるか見張りでもいるかと思ったが、目に見える範囲ではいない。

 車も、人も、音も。

 ただ、風だけがある。

「でも」

 迦楼羅がぽつりと呟く。

「見られてるわよ」

「……ですよね」

 こちらを見る視線。

 どこからか分からないのに、確かにある。

「堂々と、ね」

「ええ」

 アクセルが少し踏み込まれる。

「見せてあげましょうか。こっちは何も気づいてませんって顔」

 軽トラは、そのまま道を進む。

 隠れもせず。

 止まりもせず。

 まっすぐに。

 


 やがて――目的の場所が見えて来た。

「あそこよ」

 迦楼羅の声にタツヤも目の前に見える校舎と校門を確認した。

「屋上、人がいるわね」

 桃の言葉に屋上を見ると確かに人影が見えた。

「まあ見張りはおいていて当然でしょ」

「まあそれもそうね。じゃあ行きましょう」

 校門の前に車を停めると、中からではなく、外から声をかけられた。


「よお、ここに用事かい?」


 振り返ると、軽トラの荷台に手をかけた男たちがにやにやと笑って立っていた。

 手には武器も持っている。


「ええ、ここの代表とは顔見知りでね。物々交換のために来たのよ」

 迦楼羅を見た男たちは一歩後ずさる。

「お、おい……こいつ……ゾンビ、か?」

「いや、待て。話が出きるってことは人間だろ」

「アタシがゾンビに見えるのなら上出来だわ。これはドーランを塗って、肌の色をゾンビみたいに見せているのよ。こうしてるだけで変なのは寄ってこないから役にたってるわ」

いつもの言い訳を口にすると、男たちはあからさまにホッとする。


「おい、米があるぞ!」

「水もだ!」

「ジャムや蜂蜜まで……。こんなご時世にまだこんなに物資があるところがあるのかよ……」


 勝手に荷台を漁った男たちの歓声に、迦楼羅はため息をつく。


「これは、こことの交渉材料なの。勝手に触らないでくれる?」

 男たちの手が、一瞬だけ止まる。

「……なんだよ、ケチくせえな」

「減るもんじゃ――」

「減るわよ」

 被せるように、言葉を落とす。

「信頼がね」


 空気が変わる。

 その時だった。


「――下の連中、手を引け!」


 上から声が落ちた。

 屋上からだ。

 仰ぎ見ると、そこにはここを託したグループのリーダーがいた。


「そいつらは俺たちの顔見知りだ!中に入れるぞ!」

 その声に、中から二人出てきて校門を開けてくれる。

 そのまま軽トラを中に入れて待っていると相良がやってきた。

「あんたら、久しぶりだな!」

「アポなしで押しかけてごめんなさいね」

「いや、かまやしないさ」

「実はね。物々交換できないかと思ってお邪魔したの」

「そうか、何が欲しいんだ?」

「追加の自転車。こっち、人数が増えたんで足が欲しいのよ」

「……そうか。自転車が複数必要なくらい人数が増えたのか」


 少し様子がおかしい。

 顔色も良くないし、少しやつれているようにも迦楼羅には見えた。

 だが、それは顔には出さず、まずは交渉を始める。


「ええ。だからこっちから持ってきた物資とここにある自転車の交換をお願いできないかしら?」

「何台あればいい?」

「そうね、できれば20台欲しいけど、一度で無理ならもう一度来てもいいわ」

「……うむ。なら、まず中で話をしないか?」

「そうね。あれからここでどんな風に暮らしていたのかぜひ聞かせてもらいたいわ」

 桃とタツヤが二人の会話をポカンとして聞いていたが、迦楼羅の視線を受けて何かを察する。

「ええと……じゃあ桃ちゃん、俺たちは物資を下ろしましょうか?」

「あんたまで桃ちゃん言うな!」

「え、じゃあ何て呼べば?」

「……もうめんどくさいから桃ちゃんでいいわ」


 相良が、迦楼羅たちが持ってきた物資を見て、何やら思案している。


「どうかした?」

「いや……悪いが、倉庫を見てもらえるか?持ってきてくれたものを入れるのに、ちょっと足りないかもしれない」

「分かったわ、倉庫に案内してくれる?」

 さりげなくその場から二人で離れて、校舎裏にある農業科が使っていた倉庫へ向かう。


 倉庫を開けると、そこにはそれなりに収穫した野菜や果物が並んでいた。


 相良は後ろ手に倉庫の扉を閉めると、切実な声で吐露した。


