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伝書人は今日も旅をする  作者: 金麦
第一部 風の向こうへ
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19/30

第19話 秘めた力


 ハルディア砦の中は、外の静けさとは正反対だった。


「東側の見張り台、交代!」


「負傷者をこちらへ!」


「魔法兵は城壁へ!」


「門を開けるな! 絶対に開けるな!」


 怒号が飛び交い、兵士たちが駆け回っている。


 血に濡れた者が運び込まれ、治療を受ける者の呻き声が響く。武器を手に取った兵士たちは、次々と城壁へ向かっていた。


 砦全体が、いつ戦闘に突入してもおかしくない緊張に包まれている。


「……ひどい」


 リーゼが呟いた。


 カナタも言葉を失っていた。


 城壁の向こうには、無数の魔物が蠢いている。森からは今も新たな影が現れ、砦へ向かってゆっくりと距離を詰めていた。


 遠くから、低い唸り声が重なって聞こえる。


 まるで森そのものが、こちらへ押し寄せてくるようだった。


「伝書人の方ですね」


 声をかけてきたのは、傷のついた鎧を身につけた男性だった。


「私はハルディア砦副隊長、グレンです」


「リュネアの伝書院から来ました」


 リーゼが答え、封筒を差し出す。


「緊急伝書を」


「ありがとうございます」


 グレンは封筒を受け取ると、白い封蝋を確認した。だが、胸元へしまう手つきには余裕がない。外から響いた咆哮に、彼の視線が一瞬だけ城壁へ向いた。


「これを待っていました」


「状況は?」


 リーゼが尋ねる。


 グレンは、短く息を吐いた。


「最悪です」


 その一言に、迷いはなかった。


「昨日の時点では、まだ散発的な襲撃でした。夜の間に何度か魔物が近づいてきた程度です」


「今日は?」


「完全に様子が違う」


 グレンは城壁の向こうを睨んだ。


「魔物が、この砦を目指して集まっています」


「理由は分かっているんですか?」


「……それを、今から説明します」


     ◇


 砦の作戦室。


 大きな机の上には、周辺の地図が広げられていた。


 地図の上には、魔物の目撃地点、襲撃地点、負傷者が出た場所が赤い印で記されている。さらに、そのすべてを結ぶように、魔物の移動方向を示す矢印が伸びていた。


 赤い印は、時間が経つほど砦へ近づいている。


「最初は、単純な異常発生だと思っていました」


 グレンが言った。


「森の奥から、魔物が押し出されてきた。縄張り争いか、何かに追われているのだろうと」


「それだけでは説明がつかない?」


 リーゼが地図を見つめる。


「はい」


 グレンは、いくつもの印を指でなぞった。


「魔物には縄張りがあります。種類が違えば、生息域も行動範囲も違う。普通なら、これほど多くの魔物が同じ方向へ動くことはありません」


「それなのに」


 リーゼが続ける。


「違う種類の魔物が、同じ場所へ向かっている」


「その通りです」


 グレンは地図の中央を指した。


「原因は、ここです」


 そこには、ハルディア砦から少し離れた山の名前が記されていた。


「ラグナ山?」


 カナタが読み上げる。


「はい」


「そこに何があるんですか?」


 グレンは一枚の報告書を取り出した。紙の端には泥がこびりつき、ところどころに血の跡が残っている。


「昨日の夜、斥候隊がラグナ山の中腹で異常を確認しました」


 グレンは報告書に目を落とした。


「山の内部から、大規模な魔力反応が発生していたそうです」


「魔力?」


 リーゼが身を乗り出す。


「どのくらいですか?」


「測定できませんでした」


「……」


「魔道具の限界を超えています。測定器は反応した直後に焼き切れ、斥候隊は撤退を余儀なくされました」


 カナタの胸の奥が、わずかにざわめいた。


 測定不能。


 その言葉には、どこか聞き覚えがあった。


