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本能寺を変えるため、織田信長の家臣になった。 ~歴史を知る俺は、天下人を死なせない~  作者: 春野ケイ


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第十話 清洲への召集

 秋風が田を渡り、黄金色に実り始めた稲を静かに揺らしていた。


 宗助はいつものように街道を巡回していたが、どこか胸騒ぎを覚えていた。


 ここ数日、清洲へ向かう早馬の数が目に見えて増えている。


 兵糧を積んだ荷車も後を絶たない。


(もう……近い。)


 宗助だけが知っている。


 歴史は待ってくれない。


 桶狭間へ向け、尾張全体が静かに動き始めていた。


「宗助。」


 弥吉が前方を指差す。


「早馬じゃ。」


 一騎の馬が土煙を巻き上げながら一直線にこちらへ向かってくる。


 宗助と弥吉は道を空けた。


 馬は二人の前で止まり、騎乗した武士が息を整える。


「源四郎殿はおられるか。」


「村にございます。」


「急ぎ案内いたせ。」


「承知しました。」


 宗助は武士を先導し、村へ戻る。


 広場へ着く頃には源四郎も姿を現した。


「ご苦労。」


「清洲より急ぎの命にございます。」


 武士は書状を差し出す。


 源四郎は封を切り、静かに目を通した。


 その表情がわずかに引き締まる。


「皆、集まれ。」


 太鼓が打ち鳴らされ、足軽たちが次々と集まってくる。


 誰もが源四郎の表情を見て、ただ事ではないと悟っていた。


「お館様より命が下った。」


 静まり返る広場。


 源四郎は力強く告げる。


「兵の召集じゃ。」


 その一言だけで、空気が変わった。


 村人たちも作業の手を止め、不安そうな表情を浮かべる。


「全員ではない。」


「まずは選ばれた者だけが清洲へ向かう。」


 源四郎は紙を広げ、名を読み上げ始めた。


「弥吉。」


「はっ。」


「喜兵衛。」


「はっ。」


 宗助は静かに拳を握る。


 呼ばれるだろうか。


 まだ早いだろうか。


「……宗助。」


 一瞬、時間が止まったように感じた。


「はっ!」


 思わず声が大きくなる。


「明朝、日の出前に出立する。」


「武具を整えよ。」


「承知いたしました!」


 宗助は深く頭を下げる。


 ついに来た。


 ただ村を守るだけではない。


 織田家の兵として、初めて正式な召集を受けたのだ。


 歴史が大きく動く場所へ、自分も向かうことになる。


 解散の後、弥吉が肩を叩いた。


「緊張しておるな。」


「分かるか。」


「顔を見れば分かる。」


 二人は小さく笑う。


 しかし笑顔はすぐ消えた。


「宗助。」


「何だ。」


「生きて帰ろう。」


 その言葉に宗助は静かに頷く。


「ああ。」


「必ず。」


 夕暮れ。


 宗助は小屋へ戻り、槍を磨き始めた。


 穂先へ映る自分の顔。


 転生した日より、少したくましくなった気がする。


 だが、まだ始まりに過ぎない。


 清洲には信長がいる。


 そして、その先には桶狭間が待っている。


 宗助は槍を握り締めた。


(信長公。)


(必ずあなたを救う。)


(そのための第一歩が、明日始まる。)


 出立の日。


 まだ夜が明けきらぬうちから、村は静かな緊張に包まれていた。


 宗助は槍を背負い、陣笠を被る。


 革具足の紐を結び直し、腰の小刀を確かめた。


 これまでの鍛錬とは違う。


 今日は初めて、織田家の兵として清洲へ向かう。


 小屋を出ると、弥吉が待っていた。


「眠れたか。」


「少しだけ。」


「皆そうじゃ。」


 弥吉は笑ったが、その表情にも緊張が滲んでいる。


 二人が広場へ向かうと、すでに選ばれた足軽たちが整列していた。


 源四郎が一人ひとりの武具を確かめていく。


「槍。」


「異常なし。」


「陣笠。」


「異常なし。」


 宗助の前で立ち止まる。


「宗助。」


「はっ。」


「初陣ではない。」


 宗助は首をかしげる。


「まだ戦にはならぬ。」


「まずは兵として命を守ることを覚えよ。」


「承知いたしました。」


 源四郎は静かに頷いた。


「その心を忘れるな。」


 やがて村人たちが集まり始める。


 母親たちは握り飯を手渡し、老人たちは黙って見送っていた。


 子どもたちは不安そうな顔で父や兄の袖を握っている。


 宗助はその光景を見て胸が締め付けられた。


(戦とは……。)


(こういう人たちの日常を奪うものなんだ。)


 歴史書には載らない景色だった。


 それでも、この時代を生きる者にとっては当たり前の日常だった。


 源四郎が槍を掲げる。


「出立!」


 一行はゆっくりと歩き始める。


 村人たちが深々と頭を下げる。


「どうかご無事で。」


「皆、帰ってきてくだされ。」


 その声を背に受けながら、宗助は一歩ずつ街道を進んだ。


 朝日が昇り始める。


 黄金色の光が尾張の田畑を照らしていた。


 街道には同じように清洲へ向かう兵たちの姿が次第に増えていく。


 槍を担ぐ者。


 弓を背負う者。


 荷を運ぶ者。


 誰も大声では話さない。


 ただ黙々と足を進めている。


「見てみい。」


 弥吉が前方を指差した。


 街道の先には、多くの兵が列を作っていた。


 これまで村で見てきた人数とは比べものにならない。


 宗助は静かに息をのむ。


(これが……。)


(織田家の兵。)


 戦国乱世。


 歴史の大きなうねりの中へ、宗助は今、確かに足を踏み入れようとしていた。


――あとがき――


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。


 今回は宗助が村を離れ、織田家の一兵として本格的に動き始める節目を描きました。戦場へ向かう兵だけでなく、それを見送る村人たちの思いも感じていただけたら嬉しいです。


 次回はいよいよ清洲へ到着し、織田家の本拠地で新たな出会いと役目が待っています。物語もここから大きく動き始めます。


 「続きが読みたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想、レビューで応援していただけると、とても励みになります。


 これからも史実への敬意を大切にしながら、戦国の世界を丁寧に描いてまいります。よろしくお願いいたします。

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