帰路
日が上がり少し暑いくらいの暖かさを感じるくらいになった。
昨夜は酔っぱらっていた男たちもみなきびきびと動き始め、野営地は撤退の準備が始まる。
戦闘をした討伐隊はすでに隊員たちをまとめて先に帰路についている。彼らは仕事を終えたので先行して帰り、英気を養い次の出撃に備えなければならない。
隊の出立の時、シュレンの代わりに隊をまとめて起つセナと少し話をした。
「あんたはどうやって戻るの?」
セナは馬上から俺に問う。
俺は馬上にいる戦乙女のような凛々しい少女に
「馬は乗れないんだ。後続の資材運搬の馬車に便乗させてもらう予定だ」
恰好が悪いので目を逸らしながらそう言うとセナは飽きれた顔になり
「あんた隊に入るなら馬くらいは乗れるようになりなさい。・・・暇があったら特訓してあげるわ」
彼女は少し照れながらそう言うとそっぽをむいた。
「セナ、隊員の準備が整ったぞ。先行してくれ」
ケルヴィンが馬を近づけてきてセナにそういう。
セナはこくりと頷き
「じゃ、先に戻るわ。また聖都で会いましょう!!」
そう挨拶をするとニコリと笑って視線を交わす。彼女は馬の腹を軽く蹴ると勢いよく馬を走らせ
「討伐隊、帰るわよっ!!」
そう叫んで隊の先頭を駆けていった。
綺麗に隊列を組んで颯爽と去っていく騎馬の部隊を見送る。
セナを見送った後、ルシアナの馬車へと向かう。
馬車の前にはファイネンが待機していたが
ルシアナに挨拶を、と伝えるとなにも言わず馬車の扉を開けてくれた。
「ルシアナ、シュレン」
馬車を覗き込み、中にいる2人に声をかける。
「モリアツ様、どうされたのですか?」
ルシアナは俺の顔をみてぱっと明るくなった。綺麗な花が咲いたようだった。
「ああ、ルシアナたちももうすぐ出立だと聞いたんでね、一応挨拶に。シュレンさんは大丈夫ですか?」
俺はクッションに埋もれるように寝かされている麗人に声をかける。
昨日より全然顔色もよく穏やかな表情のシュレンは
「ああ、いろいろと世話になりましたね。身体が動かせるようになったらきちんと挨拶にいきますので」
彼女はそう言って少し口元に笑みを称える。
「そうですね。また身体鍛えるのに付き合ってくださいよ。じゃあ2人とも道中気をつけて」
そう言ってシュレンにお辞儀をしてからルシアナの顔を見る。彼女は目が合うとすぐ照れて目を逸らしてしまった。可愛い。
「じゃあルシアナ、また向こうで」
そう彼女に伝えてから馬車を離れる。ルシアナが慌てて入り口でお辞儀をしてくれる。馬車の扉を閉めてからファイネンに向き合い
「ファイネンさん、道中よろしくお願いします」
ファイネンに声をかけてお辞儀をする。
彼女はお辞儀の姿勢のまま無言だった。無言・・・怖い。
俺はもう一度馬車を見る、馬車の窓のカーテンを開けてルシアナがこちらを見て手を振っていた。俺は軽く手をあげてその場を離れる。
そのまま野営地内を歩き、崩されていくテントたちの横を通り抜けてまだ立ったままのテントの中に入る。中は血なまぐさい。ここは昨日討伐した魔獣を解体して利用できる部分を切りだしている場所だった。
「マーファはいますか?」
嫌な臭いで俺は鼻をつまんで声をかけてみる。
すると割烹着のような雨合羽のような服装で口元を布で隠し三角巾をしてまるで手術するドクターのような出で立ちのマーファが振り返る。服は赤黒い血がいっぱいこびりついていた。
うわーマッドサイエンティストみたい。
「ん?ああ、君か。どうしたね?」
「いや・・・・ものすごい出で立ちだね・・・」
さすがに少しビビって一歩退く。
「ん?そうかね?まぁそうか。まだ作業中でね。昨日君が倒した魔獣の死体を見に行ったのだが、君はしっかり頭を吹っ飛ばしたんだな。ディアガルブは牙が一番いい素材だというのに跡形も残っていないぞ」
少し残念そうな目のマーファ。
「いやあ、俺が狙ったわけではないんですが・・・。結果、頭が吹っ飛んだというか・・・」