「そして」


 グレンは続けた。


「その魔力反応が確認されてから、魔物の動きが変わりました」


 地図上の矢印を指す。


「魔物が山から離れ」


 指が砦の方へ移る。


「こちらへ向かい始めた」


     ◇


「つまり」


 カナタが言った。


「魔物は、その魔力から逃げてきている?」


「それが最初の予想でした」


 グレンは首を横に振る。


「ですが、違った」


「違う?」


「山から逃げている魔物だけではありません」


 グレンはラグナ山の印を見つめた。


「自分から山へ向かっている個体も確認されています」


「……」


 カナタは黙り込んだ。


「逃げている魔物と、向かっている魔物がいる?」


 リーゼが確認する。


「はい」


「では、一体何が……」


「分かっていません」


 グレンは苦々しく答えた。


「ただ、今朝になって状況がさらに悪化しました」


 その時、作戦室の扉が勢いよく開いた。


「副隊長!」


 若い兵士が、息を切らして駆け込んでくる。手には新しい報告書が握られていた。


「何だ」


「斥候から追加報告です」


「読め」


「はい」


 兵士は紙を広げた。


「ラグナ山の中腹付近で、大型魔物の群れを確認。数は、確認できただけで十以上」


 部屋の空気が重く沈んだ。


「さらに」


 兵士は唇を湿らせた。


「山の中心部に近づくほど、魔物の数が増えているとのことです」


「大型魔物が、十以上……」


 リーゼが呟く。


 大型魔物が一体でも砦へ向かえば、城壁は無事では済まない。十体以上が群れを成しているなら、正面から止めるのは困難だった。


「中心に」


 リーゼが地図を見つめる。


「何かがある」


 カナタも、同じ結論に達していた。


     ◇


 その後、斥候隊からさらに詳しい情報が届いた。


 ラグナ山の奥。


 以前は何もなかった場所に、大きな亀裂が生じている。


 地面は裂け、そこから青白い光が漏れている。周囲の岩肌には、まるで内側から押し広げられたような亀裂が走っていた。


 そして、その裂け目から、強い魔力が絶え間なく流れ出している。


「地下から?」


 カナタが尋ねる。


「そう考えられています」


 グレンが答えた。


「魔力の噴出」


 リーゼが言った。


「それなら、魔物が集まる理由も……」


「はい」


 グレンが頷く。


「魔力に引き寄せられている可能性が高い」


 魔物は、強い魔力に反応することがある。


 特に、魔力濃度が異常に高い場所では、理性を失ったように行動を変える個体もいる。餌を求めるように近づくものもいれば、本能的な恐怖から逃げ出すものもいる。


「つまり」


 カナタが言った。


「山から魔力が噴き出して」


「魔物がそれに反応して」


「この周辺に集まっている」


「そう考えるのが自然です」


 リーゼが答えた。


 だが、それで状況が好転するわけではない。


 魔物はすでに砦の周囲を埋めつつある。森の中では枝が折れ、地面が踏み鳴らされている。遠くで、何か巨大なものが吠えた。


 作戦室の窓が、低い振動に震える。


「……今のは?」


 カナタが尋ねる。


 グレンの表情が硬くなった。


「大型種です」


「近いんですか?」


「先ほどの報告より、さらに近づいている可能性があります」


 その直後、砦の外から鐘の音が鳴り響いた。


 一度。


 二度。


 三度。


 警戒を示す鐘だった。


 兵士たちの怒号が、壁越しに聞こえてくる。


「魔物が、もう城壁の近くまで来ています」


 グレンが言った。


     ◇


「砦を守るには?」


 リーゼが尋ねる。


 グレンは地図から目を離さなかった。


「正直に言えば、厳しいです」


「兵力が足りない?」


「それだけではありません」


 グレンは城壁の方を見た。


「数が多すぎる」


 さらに、ラグナ山の印へ視線を戻す。


「大型魔物までいる。このまま増え続ければ、いずれ城壁が耐えられなくなる」


