120話 数分前
数分前、現天使長ペラシュエルを筆頭にして天使たちが集まる神殿にやって来た。すると、れいくんが「先に天使長サマにでも挨拶しておいで」と言ってきた。
ゆうくんが今どうなっているのか知らない私は、確かにいろいろと聞くべきだと思い、神殿の中へ入っていった。さすがにれいくんはついては来なかった。
前にキャンベールに連れてこられたきりで、ここに来るのも二回目だ。神殿から続く図書館は外からも入れるようになっているのでダアトに会いに行く時はそっちから行っていた。
ペラシュエルの居る部屋も前に着くと側近であるソランジュが机に伏して目を閉じているのが見えた。前はあんな机は無かったのだが机の上には何かの書類が積まれていた。
目を閉じていたソランジュは私の気配に気づいたのか、ガタガタと音をたてながら急いで立ち上がって一礼してきた。
「こ、これは始祖光様、おいででしたか。ですが現在ペラシュエル様は祈り中でございますのでしばらくお待ちいただけないでしょうか? ちなみに私は寝てなどいませんから」
「フフッ、いいですよ。私は何も見ていないので」
コホンとグーにした手を口元にあてながら誤魔化すソランジュの頬は赤かった。私は何事もないように笑いかけた。
ペラシュエルに会うまでの待ち時間でソランジュと話す。
「忙しいんですか?」
「はい、もちろんです。先日の件については私達もヒヤヒヤしましたが、なんとかなったようで良かったです」
それについては……まあ私が勝手に巻き込んでしまったようなものだからなぁ……
奪われたらまずい力を持つ始祖光が敵の世界に飛び込んだから当然奪われないように対策をしないといけない。なので現七大天使を三人も遣わした。これを私が巻き込んで無いと言えるはずはない。
「ここにある書類はそれらについての後始末用のものです。いろいろあります。聴取中の二人の悪魔とダリウスのことについてのものが多いですかね」
まさしく私が今一番知りたいことだ。目を通したいと思ったが部屋の扉が開き、中からペラシュエルが出てきた。
「終わりました。……あら! 始祖光!」
◆◆◆
部屋へと入り、お互い挨拶を済ます。そして早速本題に入る。
「あの、三人ともどうなっていますか?」
「はい、こちらの事情の元、三人にはそれぞれ別の部屋に隔離させてもらっております。ですがこちらは基本質問をしているだけですので拷問などは一切やっておりません。三人とも素直に答えてくれています」
(隔離……)
「もちろん、事が済んだら解放する予定なのでご安心を」
ペラシュエルはそう言っているけど私にはとりあえず捕らえておいて様子を見ていると聞こえた。
「事が済んだらっていつですか?」
「それは……」
具体的な時期を知りたい私は聞くけどペラシュエルは目を反らした。
それは私も予想した反応。分かるはずがない。天使と悪魔がとても長い時間ずっといがみ合い、わだかまりを作っていたから分かりあえることはないと分かっている。だから私の味方だとはいえ、悪魔要素のある三人を自由にしたくないのだろう。
分かっている……のに……
「どうしてそんなことするんですか? 私は皆を返して欲しいだけなんです」
私は自分のための欲求に飲み込まれて、ペラシュエルに対して口調が強くなってしまった。
「……始祖光は変わられました」
ペラシュエルは少し間を開けてから言う。
「私は変わってないです」
「いいえ、変わられました。以前は自分を後回しにするくらい他人思いだったはずです。しかし今は、他人を思ってはいますが自分を上げるようになりました」
「それは私自身を大切にしないといけないと皆から教わりました。でもそれだけで変わったなんて……」
「始祖光、それはあなたの欲求です。そのために始祖光を使おうとしています。それに今回のようになったのはあなたが動いたからなのでは?」
「っっ……!」
痛い所を突かれた気分になった。指摘され、自分という天使を思い出していく。確かに今の発言は少し熱くなりすぎて身勝手だった。
「ご、ごめん……なさい……」
もう反論は出来ない。する気力もない。ペラシュエルの言っていることは正論だ。ここで私の欲求を優先してしまうと、それこそ始祖光に溺れているということを認めてしまう。始祖光に溺れないと決めた。だからここは天使に従うしかない。
ここにはもう用は無いと出ていこうとすると「会うのは自由で良い」と言われて、また一礼して出ていった。
「少し言い過ぎだったのでは? 始祖光、すごく悲しそうな顔してました」
残ったペラシュエルに話を聞いていたソランジュが聞く。
「…えぇ。そうかもしれません。私も……少し焦っていたのでしょう」
「ペラシュエル様……」
天使は天使であの一件以来、最大の敵ルシファーが居なくなったことにより、悪魔への警戒が甘くなり逆に力をつけ始めた私達に目がいくようになっていた。
◆◆◆
外へ出るとれいくんは待っていた。
「遅かったね」
「あ、ごめん」
「何か言われたのかい? 声が沈んでるけど」
「……ほんと、なんでもお見通しなんだね」
「うららちゃんが分かりやすいだけだよ」
「………」
前からもそうだったけど、どうやら私は気持ちが表情に出るらしい。そんな私をからかっているのか、れいくんはいつ見ても笑顔だ。学校に居る時から魔界に居た時まで。
でも……
私が戻ってくることに気がつくまで、れいくんにはその笑顔は無く神殿から見える天界の町並みをただ真顔でボーッと見ているのを私は見た。
それは黙っておこう。れいくんを傷つきかねない。
「会うのは自由って言われたわ。ゆうくんがどこに居るのか知ってる?」
「こっちだよ」と言うれいくんについていき、天界の牢獄へとやって来た。
ここは神殿からさほど遠くはないが、周りに建物などは無く、孤立状態の牢獄だった。中から異様な魔力や威圧を外なのに感じる。魔法陣で送った悪魔などはここに移動されるらしい。
入口付近に居る見張りの天使に許可をもらい中を進んだ。
「やっぱりこういう空気感の方が僕は落ち着くね」
「私はいやだよ」
あれやこれやと話しているうちにれいくんは立ち止まった。「この先」とれいくんは指を指す。私は従い進んで奥を覗く。振り返るとれいくんは立ち止まったままで手を振っている。何か事情でもあるのだろうか。
ある一部屋に人影が見え、その姿がはっきりしていく。その人は正気が無いように感じとれた。
「ゆう…くん……?」
でも、久しぶりに見る顔がそこに居たのは変わらない。