俺もどうしていいかわからず天井を仰ぎながらそう答えた。
「ふむ。なるほどな。敵を確実に仕留める。まさに『必中必殺』なのだろうな。その辺の検証はおいおいしていかねばなるまい。で?なんか用ではなかったのかね?」
手に持った魔獣の爪についた肉片を切り落としながらマーファはこちらに視線を向ける。
いや・・・肉屋さんみたいだけど・・・
「ぁぁ、俺は昼すぎの資材運搬の馬車で聖都に戻ろうと思います。マーファさんはしばらくここで作業を?」
肉片を切り落とした爪をじっくり見るマーファ
「そうだな。わたしはもう少し解体に付き合ってから戻る予定だ。牙はなくとも爪や骨などはいい素材なのでね。いくつかは持って帰りたい」
彼女は確認した爪を足元の桶に入れてジャバジャバと洗う。綺麗になったのを確認して机の上に置くと俺に向き直り
「どうせなら『時空自在』で帰ればいいのに。何事も練習だぞ?」
そう言われて俺はそれもそうかとも思ったがひとつ不安がよぎった。昨日一瞬足が動かなくなったことだ。もし『時空自在』で移動したことで起こったものだと思うと少し怖かったのだ。
「昨日、実は意識を失ったあと目が覚めたとき一時的に足が動かなかったことがあって・・・・」
そう報告するとマーファはずずいと間合いを詰めてきて俺の足元にしゃがみこみ
「そんなことがあったのか?今は・・・動いてるようだな。それは『時空自在』が原因だと思うかね?」
マーファは俺を見上げながら質問をする。目以外の部分が全部隠れているので表情は読めないが興味深々のようだった。
「いやぁ・・・・確証はないんですが・・・なんとなくそのせいかなー?と思ったりして・・・」
俺は理由なくそう思っただけだったので自信なく彼女から目を逸らす。
実際はありとあらゆることが想像できるのだ。
「・・・ふむ。それならなおのこと何度も使って検証する方がいいぞ?いざというときに使うことになったときのリスクを減らせるしな。本来なら実験・・・コホン、検証に付き合ってあげたいところだが今はこいつをばらすので忙しくてな。戻ったら一緒に考えよう。私も早めに戻るようにするよ」
一瞬実験、って言わなかった?
そんな突っ込みをしようかと思ったが一応訂正されたのでスルーしておく。
「そうですね。お願いします。ではマッドな作業はほどほどにしてくださいね」
俺はお辞儀をしてこの場を去ることにする。このマッドサイエンティスト衣装のマーファと話してて盛り上がったら俺もこの場で解剖されそうな気がしたので退散することにする。
「ああ、ではまた聖都で会おう。帰ったらまた部屋にきてお茶を淹れてくれたまえ」
そういってマスクを外し悪意ある笑みで送り出してくれた。
俺はそのまま昼すぎまで片付けを手伝い、撤収部隊の第一陣の馬車に乗り込み聖都を目指す。
馬車というのに初めて乗ったがすげー乗り心地は最悪だった。
めちゃめちゃ揺れるし振動は直接身体にきて痛いし。
荷物の片隅に乗せてもらったので狭いし。
これは思った以上にきついな。
俺は少し精神を集中する。
思い浮かべるのは俺の部屋。
やや広すぎる部屋に天幕のついたダブルサイズをさらに広くした豪華なベッド。高級そうなアンティーク調のソファとテーブル。やたら豪勢な刺繍のされたカーペット。昼下がりの日当たりのよい窓。
しっかり集中して俺はイメージする。
俺はいまベッドの上に座っているイメージを持つ。
周りの音は聞こえなくなり
振動は消えてふかふかのベッドの感触がお尻に当たるのを感じた。
今回、章区切りなしてないのですが区切るならここで一章終了となりますね。
次の章はほんとに「ハーレムと無双」になります。
時間も進みます。怖いのはここまでで作品内の時間経過一週間しか経っていないという事実www
今後も期待してますという人はブックマーク、高評価、おめーの話くどいよ。と感想をお願いしますw