「城壁が破られたら?」


 カナタが聞く。


「砦の中へ雪崩れ込みます」


 グレンの声は低かった。


「この砦は、周辺の村々を守る最後の防衛線です。ここが落ちれば、魔物は街道へ流れ、避難の間もなく村が襲われる」


 リーゼは息を呑んだ。


 砦だけの問題ではない。


 この場所が崩れれば、その先にいる人々まで危険にさらされる。


「今夜を越えられるかどうかも、分かりません」


 グレンは淡々と告げた。


「次の襲撃で門が破られる可能性もあります」


 外から、また咆哮が響いた。


 今度は先ほどより近い。


 兵士たちの足音が一斉に走り出す。


「東側、魔物接近!」


「弓兵を配置!」


「大型種を確認! 魔法兵、準備しろ!」


 作戦室の中にまで、切迫した声が届いていた。


 リーゼは拳を握った。


 伝書人として、戦闘の専門家ではない。


 魔法も使える。剣も扱える。普通の兵士よりは、はるかに実戦経験がある。


 だが、この数を相手にできるほどではない。


「何か……」


 リーゼは必死に考えた。


「私にできること……」


 魔法で足止めする。


 結界を張る。


 負傷した兵士を治療する。


 砦と外部の連絡を維持する。


 どれも必要だ。


 けれど、どれも決定打にはならない。


 魔物の数そのものを減らすことはできない。


 集まってくる原因も止められない。


 このままでは、いずれ押し切られる。


「私一人では」


 リーゼが呟いた。


「どうにもできませんね」


「リーゼ……」


 カナタが彼女を見る。


 リーゼが弱音を吐くのは珍しかった。


「ごめんなさい」


 彼女は笑おうとしたが、うまく笑えなかった。


「こういう時に、もっと何かできればいいんですが」


 外で、金属が激しくぶつかる音がした。


 続いて、兵士の叫び声。


 リーゼの拳が、さらに強く握り込まれる。


「伝書人としては、それなりに経験があります」


 彼女は言った。


「でも、この規模になると……」


 言葉が途切れた。


     ◇


 その時。


 カナタは、自分の手を見た。


 魔力。


 自分の中にある、途方もないほど巨大な魔力。


 これまで何度も言われてきた。


 量だけなら異常。


 測定不能。


 普通の魔術師とは比較できない。


 だが、カナタ自身は、それをほとんど使えていない。


 だから今まで、それを大きな力だと思ったことはなかった。


 制御できない、厄介なもの。


 暴れさせれば、周囲を傷つけるかもしれないもの。


 そう考えていた。


 けれど。


「……待てよ」


 カナタが呟く。


「カナタ?」


 リーゼが振り向く。


「俺の魔力」


「はい」


「前に、長距離通信をしたことがあっただろ」


 カナタは思い出す。


 普通なら何度も中継が必要な距離。それを自分は、何十キロも魔力を維持したまま繋ぐことができた。


 大量の魔力を、長時間、広い範囲へ行き渡らせる。


 それなら。


「魔力を大量に使えるなら」


 カナタは地図を見た。


「魔物を倒す必要はないんじゃないか?」


「……?」


 リーゼが首を傾げる。


「集まっている原因が、魔力なんだろ?」


「はい」


「だったら」


 カナタはラグナ山を指した。


「魔力を別の場所へ誘導できれば」


 リーゼの目が大きくなる。


「魔物の群れを」


「動かせるかもしれない」


     ◇


「ですが」


 リーゼはすぐに現実へ引き戻すように言った。


「そんなことが可能なんですか?」


「分からない」


「魔力を使って、魔物を誘導するなんて……」


「やったことはない」


 カナタは正直に答えた。


「でも」


 自分の内側へ意識を向ける。


 深い。


 どこまで続いているのか分からない。


 底の見えない魔力が、静かに、しかし確かに存在している。


「俺の魔力なら」


