第17話 戦後処理からのリベンジ♪
売られた喧嘩を買う羽目になった時、偉人たちはこう言ったそうです。
カエサルは「さいは投げられた」
ナポレオンは「考えるのをやめて進め」
ビスマルクは「働け、もっと働け、あくまで働け」
フランクリン・ルーズベルトは「リメンバー・パールハーバー」と
相沢さんは一体、この非常時に何と言うのでしょうか?
王立騎士団に戦場の後始末をお願いした翌日、思いもしなかった客人が訪れた。ダイニングルームで控える俺たちに、客人はいつかのように飄々と姿を見せた。
「おお! 相沢殿に横峰殿! よくぞ無事であったのお」
相変わらず胡散臭い旅の隠居を演じる、ミーツ・パウ・ノルドライド前国王陛下だ。もうこの際、道行く人に正体を明かしてもいいんじゃないかって思うんだけど、この人のスタイルみたいなんで言うに言えない…。
「ぶっちゃけ、死ぬかと思いましたよ……」
陛下を上座にご案内しながら俺は率直に答える。軽い口調で代官やってみない? って言われてたった数ヶ月で実戦ときたもんだ。苦情のひとつでも言いたくなるものだぜ。
俺の苦情は織り込み済みな様子の陛下はそんなことでは動じない。
「まあ、わしもまさかエストライドが大軍を動かすとは思ってもみなかった。そなたらには苦労をかけたと思っておる」
カッカッカっと笑うミーツ爺さん、もとい陛下に俺は恐る恐るだが意見具申してみた。
「時に、敵はその大軍で敗北して敗走中です。追撃はしないのですか?」
俺の意見具申にミーツ陛下は突然真顔になった。思わず背筋を伸ばしてしまう俺以下、代官所の面々。
「相沢、ノルドライド神聖王国としては、敗走するエストライド軍は放置する。また、代官、諸侯、領主。いかなる立場の者も直接的な軍事行動を起こすことは国王の名において禁止する、これがすべてじゃ」
つまり逃げるに任せ、なし崩し的な全面戦争はやりたくない、というのが国の方針ということだ。
なるほど正論だが、俺はちょっと引っかかる言葉があったので再度質問する。
「直接的でなければいいってことですか?」
俺の質問がきっとうれしかったのだろう。陛下はすぐに表情を崩した。
「ふふふ……、そりゃ自分の領内に敗残兵が入ってきて好き放題するのを見過ごせとまでは言えまい。それにミートナ郡はエストライドと直接国境を接しておる。座して何もするなとは言えまいて」
「つまり、間接的なら国は関与しない、と?」
「それによって起こったいかなる事態にも国は責任を持たぬが、王命に背かなければ、こちらとしては何も言わぬということじゃ」
ふーん。そういうことですか……
その夜、ミーツ陛下を歓迎する宴が終わった後、俺の執務室に、横峰、クーリエ、サイラス、ハルフ、クーメが集合した。
夜のミーティングの議題はもちろん決まっている。
「ミーツ陛下のお言葉はいただいた。全面戦争に発展しないならば、直接的軍事行動以外のフリーハンドがあるってことだ。特にミートナ郡は国境を接してるからな」
「でも、間接的って言っても大したことはできやしませんよ。まさか重迫撃砲を撃ち込むわけにはいかないでしょ」
横峰さん、それは完全に直接的軍事行動です。
「旦那様、エストライド軍は今回の我々の戦術を目の当たりにしました。恐らくそれに対抗すべく兵力を結集し、国境の街カントーナに再び兵力を集めるでしょう」
サイラスの冷静な分析。その通りだ。
