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お代官様になろう!  作者: 元ガス屋
国境紛争編
17/26

第14話 ミートナ市包囲戦@中篇

七百対六万。

普通に考えると、押し込まれてアウトな状況で相沢渾身のアイデア!

果たしてミートナ郡大隊の運命は??


 エストライド軍到着まで48時間


 本隊をサイラスに任せ、俺と横峰は大急ぎでミートナ市方面へ戻っていた。その途中、俺は彼女に今後の考えを聞かせてやった。


 「防衛戦に徹してセントロアナの王立騎士団主力を待つ。基本篭城だが、いきなり城壁まで戦線を下げるつもりはない」

 モデルとしてはナポレオンのロシア遠征でのロシア帝国軍の戦略が思い浮かぶ。焦土作戦はしないけどな。

 他にも、実際に行われていないが、NATO軍のワルシャワ条約軍迎撃のコンセプトが遅滞戦術だ。こちらの方が横峰にはピンと来るだろう。

 つまり、敵の進撃速度を落とし、なおかつ敵に出血を強いて士気をくじき、その間に自分の本命の防衛線を強化、あるいは反撃兵力を整える戦術だ。


 「途中にあるミートナ川の橋を落とすのね……」

 横峰の言葉に俺は首を横に振る。

「橋は敵が接近するギリギリまで維持する。友軍の撤退と避難民保護のためだ」

「じゃあどうするの? 橋を落とすのは遅延戦術の常道でしょ!」

 馬車の座席で興奮する横峰に顎で前方を示す。

 クーリエを先に送り返して正解だったな。寝不足で二日酔いだが、今日の俺は冴えてる!


 「旦那様、ご指示通り冒険者ギルドに緊急依頼を出して志願者を集めてまいりました!」

 俺たちと合流した筆頭執事は誇らしげに言った。彼の背後には二百名近いドワーフ族が集結している。そして彼らの手にはシャベルや農具が持たれている。

「クーリエ! 城壁からミートナ川にいたるまで、この設計図どおりにやってくれ!」

 俺はあらかじめ用意していた紙をクーリエに渡す。パソコンに残っていた土木関連のデータを参考にして作ったんで何とも言えないが……。

「承知しました! 明日の昼までに形に致します!」

 クーリエはドワーフ族を率いて街の方に取って返した。と、そこへサイラスが追いついてきて状況を報告してくれる。


 「旦那様、現在大森林は平穏。ご指示通り、捕虜を動員して街道沿いに各種トラップを敷設中。明日の朝にはミートナ川にいたる地域での作業化完了見込みです」

「よし、俺たちはこのあたりでじっくり現場監督してやろうぜ!」

 

 

 エスドライド軍到着まで42時間


 パイク中隊と捕虜が予定の仕事を終えた、との報告が入った。

「よし、捕虜にも食事を出してやれ」

 宿営地で俺はみんなと食事を共にしながら言う。とまどう兵士たちだったが、サイラスの再度の命令で行動を開始してくれた。こういうのって重要なんだよな。


 「捕虜に食事などやって大丈夫ですか?」

 兵士に命じはしたが、心配そうにサイラスが言う。

「市内の食糧備蓄は十分だ。それに自分が逆の立場で飯抜きはきついだろ?」

「は、それはそうですが……」

 努めて明るく振舞う俺にサイラスも否定はしない。

 工事は予定より早く進行している。明日にはミートナ川までの作業を完了してクーリエと合流したいものだ。


 大勝利の余韻から一気に危機に見舞われたミートナ郡大隊の長い一日は、とりあえず終わった。



 エストライド軍到着まで32時間


 俺たちはミートナ川の橋まで戻ってきていた。街道沿いには計画通り、たくさんの歓迎施設が構築されている。

「ねえ、相沢さん。そろそろ種明かししてもいいんじゃないです?」

 痺れを切らした横峰が俺に言ってくる。

「むふふ……」

 思わずにやけてしまう。本業を出し抜くことは営業マン冥利に尽きるってもんだ。


 先の戦闘で確認したとおり、エストライド軍は騎士を中心とした騎乗兵力だ。

 騎士にとって命綱である馬をどうにかすれば、重い鎧を着込んだ騎士はどうってことはない。

 では、どうすればいいのか? 簡単だ。

 馬をつぶせばいいのだ。パイク中隊に命じた仕事は単純だ。


 「諸君らが子供の頃遊びで作った落とし穴を、大人の本気で作りながらミートナ市まで退却せよ」

 街道沿いに大森林を抜けた敵軍は騎兵突撃しやすいように徐々に横へ展開するだろう。そこへ落とし穴。ひるまずに街道まで出てきて俺たちがいないことを悟ると最短距離でミートナ市を目指し縦列になるだろう。そこへ落とし穴。

 道沿いは危ないと散開したら落とし穴。

「落とし穴注意」の看板を避けて通ると湿地帯。田畑を抜けて行こうとすると、腰の高さまで茂った麦の中に落とし穴。

 要するに徹底的な嫌がらせだ。


 「状況はハルフの伝令がクーメ一派と協力して伝えてくれるはずだ」

 俺の説明に横峰は聞き入っている。俺は目前のミートナ川を見ながら彼女に言う。

「クーリエの率いていたドワーフ族はミートナ川から街までの担当だ」

 川から市街に至るまで、道沿いは生真面目な執事によって徹底的に罠だらけになっているはずだ。



 エストライド軍到着まで24時間


 ミートナ川沿いの宿営地。前日と同じ作業に従事させた捕虜をミートナ市内に送った。味方が近づいたことを知った捕虜たちに騒がれちゃ、うざいことこの上ないからな。

 俺は補給物資の酒を飲みながら、サイラス、横峰、クーリエの報告を聞いている。


 「ミートナ川から城壁にいたる街道沿いの仕掛けは完了です」

「兵士にも状況説明完了! いつでも展開可能!」

「市内は現状平穏。憲兵小隊と地獄耳のハルフ配下が協力して掌握中」


 代官所の兵士は極めて勤務態度良好だ。当初は彼らを取り締まる憲兵は必要ないとすら思い、憲兵の創設に反対だった。サイラスの進言で作ったはいいが、兵士の勤務態度がいいので活躍の場がなかったのだ。普段は横峰の盗賊探索を手伝うくらいだった。