 カナタはゆっくりと言った。


「できるかもしれない」


 その時、外で大きな衝撃音が響いた。


 作戦室の壁が揺れ、机の上の地図が跳ねる。


「何だ!」


 グレンが扉へ向かって叫ぶ。


 外から返事が飛んできた。


「東側の城壁に大型種が接触! 外壁に亀裂!」


 作戦室の空気が凍りついた。


「被害は!」


「確認中です! 次の攻撃に備えてください!」


 グレンは歯を食いしばった。


「もう時間がない」


 リーゼはカナタを見た。


「……カナタ」


「うん」


「それは、危険なことではありませんか?」


「分からない」


「魔力を大量に使うんですよね?」


「たぶん」


「なら、無理をしてはいけません」


「分かってる」


「カナタの魔力がどれだけ大きくても」


 リーゼは真剣な目で彼を見る。


「身体が耐えられるとは限りません」


「……うん」


「それに、魔物を刺激したら、逆にこちらへ向かってくる可能性もあります」


「そうだな」


「失敗すれば」


「分かってる」


 カナタは静かに頷いた。


 外では、兵士たちが叫び続けている。


「第二防壁、展開!」


「負傷者を下げろ!」


「門前に近づけるな!」


 次の衝撃が来る。


 その予感が、誰の胸にもあった。


「でも」


 カナタは外を見た。


 城壁の向こうには、魔物の群れ。


 砦の中には、治療を受ける兵士たち。


 怯えながら身を寄せ合う人々。


 そして、今も届き続ける報告。


「このままだと」


 カナタは言った。


「もっと怪我人が出る」


 リーゼは黙って聞いている。


「砦も危なくなる」


 また、遠くで咆哮が響いた。


「何もしないで見てるのは」


 カナタは拳を握った。


「嫌だ」


     ◇


 カナタは、自分の中にある魔力を、初めて「力」として考えた。


 今まで、制御することばかり考えていた。


 暴れないように。


 漏らさないように。


 小さく使うように。


 けれど、もしかすると。


 使い方そのものが、違っていたのかもしれない。


「俺の魔力は」


 カナタが言う。


「普通の魔法を強くするだけじゃない」


 リーゼが黙って聞いている。


「普通の人には魔力が足りなくてできないことを」


 カナタは、ラグナ山の方角を見た。


「俺なら、できる可能性がある」


 長距離通信。


 大規模な魔法。


 広い範囲での長時間の維持。


 これまで少しずつ見えてきた、自分の魔力の特殊性。


 そして今回、初めて。


 それを誰かを助けるために使えるかもしれない。


「……やってみたい」


 カナタは言った。


「でも」


 リーゼが答える。


「私も手伝います」


「リーゼ」


「一人ではやらせません」


 彼女は、いつもの伝書人の顔に戻っていた。


 ただし、その目には隠しきれない緊張がある。


「危険なら止めます」


「分かった」


「魔力の流れも確認します」


「うん」


「それから」


 リーゼは、わずかに笑った。


「帰るところまでが任務ですから」


 カナタも笑おうとした。


 だが、外から響いた轟音に、その表情はすぐに消えた。


「それ、いつものやつだな」


「大切なことです」


 直後、伝令兵が作戦室へ駆け込んできた。


「副隊長! 東側の外壁に大きな亀裂! 次の攻撃で破られる可能性があります!」


 グレンが振り返る。


「魔法兵を全員、東側へ回せ!」


「すでに向かわせています!」


「足りない!」


 グレンの怒声が響いた。


「何としても持たせろ! 夜明けまで、絶対に持たせるんだ!」


 カナタは、地図の上に置かれたラグナ山の印を見つめた。


 夜明けまで。


 それだけの時間すら、残されていないかもしれない。


     ◇


 その夜。


 ハルディア砦の城壁から、二人は外を見ていた。


 魔物の群れが、月明かりの下で蠢いている。


