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お代官様になろう!  作者: 元ガス屋
市井の人々編
23/26

第19話 門前のエルザ@後編

ひっ捕らえたジョセフとエルザにまつわる物語。

今まであまりフューチャーしてこなかった種族の違いを描いてみました。

ドンパチやら急展開が好きな方は苦手かもです…


 右肩から血を吹き出し、短剣を取り落としたジョセフに、代官所の兵士が殺到して彼はあっけなく確保された。同じく兵士の手で保護された美咲にサイラスが駆け寄った。

「美咲、美咲、怪我はないか?」

「サイラスおじさま?」


 何が起こったのかよくわかってない美咲はサイラスの姿を確認すると、安心したのかわっと泣き出して養父の胸に飛び込んだ。

「おじさま、ごめんなさい! あのクソ生意気なババアを殴ったからこんなことになっちゃった! ホントにごめんなさい!」

 多少言い回しはアレだが反省しているようなのはうかがえて俺は思わず苦笑いする。

「いいんだよ、もう。ほら、心配して相沢様まで来てくださったんだぞ」

 サイラスの言葉に俺を見つめる美咲。普段の敬意もクソもない目線とは全然違う、純粋に子供の目線を感じた。

「相沢の兄ちゃんもごめんなさい……」


 よっぽど怖かったんだろうな。意外なまでに素直に言ってくる美咲。俺も「オペレーション・ゲート」の首謀者としてはこのアクシデントに関しては罪悪感があるので何とも言えない。

「おう、怖い思いさせたな」

 それだけ言って美咲の頭を撫でてやるくらいしかできなかった。


 しかし問題は残っている。

「ああ、ジョセフ、死なないで!」

 担架に寝かされた根絶やしのジョセフに覆いすがる老婆だ。

「死にはしないわ! 肩をかすっただけよ!」

 すがる老婆に迷彩服の女が冷たく言い放つ。横峰だ。撃った本人が言ってるんだ。間違いないだろう。それにこれ以上ここでできることはないようだ。俺は兵士たちに関係者をまとめて代官所へ連れて行くように命じた。



 翌々日、サイラスから事の顛末がわかった旨、報告があがった。それをダイニングルームで聞いた俺と横峰は唖然とするばかりだった。


 ミートナ郡で十年以上にわたって恐れられた「根絶やしのジョセフ」がなぜあの場に現れたのか? それはどうもまったくの偶然ではないらしい。

 そして、「門前のエルザ」をボコボコにする美咲に対しての行動。これも偶然ではないらしい。どうもこの二人は旧知の仲だったようだ。このことはさすがの地獄耳のハルフも知らなかったようで、よしんば知っていれば今回の美咲を脅かす企画に参加させることはなかっただろうってのは俺でもわかる。

 こうなりゃ実際に聞いてみるしかないようだな。



 代官所の中庭には俺、横峰、サイラスがいる。側にはクーリエが控えている。そこへ門前のエルザが兵士に引き出されてきた。

「おやまあ、お偉方が雁首そろえて、わたしはいよいよ死罪ですかね……」

 引き出されてもなお不敵なエルザ。俺は彼女のリアクションは気にせずに言った。

「ババアのふりはきついだろ?」

「え?」


 絶句するエルザ。俺は兵士に無言で合図した。兵士たちは俺たちの前に座るエルザの顎辺りに手を伸ばし、その仮面とカツラを剥ぎ取った。

 エルザの本当の姿。金髪が美しい、まだ若い耳長族だった。

「なんで、わかったんですか?」

 本当の姿を晒したエルザは俺に問いかける。

「この街にいる人間族でお前みたいなでかい老婆はいない。だが、長身の民族は存在するよな。そしてジョセフの年齢。いいとこ五十代だ、あんな男が若い姉ちゃんに執着してもババアに執着はそうそうしない。そしてあんたのエネルギッシュかつ、下手な男を寄せ付けない立ち居振る舞いから考えたら答えはひとつだよ」

 

 そう。門前のエルザは「昔から」門前で商売をしていた。俺たちの概念だと「昔から」ってなると当然、五年十年スパン、せいぜい二十年だ。だが、ハルフのような耳長族の商人もいる。耳長族の寿命は長い。ハルフはこのことを気にせずに言っていた。

「門前のエルザ。昔から門前で商売をしている婆さんですね」

 耳長族のハルフですら「昔から商売をしている婆さん」ってことしか知らない。この時点で俺たちにはそれが人間族でないことはわかるって寸法だ。

 とすれば、エルザは耳長族。見た感じ婆さんの格好は変装だってことは何となく俺の中で推測していた。そして実際に彼女を見た時に疑惑は確信になった。


 「ふふ、さすがミーツ前国王陛下が推挙なさったお代官様だけありますわね」

 力なく笑うエルザ。俺は静かに彼女へ言う。

「聞かせてもらおうか……」

 こうなっては彼女も隠し事をする気はないらしい。以下の顛末を話してくれた。


 エルザはかつて、門前の界隈でも評判の娘だった。そこで彼女は自分の店に大森林からの戦利品を持ってくる壮年の冒険者に恋をした。

 相思相愛になったふたりは夫婦となった。店を切り盛りするエルザ。商品を大森林から調達してくる夫。店は夫の持ち込む商品とエルザの器量で繁盛した。

しかし、一年後。エルザの夫は大森林に出かけたまま帰ってこなかった。途方にくれていたエルザの店に、年老いた冒険者がやってきた。幼子を連れて。

子供は夫がエルザと出会う前に、別の街で作った子供だった。店の繁盛を聞きつけて女の親が送りつけてきたのだ。エルザは夫を失い、そして腹違いの夫の子を育てることになった。彼女が老婆の格好をするようになり、気難しい店主を演じるようになったのはそれからだ。


