96 次の調達の作戦会議
「……一つ、いいですか」
私が口を開くと、高瀬さんが視線だけで続きを促す。
「さっきの話ですけど――もう、向こうには私たちの存在、知られてますよね。おそらく、ここを略奪できる場だと考えている人たちに」
「ああ」
即答だった。
「向こうはここに入れること、帰れることを確認した。なら、次はここを制圧できる戦力で来る可能性が高いと俺は思う」
「制圧……」
「向こうでどれだけのことをやらかしている連中か分からないが、暴力の使い方を知っている奴らなら、ここの戦力を見極めてから、とは思っているはずだ」
「こっちの戦力、ですか?」
「そうだ。武器、人数、避難所の規模、地の利。そういった情報を今集めている最中だろうさ」
「ああ、だからこっちに入ってきたときに、鳥居回りを調べた跡があったんですね。もし台風じゃなかったら、こっちかそっちにも行っていたかもしれないってことか……」
「ああ。何人来ていたかは分からないが、1人じゃないだろう。ここは常に人の目がある場所じゃない」
「防犯カメラはここでは使えません。そうなると、常に人の目を置くしかない」
「俺の予想では、おそらくあと何度か偵察に来るはずだ。できればまずそれを抑えたい」
「ですね。そうなると見張りのための場所の設置をしないと」
「昼間は基本的に外に出ている人間が多いし、人の目も気配もある。来るなら夕方から夜にかけてだろうな。ならまず鳥居に人感センサーの灯りを設置することを提案する。こそこそ入ってくる奴には効果的な抑止力だ」
「ああ、それはいいですね。それなら光ったら市庁舎からよく見えます。迦楼羅、人感センサーの灯りつくものってまだあったっけ?」
「もうないわね。調達してこないと」
「分かった、リストに入れておこう。高瀬さん、ありがとうございます」
タツヤくんがそこで手を挙げる。
「あの、俺からもいいですか?」
「はい」
「向こうに行くことがあるなら、いっそ、堂々と出入りしたほうがいいと思います」
「堂々と?」
「はい。どうせ知られているなら、いっそここにいる、ってわかるようにしてしまえば」
「それは危険じゃないですか?」
「そうかもしれません。でも向こうはこっちの情報を知りたがってます。なら多少は見せてしまうほうが向こうも油断します。俺たちがあいつらに気づいてない、って思わせるんです。そうするとここに来る時でも過剰な戦力は集めないと思うんです」
なるほど。
「それは一理あるな。基本的に人間は相手の戦力を過少見積もりしたがる。そんな情報を出すのは確かにありだ」
高瀬さんがタツヤくんの言葉に乗っかる。
「そういうことなら、次の遠征は堂々と行きましょう」
「次の遠征?」
「はい。欲しいものがあるんです。自転車です」
「自転車?」
「はい。今ここには6台の自転車がありますけど、これじゃ今の人数では足りません。あと最低でも20台は欲しいんです」
「20台か……まとまった数だな」
「はい。軽トラに交互に重ねる形で積んで、緩衝材に間に毛布を挟めば、一台で10台は積めると思います。調達先にも宛があります。少し遠いですが、こっちにいる先生たちや高校生が通っていた農業高校です。自転車部があるのと、通学用に使っていた自転車がまだかなりあるそうなので。今は学校自体は、学校の近所にいた生存者グループの人たちに使ってもらっているそうです」
「なるほど、それなら一か所で用事は済むな」
「はい、ただ――」
私は一度言葉を切った。
「取りに行く、じゃなくて交換にしたいです」
高瀬さんの眉がわずかに動く。
「理由は?」
「関係を作るためです」
はっきり言う。
「農業高校側も、今は閉じたコミュニティのはずです。そこに奪う側として入ると、その時点で敵になります。でも、交換できる相手なら違う」
タツヤくんが小さく頷いた。
「……確かに。敵じゃないことをきちんと知らせられる」
「はい。敵対はしたくないんです」
少しだけ間を置く。
「そのための物々交換です」
「……いい」
高瀬さんが頷いた。
「方針は交換。主目的は自転車の確保と関係構築」
すぐに言葉が整理される。
「持っていくものは?」
「向こうも井戸はあるそうですが、念のため水と保存食、それと医療品を少し。あとは生活用品――石鹸とか、生理用品とか、余っている洋服とか、継続生活で効いてくるものを。子供もいるそうなので、戸塚さんの家で採れた蜂蜜と、今年採れたイチゴで作ったジャムも少し」
「悪くない」
どうやら合格らしい。
「農業高校なら食料は強いが、消耗品は弱い可能性がある」
「はい」
タツヤくんが口を開く。
「で、誰が行くんですか?」
「できれば少人数で。迦楼羅は面識あるから、迦楼羅は絶対。それからタツヤくんお願いできる?」
「はい」
「高瀬さんは残ってください、向こう側をまとめる人が必要です。私も残ります」
「分かった」
「あとは桃ちゃんお願いできる?」
「あたし?」
「そう。戦力的に桃ちゃんにもいてほしいの」
「分かった、行くわ」
「他には?」
高瀬さんが視線を巡らせる。
「軽トラは二台出します。運転手は迦楼羅と桃ちゃん」
私は続けた。
「二台あれば20台積めます」
「そうだな」
「交渉役は迦楼羅で。向こうの人とは話をしてるんだよね?」
「ええ。相良さんって男の人が代表だったわ」
「ならその人をメインに交渉をお願い」
「了解」
「無理はしないでね」
「しないわよ。無事に桃ちゃんを連れて帰らないと、彩羽ちゃんに泣かれちゃうじゃない」
「安心しなさい、いざとなったら、あんたを見捨ててでもあたしは彩羽のところへ帰るから」
「母は強しね」
軽く笑いが落ちる。
ほんの一瞬だけ、空気が柔らいだ。
でも――それは長くは続かない。
「出発は明日の朝一でいいか」
高瀬さんが言う。
「はい。そのほうが向こうも動きやすいと思います」
「日中のほうが交渉はしやすいしな」
「準備は今日中に終わらせます」
私は頷いた。
「物資の選定は私がやります。積み込みは――」
「俺も手伝います」
タツヤくんがすぐに言う。
「ありがとう。助かる」
「出発は?」
「明日の朝9時。向こうが見張っているとしたら、その時間の可能性が高い」
「なら、それで行きましょう。桃ちゃん、寝坊しないでね」
「そっちこそ」
これで決まった。
明日は向こう側にこっちを少し見せつつの、必要な物資の調達だ。