 無数の影が、城壁の前で押し合い、唸り、時折こちらへ突進してくる。矢が放たれ、魔法が炸裂し、何体かが倒れる。


 だが、後ろから次の魔物が押し寄せてくる。


 倒した数より、増える数の方が多い。


 そのさらに向こうに、ラグナ山がある。


 山の奥から、青白い光が空へ伸びていた。


 光は先ほどより強くなっている。


「……あれが原因」


 カナタが呟く。


「おそらく」


 リーゼが答えた。


 城壁の下で、兵士たちが慌ただしく走り回っている。


 誰かが「大型種が動いた」と叫んだ。


 別の場所では、負傷者を運ぶ担架が通り過ぎる。


「明日」


 リーゼが言った。


「うん」


「魔力を使ってみますか?」


「うん」


 カナタは自分の胸元に手を当てた。


 そこには、青い羽根がある。


 いつもより、少しだけ温かい。


 そして、ラグナ山の方向へ向けた瞬間。


 羽根が淡く光った。


「……」


 カナタは息を止めた。


「今」


 リーゼも、それを見ていた。


「光りましたね」


「うん」


 ほんの一瞬。


 青い光が、羽根の中を走った。


 まるで、山の奥にある何かへ呼びかけるように。


 その直後、ラグナ山の方角から、地鳴りが響いた。


 魔物たちが一斉に顔を上げる。


 城壁の上にいた兵士たちが、息を呑んだ。


「……カナタ」


「何?」


「もしかすると」


 リーゼはラグナ山を見つめた。


「今回のことは、魔力だけの問題ではないのかもしれません」


「……」


 カナタも山を見る。


 青白い光。


 集まる魔物。


 反応した青い羽根。


 そして、自分の中にある巨大な魔力。


 それぞれが、偶然そこにあるとは思えなかった。


 青い羽根が光った瞬間、ラグナ山の光もまた強くなった。


 まるで遠く離れた二つの何かが、互いの存在を確かめ合ったように。


 羽根は、カナタの手の中でかすかに震えていた。


 その震えは、恐怖ではない。


 呼びかけに応えようとしているようだった。


 だが、考えている時間はもうなかった。


 城壁の下で、警鐘が激しく鳴り始める。


「魔物、総攻撃です!」


 兵士の叫び声が響いた。


 群れが一斉に動き出す。


 地面が揺れ、無数の足音が重なった。


 その瞬間、青い羽根が再び光った。


 今度は、先ほどよりも強く。


 光は羽根からカナタの腕へ走り、胸の奥へ沈んでいく。


 同時に、ラグナ山の青白い光が大きく脈打った。


 山の奥から、何かが目を覚ましたような気配が伝わってくる。


 カナタの中で、巨大な魔力が初めて明確な意思を持って動いた。


 押し込めていた力が、呼び声に応じて、ゆっくりと広がっていく。


「カナタ……!」


 リーゼが叫ぶ。


 カナタは答えなかった。


 答えられなかった。


 視界の先で、魔物の群れが迫ってくる。


 その向こうで、ラグナ山が青く燃えている。


 そして手の中の羽根が、まるで帰る場所を示すように、山へ向かって光の筋を伸ばしていた。


 何かが、カナタを呼んでいる。


 あるいは。


 カナタの力を、待っている。


「まずは」


 カナタは、震える息を吐いた。


「砦を助けよう」


「はい!」


 二人は城壁の上に並んで立った。


 次の瞬間、魔物の群れが城壁へ殺到する。


 カナタは、青い羽根を握りしめた。


 これまで一度も、本気で使ったことのない力。


 制御することすら難しかった、巨大すぎる魔力。


 それを初めて、「誰かを守るため」に解き放つ。


 羽根の光が、さらに強くなる。


 ラグナ山の奥で、何かが応えた。


 果たして、カナタの力は砦を救えるのか。


 青い羽根は、何をラグナ山へ導こうとしているのか。


 そして、山の裂け目の向こうには、何が待っているのか。


 カナタが魔力を解き放った瞬間。


 夜の世界が、青い光に呑まれた。

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