ミートナ郡大隊の主力であるパイク中隊は戦術的には数百年進んだ発想かもしれない。だが、長槍と歩兵さえいれば編成することは容易だ。パイク同士の歩兵戦なんて犠牲者を出すだけで全く不毛なものとなるだろう。
「クーリエ、あいつを呼んでくれ」
俺は筆頭執事に小さな声で言う。彼も心得たもので、無言で会釈すると執務室のドアを開けて外に控えていた人物を招き入れた。
「あ……」
横峰がとぼけた声を出す。
「ど、どうも。有限会社、桑山製作所で専務やってます、桑山拓海と申します」
ちょっと汚れた作業服のズボン、専務という肩書きをかろうじて維持するだけのワイシャツネクタイに上着はズボンと同じ作業服という服装、黒縁メガネに七三分け、年齢は二十代半ば、つまり俺と同じくらいの男が入ってきた。
「桑山様、どうぞ」
クーリエが恭しく席を勧め、ついでに酒の入ったグラスを彼の前のテーブルに置く。
「あ、す、すいません」
おずおずと席に座る桑山を見て、次に俺の顔を見つめる面々。
こいつがいったい今の話の流れでなんの役に立つんだ? そもそもこいつ確か飯倉と一緒にいて保護された日本人じゃないか、って誰もが思っているようだ。
みんなの疑問が最高潮に達したところで俺は酒をぐいっとあおって立ち上がった。
「クーメの一派には土魔法の達人がいると聞いた。彼は土だけでなく鉄もある程度自在に操れるらしい」
俺の言葉にクーメは無言でうなずいた。
「桑山君の勤める会社は旋盤加工の老舗工場だ。旋盤加工とは鉄を使って精密な工作をする技術と思ってくれ。彼も大学卒業後、親父さんが社長をする会社で技術を習得している」
まだ誰もピンと来ていないようだ。俺はスーツのポケットからある物を取り出してテーブルに放ってみた。
カランと乾いた音を立てて転がるそれは、エストライド軍兵士が持っていた硬貨だ。
「ご存知の通り、エストライド公国の通貨、エスティン硬貨だ。これはどうやら鉄でできているようだ」
俺が投げた硬貨は百エスティン。ちなみにノルドライド神聖王国の通貨、ノルディンは銀貨である。
百エスティンはおおむね十ノルディンで換算されるようだ。
日本円で言えば、十ノルディンは百円くらいの価値と思われる。俺たちが百ノルディンで街に繰り出すと酒にちょっとした肴がついてお釣りが来る。新橋の立ち飲み屋に行くと、千円でビールにおつまみセットと考えるとわかりやすい。
ここまで聞いて地獄耳のハルフがたまらず笑い出した。
「鉄を操る技術者、土魔法の使い手、エスティン硬貨……。ハルフの役目、しかと承りました!」
さすが香具師の親分、察しが早い。
「しかしそれには代官所で徴発している馬車が必要になりますぞ」
そして早速のオーダー。この場でわかってるのは彼だけみたいだ。
「まったく何なの? ハルフさんと相沢さんだけしかわかってないんだから教えてよ!」
横峰がイライラし始めたので、そろそろ種明かしといこうか!
現状!
エストライド軍を撃退したが、恐らく近い将来、兵力を整えこちらの戦術を模倣して攻めて来るだろう。しかし、ノルドライド神聖王国の方針ではこちらから戦闘をしかけるわけにはいかない。国境を接するミートナ郡は兵力を増強しつつ、戦後復興に慢心し、きたるべき時に備えねばならない。
実情!
城壁は一部損壊、市街周辺は敵の死体まみれで、郊外地区はこちらが仕掛けた罠と敵の進軍で荒れ放題。これを復興するには相当な人員と資金が必要。それも大森林沿いの国境を警戒しながらだ。
実を言うと改革でかなり資金を使い込んでいる。前任のクズ代官が溜め込んだ蓄財もけっこうな割合で使ってしまっている。
対策!
