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お代官様になろう!  作者: 元ガス屋
市井の人々編
22/26

第18話 門前のエルザ@前編

ここからは、少し時系列が前後します、ご了承ください


相沢たちが収めるミートナ郡の人々にフォーカスを当てたいと思います


 話はミートナ市包囲戦の少し前にさかのぼる。

 重岡美咲がサイラスの家に厄介になり始めた頃だ。

 (第十話小さな生存者@救出編を参照)


 お代官様の仕事も一応把握して、横峰は盗賊探索で兵士を引き連れてあちこち出回り、俺といえばたいしてやることもなく、市内を巡察してはいろんな商人や町の連中と仲良くなっていた頃だ。

 権威主義なんてものはサラリーマンの俺から言わせると甚だやっかいなものだと思っている。ましてや俺のような若造には「こういうものだ」と理解は必要だが、実践する必要はまったくない。

 そしてミートナ郡の運営もこの方針で問題ないと思っていた矢先のことだ。


 例によってテラスで日向ぼっこをしながら酒を飲みつつ、試験的に栽培しているコメの出来を吟味していると、サイラスが申し訳なさそうにやってきた。

「どうした? 事件でもあったのかい?」

 とりあえず俺の横のイスを勧めて座らせ、クーリエがお酒を注いで渡してやる。生真面目なミートナ郡大隊長はここまでお膳立てしてあげないとなかなかリラックスしてくれない。それがいいところでもあるんだけどね。

「じ、実は旦那様。ご相談が……」

「サイラスが俺に相談なんてよっぽどじゃん、何かあったのか?」

 

 もじもじするサイラスに数杯酒を飲ませて、やっとのことで聞き出した内容に、俺とクーリエは思わず顔を見合わせた。

「美咲はあまりに好奇心と探究心と冒険心が強すぎます!」

 熱く語るサイラス。黙って傾聴する俺とクーリエ。

「先日は商業地区に野菜のおつかいを頼みました。すると、美咲はその先の冒険者地区まで足を伸ばして、わたしたちが頼んだ野菜よりももっと貴重なものを平気で値切って調達してくるのです」


 まあ、彼の気持ちはわかるが、美咲は日本からこちらに転移後、けっこうな苦労をしてこの街で生きてきたはずだ。ガキのおつかいなんぞ朝飯前だろう。かといってこのまま美咲のいいようにしていては、サイラス夫妻の親としての威厳が損なわれ、ゆくゆくは美咲が本格的にグレてしまった場合が怖い。

「つまるところ、挫折といいますか、お灸をすえたいわけですね」

 クーリエ先生、さすがです! この場にいる人間の言いたいことを代弁してくれた。

「しかし、この街の冒険者地区でもかなり危ないところまで平気で出入りする美咲にとって本当に怖いところは門前か門外か大森林しか……」

 親としてのサイラスの心配。というか、そのあたりになると普通にトラブルになれば死人が出る。美咲にホイホイ行かせるわけにはいかないな。


「あっ!!」

 そこで俺はハルフの言葉を思い出した。

「門前に面白い女がいる」って言ってたな、確か。

 クーリエに頼んで、久しぶりに「ノルド亭」で全員集合してもらおう!



*ちょっとだけ美咲の視点!


 「行ってきます!」

 あたしはサイラスおじさまの家から元気よく出かけた。今日はおばさまのおつかいだ。

 何でもミートナ市には「もんぜんのえるざ」のお店にしかないという香辛料を買って来てほしいらしい。どうやらおばさまもあたしの任務遂行能力を認めてくれ始めているようだ。

「いらっしゃい! おじょうちゃん、今日はいい野菜があるよ!」

 商業地区に入ると、あたしと顔なじみの露店商が声をかけてくる。一度買ったからって調子に乗るのもいいかげんにしてほしい。この辺の露店商は「じごくみみのはるふ」っておっさんの縄張りだってことは知ってる。彼の縄張りってことは、サイラスおじさまとか相沢の兄ちゃんとか、横峰のお姉ちゃんの縄張りってことだ。あ、クーリエさんもそうか。


「いいの! 今日はね! もんぜんのえるざさんのところにお買い物に行くから!」

 

 あたしの言葉に、気軽に声をかけていた露天商たちが固まった。まるで横峰のお姉ちゃんにいけないことを見つかった時の相沢兄ちゃんみたいだ。

「あ、あ。そうかい。そいつは気をつけてな……」

「そうだな、ここからは近いけど、いつも以上に気をつけた方がいいぞ」

 口々にあたしに言うみんな。「もんぜんのえるざ」ってどんなワルなんだろう? 

 相沢の兄ちゃんも頭が上がらないワルだったら、ちょっとだけどお友達になりたいな!



*相沢視点です


 俺の作った「オペレーション・ゲート」は今のところ完璧に進行しているようだ。

「ふふふ……、美咲のやつめ、さぞやびびっているだろう」

 自立心の強すぎる美咲に、おつかいを頼むことで大人の威厳を見せようとして見事に失敗したサイラスに対して、俺はさらに強烈なカウンターを提案した。

 この路線で徹底的に挫折させる案をだ。

 名づけて「オペレーション・ゲート」。城壁の内側で暮らす人々にとって、城壁は非日常への壁となる。美咲を限りなくその世界に近づけて、いざとなったらサイラスたちが助けてあげて、「お父さん、ごめんなさい」って言わせればいいだろうって寸法だ。


