第15話 ミートナ市包囲戦@後編
ミートナ川をはさむ攻防戦は大詰めを迎え、
ついに市街を舞台にした包囲戦に移る。
果たして相沢たちは生き残ることができるのか?
ミートナ川防衛線で迎える三日目の朝。俺は予想だにしない報告を横峰から受けていた。
「魔道中隊がみんなグロッキーよ!」
橋の落ちた川を渡ろうとひたすら押し寄せるエストライド軍に、我が大隊は魔道中隊が主に対応した。結果、中隊が疲労困憊に陥ったのだ。
魔法力ってのは休養で回復するらしいが、あまりに使いすぎると疲労が蓄積するようだ。
確認した敵の遺棄死傷者は一万を数えようとしている。この世界に戦略ってレベルのものがないためだろうが、浅瀬を押し渡ろうとごり押しした敵のやり方はあまりに不毛だ。
だが、数の暴力に押されているのもまた事実だ。俺は苦渋の決断を下すことになる。
「横峰、魔道中隊をミートナ市内まで下げよう。パイク中隊で敵を防いで計画通りミートナ市外周の第二次防衛線まで下がるぞ!」
徴発した馬車で魔道中隊は市内まで撤退。休養させることにした。その代わり、横峰以下、飯倉を除く五名の自衛官を塹壕に配置する。先立って彼女以下、自衛官が銃を敵に撃つことに対して問題がないか確認した。
「もう開き直ったわ。心配しないでください!」
その言葉を信じることにしよう。
「GHQ、こちら第一パイク中隊。敵兵団接近中!」
無線機から報告が入る。これで何度目か、エストライド軍が渡河を試みて前進を開始した。支援攻撃の火魔法が時折飛んでくる。塹壕のおかげで直撃は免れているが、それでも各中隊に負傷者が出ている模様だ。敵魔法を中和してくれる魔道中隊がいないのはかなり痛手だな。
塹壕におけるパイク中隊の布陣にはいささか工夫が必要だ。最前列は塹壕の中で槍を隠しながら展開。第二列は塹壕のやや後方で伏せる。第三列は第二列の数メートル後方に伏せる。川岸から見ると緩やかな登りになっているので、敵から後列は見えないし、魔法攻撃もそうそう直撃はない。
「第一パイク中隊、迎撃開始!」
横峰の合図でパイク中隊は行動を開始する。
渡河した際に衣服を濡らして重くなった敵は、人馬共に動きが鈍くなっている。それでもこちらの塹壕陣地に隊列を整えながら前進してきた。
そこへ不意にパイク中隊の長槍が襲う。剣では対抗できない長槍になすすべもなく倒れていくエストライド軍兵士。
隊列と一緒に前進して来た魔法使いが、パイク兵に至近距離から魔法攻撃を浴びせる。
数人のパイク兵が火だるまになって塹壕から飛び出してしまい、敵の餌食となった。
「横峰! 狙えるか?」
俺は無線で横峰を呼ぶ。
「任せて!」
ぱーん!
その音と同時に第一パイク中隊を襲った魔法使いが胴体から血しぶきをあげて倒れた。
初めて聞く銃声に動きが完全にストップするエストライド軍。
ぱん! ぱん! ぱん!
続けざまに数発の銃声。エストライド軍の魔法使いがパタパタと倒れた。静かに、そして確実に敵軍へ恐怖が伝染していくのがわかる。
「第二パイク中隊、こちらGHQ、ミートナ川まで前進!」
敵の渡河地点は限られているので拠点防衛は第一中隊で十分だった。予備兵力になった第二中隊に前進を命じる。
横峰の吹く規則正しいホイッスルを合図に、第二パイク中隊は槍を前面に構えて前進を開始した。こちらの塹壕はあらかじめ準備していた渡し板を渡り前進して行く。
何が起こったのか把握できないまま、立ち尽くすエストライド軍の戦列に、第二パイク中隊が迫った。
「突撃! 突撃!」
槍を前面に突き立てたパイク中隊がうろたえる敵軍に接触する。なすすべもなく突かれ、叩かれていくエストライド軍兵士たち。数分で戦列は崩壊し、敵はミートナ川に向かって敗走を始めた。
ミートナ川の川岸に、そして川面に数え切れない死傷者を残し、エストライド軍は対岸に撤収して行った。
どうやら潮時だ。
「全隊、負傷者を収容。陣地撤収! 騎兵中隊は敵の反撃を警戒しつつ友軍の離脱を支援せよ! なお第四戦車大隊は騎兵中隊に随伴して支援を実施せよ!」
おお、さすがは横峰三曹。本業っぽい指示出してくれてるじゃん。俺たちは代官専用の馬車にも負傷者を乗せてミートナ市内へ撤収を開始した。
市内にいたる城門近くへたどり着くと、そこは見違えた光景に変わっていた。
「クーリエさん、すごすぎっす!」
城壁の周囲一キロ地点には騎馬を止める塹壕線。その先には直進する騎馬を止める馬防柵。城壁周辺の潅木は切り倒され、城門にすえられた機関銃から死角がなくなるように工夫されている。