「限界なんだ」

「……詳しく」

「最初のうちは良かった、ちゃんと回ってたし生活できていた」

「うん」

「そこにあいつらが来た」

「外にいたやつら?」

「ああ。全部で15人。子どもも一人いたから、仏心出したやつが入れちまった」

「そう」

「入ってきたら好き勝手はじめやがった。仕事はしねえし、収穫は好き勝手食うし、だんだん疲弊していった。出て行ってくれ、って何度か言ったんだが、なら今度はもっと人数連れてくるぞって脅してくるんで、にっちもさっちもいかなくなってる。……このままじゃ向こうの子供だけじゃない、こっちに元からいる子供も危害を加えられる可能性がある」

「自分たちが連れてきた子供なのに?」

「あいつらにとっちゃ、子どもはここに入るための口実でしかなかったんだよ。子どもを見捨てられずに入れちまった時には負けてたんだ。……このままじゃ、持たない」

 相良の声は低かった。

 けれど、はっきりとした限界が滲んでいる。

「だったら――追い出すしかないでしょ」

 迦楼羅は淡々と言う。

「できるなら、もうやってる」

 即答だった。

「……戦力差?」

「それもある。でも一番は――」

 相良が歯を食いしばる。

「人質だ」

 空気が、凍る。

「子ども?」

「ああ。あいつら、自分で連れてきた子どもを盾にしてる」

「……最低ね」

 吐き捨てるように、迦楼羅が言う。

「手を出せば、子どもに何かするぞってな。実際に一度、軽く腕を捻り上げて見せやがった」

「……」

「それで、誰も強く出られなくなった」

 沈黙。

「だから」

 相良が、顔を上げる。

 その目は、もう迷っていない。

「助けてくれ」

 はっきりとした言葉だった。

「このままじゃ、ここは潰れる。せっかく譲ってもらったのに、申し訳ない」

 迦楼羅は一瞬だけ目を細める。

 状況を一気に組み立てる。


 戦力は向こうが上。

 だが統制は崩れている。

 人質があるから手を出せない。


 ――なら、やりようはある。


「条件があるわ」

 静かに言う。

「なんだ?」

「こっちのやり方に口出ししないこと。それと――」

 一拍置く。

「ここから出たあと、あんたたちはやり方を選ぶ側じゃなくなる。それでもいい?」

 相良は、ほんの一瞬だけ迷い――頷いた。

「構わない。皆も納得するだろう」

「なら、作戦提案よ。自転車だけじゃない、人間もこっちに寄こしなさい」

「え?」

「相良さん、あなたには最後まで残ってもらう危険はあるけど、他の人たち、特に非戦闘員を労働力、という体で物資と交換はどう?」

「……そうだな。子どもと女性、高齢者を優先してもらえるか?」

「一回では全員は無理だから、最低3回は来ることになるわ。都度、あいつらの目くらましのためにそれなりの物資は持ってくる。だから、向こうの子ども含めて、ここを脱出させたい人数を教えて」

「向こうの子ども二人とその母親含めて、23名だ」

「分かったわ。自転車を積むことも考えたら、やっぱり三往復ね」

「頼めるか?」

「引き受けるわ。だから、あいつらの目くらましはお願いね」

「分かった」

 言い切ったその瞬間だった。


 ――ガンッ!!


 倉庫の扉が乱暴に叩かれる。

「おいおい、こそこそ何してんだよ」

 嫌な声。

 さっき外にいた男たちの一人だ。

「中でコソ話とはなぁ。ずいぶん仲良しじゃねえか?」

 扉が、ゆっくりと開く。

 光を背に、男が立っている。

 その後ろにも、数人。


 手には――武器。


「物資の交換の話だろ?」

 にやりと笑う。

「だったら俺たちも混ぜろよ。ここはみんなの場所なんだからさぁ」

 空気が、一気に張り詰めた。

 相良の拳が、わずかに震える。

 だが、何も言えない。

 ――人質がいる。

 迦楼羅は、その様子を一瞬で理解する。

 そして。

 ゆっくりと、笑った。

「いいわよ」

 場違いなくらい軽い声。

 男が一瞬、目を細める。

「ただし――」

 一歩、前に出る。

「交換のルールはきちんと守ってもらうけどね」

 その言葉に、倉庫の空気が静かに軋んだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