 門前のエルザはまさしく、ミートナ市の城門前で乾物商をしている婆さんだ。気難しいことと、門前だけにいろんな連中が彼女の店には出入りする。つまり物騒この上ない。

 そんな店にのこのこと出向いた美咲はこわーいおじさんに絡まれてしまい、さすがにションベンちびりそうになったところでサイラスの出番だ。こわーいおじさん達をコテンパンにのしたところで「さあ、美咲、怪我はないかい?」という寸法だ。

 こわーいおじさん役はもちろん、ハルフプロダクションの皆様が担当し、不測の事態に備えたアクシデントにはクーメ一派の皆様が街のあちこちで待機し、さらには代官所の兵士も城門に待機しているという完璧な人員配置だ。

 

 「旦那様、美咲様が門前のエルザの店に到着しました」

 クーメの報告を受け、俺は彼女の店の向かいにある雑貨屋の二階から様子を見る。ここはサイラス、俺、横峰が待機する司令部兼、美咲のうろたえっぷりを観察するために無理を言って借りた部屋だ。

「どれどれ……」

 俺は窓からこっそりとエルザの店をのぞいてみる。店前に香辛料などを陳列したエルザの店に幼稚園のスモック姿の美咲がたたずんでいる。


 「何の用だい?」

 のそっと、そしてぶっきらぼうに女とは思えない大柄な老婆が店の奥から姿を見せる。きっと某世紀末伝説の作品だと、「そんなでかいババアがいるか」と言われてもいいレベルだ。

「えっと、大森林が産んだ至宝のコショウください!」

 美咲は異常なまでに威圧感を出すエルザに物怖じすることなく、サイラスの奥さんから頼まれた品物をオーダーする。

「ほお、あんな貴重品を……、カネはあんだろうね? 足りなきゃあんたをエストライドの人買いに売っちまえばいいか」

 エルザはわざと目線を下げて美咲を値踏みするように眺める。美咲め、さぞやびびっていることだろう。台本ではこのタイミングで店からハルフ子飼いの若い衆が出てくる寸法だ。


 だが、美咲は意外な行動に出た。エルザの魔女みたいにとがった鼻が自分に近づくや、自分の手のひらを前に突き出して、その尖った鼻に突きをかましたのだ。


 「ぎゃっ!」

 ひっくり返るエルザ。倒れるでかい老婆に馬乗りになった美咲はその顔にビンタを数回食らわせた。

「誰をエストライドに売るってんのよ、このクソババア! さっさと大森林が産んだ至宝のコショウを出しなさいよ!」

 美咲さん、それ強盗です……。台本にない美咲のリアクションに誰もアドリブを利かせることができない。さすがの俺も、まさかあいつがこんな行動に出るとは完全に想定外だし、サイラスに至っては養女の乱暴狼藉に頭を抱えるありさまだ。

 

 門前の騒ぎに冒険者や行商人が人だかりを作り始めている。まずい、こちらが用意したガードに死角が発生してしまう。

「サイラス、しっかりしろ!」

 養女のやらかしっぷりにショックを受けているサイラスをどうにか正気にさせ、なんとか通りの混乱を鎮めねばなるまい。


 だが、通りの方で先に異変が生じた。店に近寄る冒険者風の剣士。美咲の襟首をおもむろにつかむと、店の陳列棚に向けて躊躇なく放り投げたのだ。

「あ、あの野郎!」

 俺は周辺に待機する兵士に合図しようと笛を口に咥えた。だが、それよりも先に事態はさらに先へ動いてしまった。


 店先に放り投げられた美咲が、放り投げた本人によって再びつかみ上げられた。

「このガキ、俺のエルザになんてことしやがるんだ」

 壮年を若干過ぎたように見える剣士は短剣を抜き美咲に突きつけた。もはや一刻の猶予もない。俺はためらうことなく笛を吹いた。


 城壁や周辺に待機していた兵士たちがエルザの店に集結して剣士とエルザ、そして美咲を取り囲む。

「代官所のお出ましか……」

 剣士は恐れる様子は微塵もなくつぶやく。俺とサイラスも表に出て、兵士たちの包囲陣をすり抜けて最前列に進んで男と対峙する。

「お代官様、こやつ見覚えがあります」

 先頭に歩み出た俺に兵士の一人から報告が入る。


 根絶やしのジョセフ。文字通り、押し入った相手先を皆殺しにして証拠を一切残さない。数少ない手がかりは、奇跡的に代官所が駆けつけるまでこと切れなかった被害者からの証言のみだった。そんな凶悪犯がなんでエルザの店にやって来て、彼女をボコボコにしてた美咲に怒りを向けるのか?

 次々と沸いてくる疑問を考える間はない。現に美咲はそんな凶悪犯の手中にあるのだ。


 「そこの変なかっこうした兄ちゃんが新しい代官だな。兵士を動かしてみろ、このガキぶっ殺すぞ!」

 ジョセフは左手で美咲の襟首をつかみ、右手で短剣を彼女に向けている。兵士たちはその周囲で彼を囲むことしかできない。サイラスに至ってはオロオロするばかり。今日ばかりは彼は頼りにならないだろうな。

「エルザ、立て」

 ジョセフは倒れるエルザに声をかけた。男を見て驚きはするが恐れている様子はない。

「ジョ、ジョセフ、あんた……」

 どうやらこの二人、因縁があるようだ、


 エルザが起き上がり、それを迎えるようにジョセフが右手を少し美咲から遠ざけた瞬間、


 ぱーん!


 乾いた音と同時に、ジョセフの右肩から上がる血しぶき。彼の手から短剣が離れたのを見届けた兵士たちが一斉に美咲の保護とジョセフの確保に動き出した。


美咲のお灸をすえる作戦から発生したちょっとした事件


果たして門前のエルザと根絶やしのジョセフとの関係は……??

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