領地復興は残った資金でどうにかなるが、敵がそれを上回る兵力増強を見せればミートナ郡は今度こそおしまいだ。
ということは、エストライド軍が兵力増強できないように、それもこちらの策略とわからないように対策を打っておかなきゃいけない。
「つまり経済戦争だよ!」
横峰とサイラスは目をぱちくりさせ、クーリエとハルフはにやっと笑った。
「クーメ一派が魔法でエスティン硬貨の型を大量生産する。桑山君の技術でそれをエスティン硬貨そっくりに仕上げる。ハルフ一派はそれを資金にしてエストライド公国内で買い物をしまくって引き上げてくる、以上だ」
理論上はこれでエストライド公国は経済破綻するはずだ。
「相沢さんに見せてもらいましたが、エスティン硬貨程度なら簡単な焼き型で複製は可能ですね、まあ朝飯前です」
桑山もメガネを指で上げながら自信満々に答える。
「ま、まさか、ニセ金でハイパーインフレ起こすつもり?」
やっと理解した横峰が俺に尋ねてきた。俺は彼女に答えつつ、まだピンと来てない面々に仕組みを説明した。
本来「価値がない」偽エスティン硬貨で大量の買い物をする。商業地区から物資は消え、偽エスティン硬貨が本物に混じって大量に出回ることとなる。
物資が不足すると欲しい者は金を出してでも買うようになり、物価が上昇する。しかし、売る方も仕入れ値が上がっているのでそう簡単には安売りしない。そうこうしている内に市場にはエスティン硬貨ばかりが出回ってくる。
物資が少なく通貨が多くなれば、必然的にインフレが発生する。軍備を整えようとしているエストライド公国にとって自国の通貨の価値が暴落すれば兵士も雇えない。どころか国内政治にも支障をきたし、軍拡どころではなくなる。
俺たちにとっては時間が稼げる&物資をタダ同然で仕入れることができるわけだ。仕入れた物資は備蓄するなり、交易でちゃんとしたカネに代えるなりすればいいだけの話だ。
交易都市であるミートナ市ができる唯一の「間接的攻撃」。ミーツ爺さんはその辺までわかった上で俺に命令したわけだ。
「相沢様、お見事な策でございます」
その時、俺の背後から不意に声が聞こえた。慌てて振り返ると、どこかで見たような銀髪の女。
「ミーツ陛下に仔細をご報告いたします。わたくしは常に相沢様の近くにおりますので何かあればお呼びください、では!」
そう言うが早いかあっという間に女は消えた。あれだ、ミーツ爺さんにくっついてたシルビエットとか言う女の子だ。
彼女がそう言うならミーツ爺さんのOKは出たって考えていいだろう。
翌朝、例によって城壁の門前までミーツ陛下をお見送りする俺たち。城壁の外では王立騎士団がしぶしぶながら戦場の処理を行っている。それを見て陛下は面白そうに笑った。
「相沢殿、昨日の話、面白いと思うぞ。その方が国のためにもなる」
「あ、あの件っすか。ぶっちゃけやっちゃっていいんですか?」
どうせ、かげろ○お銀じゃなかった。シルビエットから聞いたんだろう。俺の疑問にミーツ爺さんはしれっと答えてくれた。
「再来年にもわが国はエストライド公国に総攻撃を仕掛ける。今は自重の時じゃがのう。我慢できんヤツも多くての。そなたの手法がみなの手本になる、感謝しておる!」
ちょっとヨイショしすぎじゃね? って疑問を残してミーツ陛下はいつかのようにミートナ市を後にして旅立って行った。
同じ頃、ミートナ市の裏城門から、ハルフとクーメ一派の精鋭が扮する行商人の一行がエストライド公国に向けて出発していた。
この日より始まる、ミートナ郡とエストライド公国との経済戦争の始まりである。
そして、ミートナ市内に代官、相沢弘樹のお言葉が掲げられた。
「体育会系よ、文系をなめるべからず」
国境紛争編は「ひとまず」おしまいです!
今後は時系列を少しずらしながら、ミートナ市内で繰り広げられた人間ドラマに着目していきたいと思います!!
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