それらの障害を越えて城壁に取り付いても、敵にはさらなる試練が待っている。
「旦那様、商業地区の飲食店が自発的に用意してくれました」
クーリエ大先生が俺を城壁に案内して見せてくれたもの。
「こいつは……」
大きな寸胴に入れられ、兵士によってかき混ぜられている菜種油だ。城壁に取り付いた敵兵は頭上からこの油をぶちまけられ、火あぶりになる。さらに、市内に到着したパイク兵が城壁に取り付きつつある。火あぶり地獄を生き残っても長槍の餌食になるだけ。
「鬼の防衛線だな……」
俺は自分が命じたんだけど、実際に見てそういう言葉しか浮かばない。いざとなれば自衛官が近代火砲で手助けまでしてくれるのだ。
城壁を歩いていると、兵士とは違う連中が目に入った。商人風の連中、冒険者風の連中などなどだ。
「おい、お前らどうしたんだ?」
俺の問いかけにまだ十代の少年に見える商人風の男が直立不動で答えた。
「はい! 自分は地獄耳のハルフ親分にお世話になっている露店商です! 街の危機と聞いて手持ちの武器を持って志願いたしました!」
見るとその手にはパイク中隊程ではないが物干し竿みたいな槍が握られている。
「地獄耳のハルフ親分から聞きました。敵は虎視眈々とミートナ市を狙って行動を開始したそうですね! だったら俺たちもお代官様と戦います!」
口々に上がる声。俺は思わず泣きそうになったがどうにかこらえた。
翌朝、エストライド軍はミートナ市に到達した。その数こそ四万弱まで減っていたが、俺たちの嫌がらせで相当な怒りで士気は高そうだ。
「旦那様、まずうございます……」
そして双眼鏡をのぞくサイラスのいつになく怯えた声。
「どうした?」
「敵は攻城戦部隊を使うつもりです」
「何だそりゃ?」
彼の言葉にピンと来ない。
次の瞬間……
ドンッ!!
ミートナ市の城壁、俺たちのいる正門から数百メートル離れた場所が崩落した。巻き込まれた連中も多数いるようだ。周辺の無事だった地区から救助隊が派遣される。
「なんだよ、今のは?」
俺の言葉にサイラスは双眼鏡を俺に持たせて敵の隊列に向けた。戦列の後方で魔法使いどもが十数人集まって何かしている。
「魔法使いの集団が特別な訓練で魔法力を結集し、先ほどのような巨大魔法を使う部隊です。これで城壁に大穴でも開きますと、外周の防御陣地も無意味になります」
魔法で作り出した岩をこちらに飛ばしてくる、魔法の世界版の投石器か。こいつはやっかいだ。俺は横峰を無線で呼び出す。
「横峰、連中を狙撃できないか?」
だが彼女から返ってくるのは非情な現実。
「ダメ、小銃の射程外よ……」
その時、思いもしないところから声が上がる。
「相沢さん、うちの隊で持ってきたのが使えますよ! こんなの治安出動に使わないって思ったんですけどねえ……」
いささか緊張感に欠ける物言いをする飯倉だった。彼の声に横峰も心当たりを思い出したようだ。
「やりましょ!」
飯倉陸士長の提案は、彼の部隊のトラックに積まれていた八七式対戦車誘導弾=通称「中MAT」の使用だ。
射程距離は二キロ以上、セミアクティブレーザーホーミングで目標を追尾する誘導式対戦車ミサイル。いささか時代遅れの兵器だが十分通用するはずだ。
レーザー照射機と発射装置が城壁に運ばれる。その間にも二発、敵の大魔法が城壁に着弾している。損害は出ていないが当たり所が悪ければ致命傷だ。
飯倉以下、第四大隊の面々は手際よく発射準備を済ませていく。
のだが……。
「発射準備よし! 目標、距離二千! 敵魔法使い陣地、アクティブレーザー照射!」
「照射よーし!」
「目標ロックオン!」
「目標ロックよーし!」
「後方の安全確認!」
「後方の安全確認よーし!」
「安全装置解除!」
「解除よーし!」
つーか早く撃て! チキンハートな俺は心の中で突っ込む。
「発射!」
対戦車ミサイルは航跡を確認する間もなく、エストライド軍の陣営に着弾した。
さっきまで群がってワラワラしていたフードの連中は跡形もなく吹き飛び、周囲の兵士も死傷している。
城壁や周辺陣地のミートナ市防衛側からは歓声が上がる。対するエストライド軍は逆切れ気味に突撃を開始する。もはや結果は明らかだが、降りかかる火の粉は払わないとな。
この「ミートナ市包囲戦」でミートナ市はノルドライド、エストライド両国のみならず、周辺諸国からも「難攻不落の城砦」として有名になる「はめ」になる。
書き溜めていた分が、年末モードの仕事と忘年会多発でなくなってきましたw
正月休みにがんばろうと思います!
文章・ストーリー評価などもいただけると幸いです!!