 憲兵隊にはこういう時に動いてもらう方がいいだろう。市内には俺の政策に反対する大商人もいるみたいだしね。

 

 「旦那様、これでうまくいくでしょうか?」

「そうだな……」

 横峰、サイラスたちへ、俺の解説は続く。


 落とし穴の嫌がらせで愛馬を失いながらもミートナ川にたどり着くエストライド軍。彼らが見るのは、徹底的に落とされた橋だ。

 散々の嫌がらせでイライラしている敵は力ずくで川を渡ろうとするだろう。

「そこで第一次防衛戦線が火を噴く」

 塹壕にこもった魔道中隊とパイク中隊がヘトヘトになりながら渡河した敵を迎え撃つのだ。剣が主体の敵は穴にこもった俺たちに剣は届かない。だが、魔法とパイクは届く。夕刻まで川を渡ったところで敵に大出血を強いたら、俺たちは外壁周辺の第二次防衛線まで下がる。

 

 翌朝、部隊を再編成した敵は川沿いの陣地を再度攻めるがそこはもぬけの殻。愚弄された怒りでミートナ市へ向けて進軍するが、すでにボロボロだろう。

 そこへさらにクーリエ先生作の嫌がらせトラップがお出迎えすることになる。

 いざという時に備えて、二次防衛線には自衛隊を分散配置している。敵が数の暴力で押し込んでくるなら、こちらは近代火砲でお迎えするまでだ。


 「相沢さん、相当性格悪いわ……」

 俺の防衛構想を聞いた横峰が一言つぶやいた。サイラス、クーリエが思わず失笑した。

 そりゃそうさ。この腐敗と自由と暴力の真っ只中を駆け抜けるためだ。どんなえげつない明日へのマニュフェストだって作ってやるさ!



 エストライド軍到着まで6時間


 突貫工事を無事終えた部隊を休ませ、ミートナ川沿いの塹壕地帯に展開を終えた。俺と横峰、サイラスは塹壕陣地の指揮所で敵の動向をうかがっている。すぐ後方には非常用の軽装甲機動車に飯倉士長も待機している。


 時折、馬車や徒歩でミートナ市に向けて民間人が橋を渡ろうと近づいてくるが、その数はもはやまばらだ。大方住民や冒険者の避難も済んだようだ。

 この間もクーメとハルフの伝令たちが情報を伝えてくれる。


 「申し上げます。大森林を突破した敵先遣隊はトラップで大損害です!」

「敵主力は大森林を出た後、散開! しかしこちらのトラップで騎馬の多くを失い再び街道に展開!」


 「相沢さん、やっぱ性格悪いです」

 伝令の報告を聞きながら横峰が再度言う。たぶん褒め言葉だと受け取ることにする。

「サイラス、騎馬を失った兵士はどうなるんだい?」

「はい、状況によって違いますが、基本的には本隊と行動を共にします」

 員数はいるけど、機動力のない補欠要員みたいになるわけね。



 エストライド軍到着時刻


 「GHQ、第一パイク中隊、敵視認!」

 ミートナ川にかかる橋――があったところ、に一番近い塹壕を担当する第一中隊から報告が入る。少し後方の指揮所塹壕から双眼鏡で確認してみる。

「おお、結構残ってるな……」

 エストライド軍は相変わらず騎馬を先頭に押し立てて、後方に魔法使いと落馬した兵士を徒歩で従え、横広く前進してきている。が、その足取りはいささかお疲れのようだ。

「魔道中隊、GHQ。射程に入ったら各個攻撃開始せよ」

「魔道中隊、了!」

 飛び道具を持つ魔道中隊にはフリーハンドを与えてある。

 「来ます!」

 

 川に達したエストライド軍は橋が使えないことを察すると、騎馬を失った兵士に浅瀬を探して渡河するように命じたようだ。徒歩の兵士が川岸のあちこちから走ってくる。騎馬が通れる浅瀬を探しているようだ。

「魔道中隊、GHQ。まだ攻撃するな」

「GHQ、心得てます!」

 安心できる返事が無線から返ってくる。思いっきり引き付けて、ワッと襲う方がインパクトあるからね。


 やがて敵の主力が二、三ヶ所に集まり渡河を始める。浅瀬を見つけたようだ。動きから察するに、こちらの塹壕陣地には気づいていないはずだ。

「攻撃開始!」

 俺の合図で魔道中隊が塹壕から魔法攻撃を開始する。

 身を守るものもない川の真ん中で、土魔法の急襲を受けた敵はバタバタと倒れていく。敵の魔法使いにも損害を与えたようだ。

「確認した敵死傷者は五百以上。ここ、ボーナスステージかも……」

 予想以上に川を挟んだ防衛線は効果的なようだ。

 俺は予定よりも長くこの戦線での防衛を継続することにした。


【閑話】過去の歴史上、ミートナ郡VSエストライド軍に匹敵する兵力差の戦いはいくつかあります。

有名なのは1939年12月冬戦争でのコッラの戦いでしょう

フィンランド軍32名VSソ連軍3000名でフィンランド軍勝利ですw

伝説のスナイパー、シモ・ヘイヘも活躍した戦いですね。

フィンランド軍の勝因は後編の相沢に通じるものがあると思います。

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