 「ふうん……」

 俺は彼女の話を聞いてため息しか出なかった。正直なんて言えばいいのかわからなかったのだ。だが、横峰は違った。

「あんた、ジョセフに惚れてたでしょ? 見てわかるわよ!」


 「え?」


 彼女の言葉に俺と、エルザも思わず問い返していた。俺の横に座る迷彩服の自衛官はいつもと変わらないぶっきらぼうな感じだが、それでも確信的に言葉を続けた。

「ジョセフを見てたあんたの目。あんたを見てたジョセフの目。夫の連れ子を見る目じゃなかったわ。増してやあんたは耳長族。人間族より長生きだけどまだ若い。あんた、女としてジョセフのこと見てたわよね?」


 出会って初めて聞いた横峰の女としての意見。俺は何も言えない。エルザは横峰の顔を黙って数秒見つめていたが、やがて大きく息を吐いた。

「さすがはお代官様の副官でございますね。わたしが老婆の格好をしたのも、自分が老婆になることで人間族のジョセフと同じように歳を取りたかったのかもしれません。そしてジョセフにもわたしに対して女であることを隠したかったのかもしれません。そう思ったのは彼が大きくなるにつれ、夫とうりふたつになっていくからでした……」


 エルザは涙目になりながら俺の方を向いた。思わず目をそらしそうになったが、かろうじて思いとどまる。

「人間にとって四十年は一生の半分以上。でも耳長族にとってはあっという間のことなんですよ。長い人生そうそう心底惚れる男なんて出会わない。あの人に似た顔、同じようなしぐさ、同じような笑い方。見てるうちにそうなってくるもんですよ……。例えそれが畜生働きの冷酷な男であっても、わたしには、わたしだけには優しいんですよ……」


 俺の目の前で泣き崩れる、長すぎる人生ゆえに生き方を間違ってしまった女。「女」である時期が長すぎる故に惚れた男の子供を「女」として愛してしまった、そしてその気持ちを隠すため老婆のふりをし続けた女を俺はどう裁けばいいのだろうか……。




 五日後、クーメ一派が取り仕切るコメの試験栽培場に俺たちはいた。

「お代官様、感謝はいたしません。お恨みもいたしませんけども」

 栽培場の門前で、兵士に囲まれながらエルザは俺に言った。

「うん、わかってるよ。お前の接客技術と調味料の知識をここに来る連中のために役立ててくれればそれでいい」

 彼女は根絶やしのジョセフがどうなったか知っている。多くの殺人を重ねてきた彼は当然死刑だ。だが、エルザだけは俺の意見で極刑にはしなかった。横峰やクーメ、サイラスはかなり反対したけどな。

「やっぱ相沢さんは女には甘いわ」

 俺の後ろで横峰がぼそっとつぶやく。そんな彼女に対してもエルザは軽く一礼して、兵士に促されて栽培場の門をくぐって行った。


 栽培場の門が閉まり、なんとなく寂しげな空気が俺たちを包み始めた頃、俺は横峰へ言葉を返した。

「横峰、お前わかってねえなあ」

 俺は振り返って彼女に敢えて言う。

「な、何がですか?」

「エルザの、感謝もしないけど恨みもしないって言葉だよ」

 こういうことを語る時ってなぜか無性にタバコが吸いたくなる。俺はそれを我慢して街に向かって歩き出す。側にいたクーリエとハルフが横に並ぶ。

「あの言葉にどんな意味があるんですか?」

 歩き出した俺に横峰も食い下がってくる。それにハルフがそっと横槍を入れた。

「ジョセフを極刑にしたことにありがとうは言えない。でもジョセフとその父親からの呪縛を断ち切ってくれたことには感謝してる。でも、ジョセフを極刑にした旦那様を恨まないことは難しい。そういうことです。数十年、エルザが絡み続けてきたものを旦那様は断ち切ったんです。だが、絶ち切ってくれたことを感謝することもできない。難しいものです。寿命が長いといろいろあるもんですからねえ……」

 そう言って遠い目をするハルフ。なおも釈然としない横峰。俺は二人の肩に手を回して傍らに控えるクーリエに言った。


 「よっしゃ! 一段落したし、ノルド亭で一杯やろうぜ!!」


 お代官様の権威っていっても、長く生きてる連中の前では形無しだな。




 数年後、門前のエルザはその罪を許され、再びミートナ市の門前に店を構える。だが彼女はその姿を偽ることなく、時に自暴自棄になる冒険者たちを彼女の経験で諭し続け、いつしか「門前のエルザ」の名前は荒くれ者のたまり場のボスとしてではなく、冒険者たちの救済者として知られていくことになる。


一度でいいから、こういうノリの話を書いてみたかったんですw

期待はずれに思われた方、ご勘弁ください…

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